第二話「黒の奴隷―②」
「ここが、革命軍……の村?」
「そだよー」
革命軍と言うからには殺伐としていて、血気盛んな男達ばかりで、むさ苦しい場所かと思ってた。だが見た感じはちょっとした村か集落のような感じで、商売人は果物を売り、武器屋は客を呼び込み、子供はボールで遊んでいた。
そして何より女性が多い。男性も決して少なくはないが、比率では八割ほどが女性と言った様子だ。
また、獣人の比率もすごい。村を歩くたびに獣の耳をした者かエルフばかりとすれ違う。それだけに、ヴァンとクレアは基本的な人の形で、逆に浮いているくらいだ。
「あ……」
中には、奴隷の首枷をつけているものもいた。そのほとんどが生き残ることすら難しいはずの黒奴隷か白奴隷。そう考えると、このアンバランスな比率にも説明がつく。
現国家への抵抗の意志を持っているのは、その多くが奴隷か、その家族と相場は決まっている。だったら、獣人のような身分の低い人物。または女性のような力の弱い人間が、そのほとんどを占めるのは不思議な話ではない。
現にフランツェスカは熊型の獣人だ。しかも、今つけている首輪は黒。そして若い女の子。まさに人口密度の平均そのままだ。
「その服、なかなか似合ってるじゃん。ちゃんと村人っぽくなってるよ?」
「……そ、そうかな?」
奴隷になってからメイド服しか着ていないフランツェスカにとっては、別の服は新鮮な感覚だった。
牛革のコルセットに、白のシャツが理想的なボディラインを描き出し、赤いロングスカートで隠れた脚が歩くたびにチラチラと覗かせる。
長く伸びた髪をラフカールであえて跳ねさせることで、個性的な魅力を際立たせ、服のおとなしさとのギャップを魅せる。……と、クレアは自身のファッションセンスを自慢していた。
ちなみに、首枷はいつでも隠せるようにインナーはハイネックのものをチョイスしていた。村の外にも活動範囲が及ぶため、他の住民とは違い少し違う待遇だった。
「何をしてる。行くぞ」
「は、はい」
ヴァンが急かすとフランツェスカは走ってヴァンのいる場所へと向かう。だが、そこは女性が行くには、あまり馴染みのない場所だった。
「ここ……武器屋?」
戸惑うフランツェスカを置いてきぼりにして、ヴァンはさっさと木造りの店内へ入っていく。遅れてフランツェスカ、クレアも入ると、最低でも二メートルはある巨漢のスキンヘッドが、磨いていた剣を置いてニヒルな笑みを浮かべた。
「おお! “右腕が恋人”のヴァンじゃねぇか‼」
「ぶっ‼」
フランツェスカが思わず噴き出したその刹那、電光石火の如くヴァンは店主であろう巨漢の胸ぐらを恋人で掴んだ。
「貴様……その呼び方はやめろと言ったはずだ‼」
「み……右腕が……こ、恋人…………ぷくくくっ」
フランツェスカは笑ってはいけないと思いながらも、こらえきれなかった。ご主人様の残念な一面を見てしまったような……というかクールで闇を抱えてそうなこの男が、そういう趣味を持ってる。その意外性がフランツェスカのツボを突いた。
「おおー‼ フランツェスカ笑ったね‼」
そんなフランツェスカが笑うところを見て、嬉しそうに目を輝かせるクレア。だが、そのクレアを見て一つの疑問がよぎった。
“右腕が恋人”って事が真実ならば、少なくともヴァンには恋人はいない。右腕が恋人って事は、夜な夜な右手と仲良くナニかを、全力でシコシコするアレの事だろうという程度の性知識はフランツェスカでも持ってる。
――――だったら、クレアとヴァンの関係は一体、何なのだろうか? 兄弟とも取れるがそれにしては距離感が近い。
「お前の剣だ」
考え込むフランツェスカの前に、ショートソードが差し出される。それを受け取ると、想像以上に重く、フランツェスカの腕にズッシリとのしかかる。
「こいつなら使えるだろう。お前にやる」
「え……で、でもご主人様」
こんなものいただけませんと続けるつもりが、その言葉はヴァンに遮られる。
「命令だ。受け取れ。あと俺の事はヴァンと呼べ」
主従関係で呼び捨てなんて難しいと言いたいところだが、命令されてしまうと奴隷として従うしかなくなってしまう。
「気にしなくていいよ。剣は、ただの必要経費だしねー。あとヴァンは、チョー恥ずかしがり屋だからご主人様なんてよぶぐぇ!?」
脳天に拳骨がめり込み、クレアの頭蓋が何センチか凹んだような気がする。
「ちょっとヴァン!? その右手で殴るとすっごく痛いんだからね!?」
たしかに、ヴァンの右手は機械でも埋め込まれているかのような鋼鉄の籠手と思われるものがついている。肩口から指先に至るまでメタリックな素材で、かなりに重そうだ。
……恋人の右腕にたいして、やたらと過保護にも見えたが……さすがにその程度の理由で、あんな重そうなガントレットはつけないだろう。
「くっ……とにかく、お前はそれで身を守れ。いいな」
「? ……はい」
ヴァンはなぜか鋼鉄の右手の甲のあたりを撫でていた。だが、この時のフランツェスカは、その理由まで考える余裕はなかった。




