第十話「声―②」
思わず右によけた。すると、コメカミのすぐ横を突き抜けて鉛玉がアスカの耳をかすめる。仕方なくアスカは距離をとり、刀を正眼に構える。
「……フラン……お前」
「くっ……」
すぐに、フランは別の敵に切りつけられそうになり、転がりながら回避する。戦いながらも、ヴァンに話しかける。
「よそ見してんじゃないわよっ‼ このバカっ‼ わっとと‼ このっ! 話の途中だって……っの‼」
目の前の四、五人を連続回し蹴りで吹っ飛ばしながら、確実に弾丸で仕留める。
「ヴァンッ‼ 負けたら承知しないわよ‼ 見せてくれるんでしょ? あの日の光を……もっとっ‼」
人の気も知らないで……ヴァンの過去もほとんど知らない女が、好き勝手に責任を押し付けてくる。
「男がいつまでも過去引きずってるんじゃねぇよ‼ レヴォルはテメェが起こした旗だろうが‼ ――――地獄なら一緒に見てやるからよ」
今度はガイウスが檄を飛ばす。その手に持ったアサルトライフルで弾丸をまき散らしながら、豪快な声を上げて……。
「お前ら……」
ヴァンが、二人の戦いを呆然とその戦いを見つめていると、アスカが首を狙って突進してくる。
「あ――――」
――――これは仕方ない。油断してしまったんだから。
そんな弱々しい言い訳とは裏腹に、その一撃をはじき返し、杖の先端をアスカの腹に沈ませる。苦しそうに血を吐きながら、距離をとるアスカに、なぜか戸惑うヴァン。
――――なぜ死ねない?
――――なぜ死にたいのに、俺は抵抗しているんだ?
――――おとなしく切られればいいだろう。ご丁寧に急所を的確に狙ってくれてるんだ。
――――なぜ逆らってしまうんだ?
――――わかってるはずだろ? この世で最も許せないのは、自分自身だと。
「――――い」
――――だが……。同時にわかっていたはずだ。
「――――ない‼」
――――あの日、フランと見たあの光が…………どうしようもなく美しかったんだ。
「俺は――やっぱり……こんなとこで、死ぬわけにはいかないっ‼」
――――みんな。すまない……だが、もう少しだけいいだろ?
――――俺がいずれ、力尽きたとき……笑い話ついでに、これから何度も見る解放の光の話を土産にしてやるから……その日まで待っててくれよ。
『ふぅ……どうせなら、僕との熱い恋で目覚めてほしかったけど』
「わかってんだろ? クレア。……テメェだって自分をずっと許せなかったんだって」
『……そうだね……そう。口では生きろ……なんて言ってても、……僕も死にたがってた。そりゃ僕の言葉は届かないよね』
クレアはただ、ヴァンに生きててほしかっただけ。自分は死んでいてもいいと思ってた。
だからヴァンも同じだ。クレアは生きててほしかった。
だから、仕方ない言い訳がなければ、死ねず……死にたがりの生霊が出来上がってしまった。言い訳がなければ死ねない亡者に……。
だけど、絶望に落とされても、なお輝きを失わない存在によって、その思いは自由への渇望に変わった。
そして……フランという存在と、ヴァンの本当の能力が、ヴァンの物語を変えた。
本来、ここでアスカがヴァンの心をくみ取り、死を与えるはずだった未来を……フランという一つの因子によって変わった。
「――――助けた奴隷に諭されるようじゃ、テメェもまだまだ弱いってことだな……」
『そうだね……だからまず』
その姿を見て――――アスカはゾクリと身を震わせた。一度現れたクレアは赤い渦となって、ヴァンの右腕に戻る。その様子は、さまよえる亡者ではなく一人の戦士だった。
「『目の前の敵を、ぶっ殺そうっ‼』」




