第十話「声―①」
――――声が聞こえる……初めて聞いたはずなのに……何度も聴いた声が。
*** 5年前 ヒルデブランド ***
「ヴァン……だ……大丈夫?」
折れた剣を捨て、あたりを見渡す。
「……くっ‼」
生き残ったヴァンだったが、反乱軍の拠点であるヒルデブランドは燃やされ、もはや戦う意味もなくなった。
反乱軍は……壊滅した。
「生き残った者は!?」
「…………いると思う? ……いたとしても……ホラ」
クレアが指でさす先には、奴隷を運ぶ馬車がヒルデブランドの住民を運んでいた。
「…………」
その中の一人の少女が強くこちらを睨んだ。恨んでいるようで……力強いその瞳。
「すまない……俺が……弱いから…………」
「違うよ……弱いのは僕達さ……」
村まで歩くと、焼け焦げた多くの家と、死体の山があった。
「ッ……酒場が…………ッ‼」
――――俺は……もう眠ってもいいよな? そうだろ? サラ――――。
――――仲間が死んだ。あまりにも多くの仲間が……。自分の慕った師でさえも、死に絶えた。先の大戦での犠牲は計り知れないものだった。
『ヴァンは……死んだ仲間に会いたい……戦いから解放されたい……。だけど、ただ解放されるだけじゃ皆に申し訳が立たない。だからフランを救ったんでしょ!? 違う!?』
「違う……お、俺は……」
――――ただ一つ、奴隷を一人救ったという言い訳ができれば十分だった。
ヴァンは何より、自分の事を嫌っていた。仲間を助けられなかった自分。何人も目の前で死んでいった苦しみ。弱い自分。この世で一番殺してやりたいのは、ジークヴェルトの支配者でも何でもない。
唯一殺したい男は……ただ一人許せない神の仔は……最初からわかっていた。
――――ヴァン=リベリオンだ。
「――――許せるわけねぇよ」
『おら‼ 今日はテメェの快気祝いだ‼ 飲め飲め‼』
――――最初に戦友になった男は、首を切り落とされた。
『ひゃははっ‼ なんだよヴァン‼ からかわれて真っ赤になってんじゃねーよ。いいじゃねーか‼ 右腕が恋人でもさ』
――――師とあこがれた男は、体中が銃弾で穴だらけになって川を赤く染めた。
『わかってる……ヴァンはクレアが好きだって……だけど、だけど私もどうしようもなくヴァンが…………アンタが好きだったのに――――』
――――クレアの事を知りながら、それでも恋に落ちてくれた酒場の少女は……凄惨な拷問を受けた後、炎の中、すべてに絶望して首を吊った。
そのすべての原因は――――ヴァンが、弱いからだった。
幼い……なんて言い訳に過ぎない。ただ弱いから目の前の人を守れなかった。
相手の方が多勢だ……そんなのも言い訳だ。そんなことは最初からわかりきったことで、自分がもっと強ければ、みんなが死ななかったという現実は変わらない。
「――――なんで生きてられるんだよ……みっともねぇ‼ みじめったらしく生き恥さらしてねぇで、さっさとくたばりやがれっ‼ 恥ずかしくねぇのか⁈ 頭イカれてんじゃねぇのか!? なんで俺は……まだ生きてんだよ……」
イリーナがヴァンを試した時、ヴァンが認めなかったのは……レオンから逃げなかったから。みじめでも、苦しくても、生きることから逃げずに、抗うことをしなかったから。逃げることより、目の前の死を選んだから。
そう……イリーナが仕掛けた戦いの勝敗は、そもそも意味なんてなかったのだ。抗い戦い続ける。そのために逃げてでも生き延びる。無論、勝てるならそっちの方がいいが、永遠の時を戦い続ける覚悟より、「レオンハルトと戦ったんだから、死んでも仕方ない」という言い訳に逃げた。
「……当たり前だろ? そもそも、君も俺も……本当はわかってるんだ。……あの戦争で、俺達は……死んでるって」
――――だから、死は怖くない。
怖いことがあるとすれば……これから先、自分の目の前で誰かが死ぬことだ。それは自分の死より苦しく恐ろしいこと。
『僕達は……生きてなきゃいけないんだよ……』
「それは無理だ……」
なぜなら、ヴァンもクレアもとっくの昔に死んでいるから。
ジルートも言っていた言葉。それはヴァンが、ずっと考えていた真実。
――――心臓もない。血も自分のものではない。自分の体だけでは血液を流すことはできない。腹を貫かれても体内で修復可能。まさに動く屍。そんな自分が本当に生きているのか? そんな化け物……。
――――だったら、もういいだろ?
――――これ以上、何回傷つけばいいんだ?
――――自分のできることはもうやった。
――――奴隷を一人解放した。俺のできることなんて、所詮その程度。
――――彼らが生きながらえる道は、レオンハルトが叶えてくれるだろう。
――――それならば、こんな醜い化け物は必要ないだろ。
――――よけてっ‼




