第九話「死神の武装―②」
ベルンブルグの城壁の前。
そこには、数千ほどの軍隊が現れていた。
対するはヴァン、フラン、ガイウス……そして、イリーナとリー。ライネルは戦闘が苦手なため、城壁の上でこちらの様子を戸惑いながら伺っている。
戦闘態勢に入るジークヴェルト軍に、身構える三人。だが、それをとどめるかのように、アスカが剣を抜き放つ。
「誰も手を出すな……私一人でいい」
アスカが前に出る。それに応じてヴァンも歩み寄る。
「ヴァン=リベリオンですね。私は、あなたと一騎打ちを申し込みます」
「一騎打ちだと?」
アスカが強く頷く。澄んだ水の瞳が、まっすぐヴァンの紅の瞳に映る。
「私が勝ったら、反乱軍残党は、ジークヴェルト王国管理とし、私が責任をもって守ります。レオンハルトの私軍として、奴隷反対派としての活動に手伝っていただきます……。敗北の可能性が高い革命軍とやらにかけるより、はるかに平和的で確実な方法だと思いますが?」
その提案は、フラン、そしてガイウスにとっては、確かに魅力的な案ではあった。自身が死ぬ可能性は格段に減り、しかも奴隷反対派ということは、奴隷ですらなくなるわけだ。……死ぬのはヴァンだけでいい。
「お断りします」
それを即座に断ったのはフランだ。続いてガイウスが答える。
「明日香のじょーちゃんでも、その言葉は聞けねぇ。そんな覚悟で来ちゃいねえんだ。俺達はよ」
「あなた達のプライドや覚悟は関係ありません。最悪、一時的に私の奴隷になっていただくことも考慮していますので」
「……それは、レオンの承諾はもらってんのか?」
ふっと笑うと、アスカ首を横に振る。
「怒るでしょうね……きっと。でも、私もあなた達の話を聞いた以上、なりふり構ってはいられないんです。安心してください。ヴァン=リベリオンについても、手加減ができればあなた達と同じ処遇にさせていただきます」
「なるほど……」
確かに、これまでの経緯を考えれば、奴隷解放のための政治的な武器になるかもしれない。とにかく奴隷を解放しろっていうだけより効果的だ。その言葉に、ヴァンは少し安心した。
「その一騎打ち。受けてやる」
その手の杖を敵に向ける。……だが、それと同時にアスカの後ろの兵士達が剣を抜いた。
「なっ……! どういうつもりですか‼」
「アスカ様こそ、何を勝手なことを言われているのですかな? この作戦は、反乱軍残党の殲滅と、ジークヴェルトを裏切ったベルンブルグ市民の殲滅ではありませんか」
「あなた達……っ‼」
フランに剣を向けた兵士がアスカの静止を振り切って突進する。だが、そのメットがひしゃげるほどの一撃を与えたのはリーだった。
「へっ‼ 一騎打ちしかけとんのに、そない卑怯な真似させへんで‼」
「リー様‼ 本当に裏切る気ですか‼」
「んー……まっ! そうなってもええわ‼ こないなマネする奴らと組むくらいなら、裏切ったほうがマシや」
右拳を左手で受け止め、ニヤリと笑う。隙を突こうとした足元の兵士の腹を踏みつぶし、完全にダウンさせる。
「はてさて……ここで裏切ったところで、レオンハルトはどっちの味方をするかしら? ……試してみるのも悪くないわね」
イリーナもまた、ジークヴェルト兵の前で、ブロンドの髪をなびかせる。
「イリーナ様……それこそ言語道断です。騎士団長様より、我らが神。元老院の方々のほうが命令権ははるかに上です」
元老院……ジークヴェルト国王を含めた、この国のあらゆることを決定する最高組織。ただし、ジークヴェルト国王含め、その名前を知る者は誰もいない。レオンハルトはその直下の騎士団団長に過ぎない。
「よくもまぁ、名前も知らない国王の言うことを聞けるものね……いい加減うんざりしてきたし……今回は、明日香の味方をしようかしら」
「……イリーナちゃん」
アスカの味方をする……。あくまでヴァンを味方とは認めないというわけだ。
「安心しなさい。明日香……少なくとも、私はあなたの味方よ」
「……うんっ‼」
そして、アスカはまっすぐ刀をヴァンに向ける。
「……行くぞ」
アスカの刀を、ヴァンの杖が防ぐ。そして受け流し、肘打ちを顎に決める。だが、その勢いを利用してアスカは一回転して横薙ぎを放つ。それをバク転でよけ、杖をまっすぐアスカに向ける。
「炎の矢」
魔法で放たれた炎の矢は、まっすぐアスカの右目に向かう、それを一閃で切り払い間合いを詰める。アスカは相手が杖ならば、接近戦では刀のほうが有利。そう考えてまっすぐ進む。
「っ‼」
刹那、アスカの背筋に悪寒が走る。垂直に飛びその予感を回避する。直後赤い死神の一閃が、空を切った。
「ちぃ‼」
「!? ……赤い刃の大鎌!?」
しかし、その大鎌はさらに変形し、槍へと変わる。空中にいるアスカを赤い槍がその肩を狙う。その槍をかわし、まっすぐヴァンの脳天に刃を打ち下ろす。
その一撃を、回転した槍がはじき返す。そして、その槍が短くなり、再び杖に戻る。赤の矢が襲い掛かる。
「くっ」
鋼の刃が、その魔術を打ち落とし再び膠着状態に持ち込む。
「……何なのあの武器……槍になったり、鎌になったり……普通、あんなギミック作ったら武器は脆くなるはず……でもそんな様子はない」
そう……だから、サングエアルマは脆い。
だが、それはクレアがいることで解決する。クレアの血は、刃になるほど硬質化させることができる。いや、むしろ硬質化を調整することで、槍のしなりや、鎌の胴体を切り伏せる強さにもなる。その武器に適した強度へと変質させることも可能。
しかも、携帯中は血を抜いているから驚くほど軽い。ヴァンのような行動範囲の広い戦士には持ってこいの武器というわけだ。
「ヴァンの強さは血を変則的に変えるクレアの力。それを殺さず解放するためには、武装もまたあらゆる形に変化させる必要がある。通常そんな機構を詰め込めば、武器としては強度が低く、使い物にならないが、内部フレームに血を流し込めば、素材調節可能な理想の武器になる。ゆえに槍にも鎌にもなる」
槍は突き刺すものではなく、しなりを生かして叩くものだという。突き刺す力も当然強いが、長くしなやかな槍の強打は、岩をも軽々と砕く圧倒的な破壊力がある。
だが、しなりすぎると大鎌の切り裂く力が失われる。なので、通常は長さや太さ、素材を変えるものだ。それを変質させることができるとなれば、どちらも最高の素材で作られた武装となる。まさにヴァンにしか扱えない最強の武器だ。しかも、本来は弱点の血の武器の脆さがサングエアルマ自身が補っている。
「……俺にはもったいない出来だな……まったく」
ヴァンはそう呟くと、もう一度アスカに眼光を向けた。
「……?」
ただしアスカには……その目は、違和感しか感じなかった。




