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第七話「過去の自分と目の前の自分―②」

「……ありがとうな……さっきは助かった」

『ううん。気にしないで』

 ……リーに後ろをとられた時、とっさに彼の一撃を防いだのはクレアだった。本来、ヴァンはあの瞬間負けていた。あの瞬間にクレアがとっさに血の防壁で防御していたおかげで助かった。

「……情けねぇ話だよな。二人でなきゃ、あんなガキにも勝てないなんてよ」

『違うよ。ヴァン……僕達は二人で一人なんだ。……僕は、君の右腕だからね』

 その言葉に勇気づけられ、再び大地を蹴る。ヴァンは蛇行しながら相手に詰め寄る。相手が音もなく走るなら、無理に突進すれば相手が右、左、どちらかに攻められたら後ろをとられやすい.蛇行しながらなら、相手がいかに早く動こうが、後ろをとるのは難しい。

 万が一後ろをとられようとも、クレアが守る。リーは一瞬でそこまで読み切り、一歩下がる。正面から受け止めるほうが、自分のペースに持ち込める。迎え撃つためにさらに右脚を下げて拳を構える。

「はぁっ‼」

「うおぉ‼」

 同時に右拳が前に出る。リーのクロスカウンターがヴァンの頬に向かう。


『悪いね、少年。僕達には勝てないよ』


 ヴァンの頭に拳がぶつかる瞬間。小さなシールドがリーの拳を防ぐ。


『えぇ!?』


 それでもなお、リーの拳は止まらない。シールドを貫通し、勢いは弱まるが人を昏倒させるには十分だ。


 ――――衝撃。クロスカウンターで激しくお互いの頬に拳がぶつかり、衝撃波で空気を揺らし、草木を揺らす。




 ――――わりぃな、少年。この拳は、二人分なんだ。




「がっ――――」

 右拳から、勢いよく血が噴き出す。その血は拳となって、リーの体を吹っ飛ばすほど一撃をあたえた。

 リーの体はバウンドしながら後方に落ちる。

「ふぅ……勝ったか」

 どさりと、少年の体が地に伏す。改めてとんでもない力を持った四勇者の一人に勝ったことに安堵する。

 そしてゆっくりと、目を回して倒れるリーの元に近づく。




 ――――ゾク。




 その冷たい感触に脊髄反射で大きく体を反る。その鼻先をリーの拳がかすめた。あと数秒反応が遅ければ、ヴァンはそのアッパーを食らっていた。まさか、まだ意識があるのか? 構えてリーの目を睨む……が。


「きゅぅ~~……」


「は?」

 ……リーは間違いなく気絶していた。まるで拳を天に掲げるようなポーズで……そのまま後ろに倒れた。

『……なんて子なの?』

 ……気絶してもなお、闘争本能が体を動かした……そんな感覚だった。ヴァンとクレアは、ともにリーの底知れぬ可能性に恐怖した。

「……すげぇだろ? リーは」

 その声の方に顔を向ける。ガイウスが、フランと共にこちらに歩いてくる。フランは、竜人族の少女、ライネルのコメカミに拳銃を向け、首を抱えるようにしていた。少女は観念したように涙目で両手を上げていた。

「……そいつ、確かリーの仲間だろ? ……俺が負けたらそいつを人質にでもするつもりだったのか?」

 その問いに、フランは静かに首を横に振る。

「まさか。ここでヴァンが負けるようなら、革命など到底不可能。おとなしくこの子達の指示に従うつもりだったわ」

「ライネルは諜報員だ。万が一のために、ひそかに聖騎士団に連絡を取ってたんだ」

「……だろうな」

 フランが脅すつもりだったら、とっくの昔に出てきているはずだ。ライネルが諜報員ということも、わかっていた話だ。

「……リーはな……最初、四勇者の中では最弱とまで呼ばれた。そりゃそうだ。武装召喚できるのが勇者の有利な部分なのに、一切武器を使わないんだから。……けどな。実際に戦いになってからは、リーを最弱という人間はいなくなった」

 ヴァンも、ガイウスから話を聞く前にリーの噂は聞いていた。……彼に近づいてはならない。その言葉が偽りではないことを、今しがた戦ったヴァンにはよく理解できていた。

「単純な撃墜数の数なら、他の四勇者……オレも含めて、リーは確かに一番少ないだろう。当然だ。拳一つなんだから……だが、リーは決して弱くない。誰にも負けない力と、可能性を持っているんだ」

「……否定はできないな」

 ヴァンは、ぶっきらぼうに返すが、リーを素直に認めざるを得なかった。

 結局、クレアと二人がかりで倒したようなものだ。そもそもヴァンの体にクレアがいる以上、それは仕方のないことではあるが、それでもギリギリだったと言わざるを得ない。

 ヴァンは最後の一瞬、思わず自分より才能があるかもしれないその少年に、思わず笑みをこぼしていた。




 ――――だが、……ライネルの術式がまだ発動中だったことを、みな気付くことはなかった。

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