第九話「死神の武装―③」
ヴァンは槍モードに切り替える。遠心力を利用して上段から一撃を加える。アスカはそれを回避しながら切り上げる。その一撃をかわして鉄の右腕で胸倉をつかみ蹴り上げる。
「がっ‼」
アスカは、無様に空に打ち上げられる……ように見えた。
『ヴァンッ‼』
頭部に衝撃が走る。先読みしていたが、それよりも早くアスカの鞘が、ヴァンの側頭部を打ち付けていた。
「くっ‼」
鞘の一撃……まるで二刀流のように鞘を左手に持ち、再び襲い掛かる。槍でいなしながらも反撃の機会をうかがう。
「ここからかっ――」
二刀流が、アスカの本領……そう考え、左の鞘側から攻撃を仕掛ける。鞘ならダメージも少ない。が、すぐにそれが過ちだと気づくことになる。
「なっ……ぐぁ‼」
圧倒的なスピードで繰り出される鞘の連撃。たまらず距離をとるも、早すぎて離れることができない。
「隙ありっ‼」
アスカとヴァンの後ろから、二人ずつの兵士が襲い掛かる。
「「――――邪魔すんなよ」」
――――だが、まるで最初から予知していたように、二人の刃は兵士達の首を掻き切った。
「な……なんだ? 振り返りもせずに我が兵士を二人も……」
「――――その程度の実力なら最初っから、あの二人とは戦わない方がいいわよ……最も、そのお腹じゃ、死んでるだろうけど」
イリーナの放った閃光が、その男の胴を貫いた。脳がそれを知覚するまでもなく、男は崩れさる。
「おー‼ やっぱ、ごっつ強いなぁ! 二人とも気配だけで敵の動きを察知してるやん」
周囲が、湧いている間も剣戟は続く。けたたましく鋼の音が鳴り響き、赤い刃がきらめきを放つ。
「……ちっ」
だが、相手の動きが速すぎる。特に鞘だ。アスカは鞘をあえて短く持つことで、一撃のスピードを上げていた。いくら鞘と言っても鉄ごしらえだ。普通に骨くらいなら折れる。
それならばと槍を杖モードに変形させて長さを短くし、相手の鞘をはじき返す。だが鞘ばかりに気をとられると、容赦ない袈裟切りが放たれる。伏せて回避するが、髪が少し切れるほどギリギリだ。バックステップで距離をとるものの、さらに強い殺気をヴァンは感じる。
「桜花一閃ッ‼」
一陣のつむじ風のような一撃が、ヴァンを襲う。その体がまるで人形のように軽々と吹っ飛ばされる。
「くっ! このままで終われるかよっ‼」
ヴァンは赤い翼を広げ、再びアスカに向かっていく。大鎌を上段から切り下すが、その一撃をかわしつつ柄でヴァンの腹をえぐるように打つ。
「えっ!?」
だが、手ごたえがおかしい。間違いなく鳩尾を打ったはずなのに、反動が弱い。
「がっ‼」
その思考の隙をついて、ヴァンの回し蹴りが側頭部に命中する。完全に不意を突かれて吹っ飛ばされる。さらにヴァンが追撃する。大鎌から槍へと変形させて、その無防備な足を狙う。
「っ‼」
だが、ふっとばされつつも、かかと落としのように槍先を蹴落とし、その力を利用してくるりと反転し、地面に着地する。
「っはぁ……はぁ……危なかったわ。ヴァン。あなた心臓だけがやられたわけじゃないのね」
「あたりめーだろ。心臓の大きさっつーのは握りこぶしよりやや大きいくらい。その心臓をロングソードで貫かれたんだ。他の臓器……特に鳩尾のようなところはイカれてて当然だろ?」
刃が細いレイピアや刀ならともかく、ヴァンはロングソードで貫かれている。狙いも完全に心臓の中心を穿ったわけではない。そう考えれば、心臓だけがなくなっているわけではないとわかる。
「…………」
「なんだ? 女お得意の同情でもしたか?」
「……違うわ。ただ……何となくあなたが、レオンに勝てない理由がわかっただけ」
その言葉に対して、ヴァンは無言で返す。
「何も言い返せないの? それとも……何も言い返さないのかしら!?」
その刹那に放たれた一撃は、今までのどの攻撃より重かった。
「ぐっ‼」
思わず怯み、一歩後ずさる。その隙を、アスカは見逃さず鞘で腰を打つ。ならばと、ヴァンはさらにもう一歩右足を下げてカウンターを狙う。だがそれすら読まれて当身でバランスを崩された。
完全に先手を打たれた。負けじと武器を槍モードに切り替え、連続突きでアスカの優勢を崩そうとするが、そのすべての軌道を読まれアイアンクローまで決められる。
「……幻滅したわ」
「ぐがっ‼!」
そのままヴァンは鞘で腹を穿たれる。完全に無防備になったヴァンにアスカの無情の剣撃が迫る。
「――――咲き乱れろ。雪花桜嵐」
その体を、無数の斬撃が襲う。あまりの技に死を覚悟するヴァンだったが、そのすべてを赤い嵐がはじく。
「クレア……」
涙をいっぱいに浮かべたクレアが、ヴァンの前に出現した。だが、その瞳はヴァンを守る優しい瞳ではなく、侮蔑するようなきつい瞳だった。
「――――勝てるわけないじゃない。ヴァンが、そんなじゃ勝てるわけないよっ‼」
「……だけど……俺はっ…………戦わないと」
「戦ってるだけじゃないっ‼ 免罪符のように戦って……その戦場で、死に場所を求めているだけでしょ?」
「っ……そんな……ことは」
声が震えていた。
「……なるほど。てっきり手加減されてるのかと思ったわ」
アスカまでわかったような口をききはじめる。
「まて……俺は…………」
――――いつ死ねるんだ?
「違う。……その目、私は何人も見てきた……死地を求め、さまよう亡者の目。そう……アンタは、ここで死にたいのね」
「っ‼ ……俺は……お……れは…………」




