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第六話「無垢な闘士―①」

「……はぁ……はぁ」

 広い草原の中、ヴァンの周りには大量の薪が切り捨てられている。その手には片手剣が握られている。

「くそっ……」

 剣の修行……のつもりだが、これがどんなに意味のないことかは、ヴァンが一番よく知っていた。

「ヴァン。それじゃ八つ当たりだよ」

 少し離れた場所でその様子を眺めていたクレアも、さすがに苦言を漏らす。薪を敵に見立てて剣を振るうイメージトレーニングも兼ねたありきたりな訓練だが、今のヴァンには戦略が抜け落ちている上に太刀筋も悪い。これではただの薪割りだ。

「関係ねぇよ……弱いから俺は負けた……だから強くなるしかねぇんだよ」

「強くなる……ね」

 クレアには、ヴァンの気持ちもわかる。確かにあのままだとヴァンはレオンハルトに負けていた。だが、勝敗がつかないまま一方的に敗北を言い渡された。

 それはつまり、死の間際にヴァンがイリーナに助けられたという意味でもある。戦士にとってこれほどの屈辱があるだろうか? しかも、実際のレオンハルトはあれよりももっと強いというのだからなおさらだ。

 クレアにとってもこの敗北は屈辱的だった。ヴァンの血の刃の硬化能力はあくまでクレアの力だ。鉄すら引き裂く鋭い刃をいとも簡単に防いだ防御魔術は、クレアとレオンハルト……そしてイリーナとの力の差も意味していた。

 だが、ここまで屈辱的な敗北を期していながらも、クレアはいたって冷静だった。と、いうより敗北した事すらどうでもいいくらいの落ち着きようだ。

 そんなことより、大きな問題をクレアは感じ取っていた。

「…………はぁ」

 ヴァンが、ため息をついた。剣で十文字に空間を切り伏せると、白い塊が異臭を放ちながらぽとりと落ちた。

 拾い上げてみると、四等分されたニンニクが一株分落ちていた。ずいぶんと古臭い勘違いもあったものだと、呆れつつ投げつけられた方角を睨みつける。

『お、おい! 全然効かねぇじゃんか‼』

『だ、だから言ったんだよぉ。多分効かないんじゃないかって……』

 小声で話しているつもりだろうが、ヴァンにも聞こえていた。どうやら少年と竜人族の少女のようだ。

『おっかしいなぁ……じっちゃんから吸血鬼の弱点は、十字架とニンニクだって聞いたんだけど』

『た、確かにこちらの文献にもニンニクと十字架は弱点だって言われてるけど、冗談としか思えないし……』

「最初の吸血鬼、ヴァンパイア、ウラド=ドラキュラは、ニンニクが苦手らしいが、それはただの食の好みであり、弱点でもなんでもない」

 隠れてるつもりの小動物二人を見下ろし、真実を語るヴァン。心底驚いた様子で、親に見つかった悪戯っ子たちのようにビクリと痙攣した。

 一人は、少年のようだ。紺の髪を後ろで束ね、大陸の仏教のような装束。小柄な体格だが、見た目の年齢は十五~六くらいだろうか。

 もう一人は竜人。見た目こそ幼体だが、竜人は長寿である。この背格好なら百は超えていると思っていい。青髪のセミロング。竜人らしい緑のツリ目だが、ずいぶんな怖がりのようでガタガタ震えて怯えている。

 そんな二人を見て、吸血姫はクスクスと楽しそうに笑った。

「そうそう。しかも、すっごい笑い話でね。ウラドは昔、大のニンニク好きで、いろんな料理にニンニクを使っては食べていたらしいんだけど、女性の血を吸おうとしたときに口が臭すぎて、思いっきりビンタされたのがきっかけで、トラウマになった……ってオチ」

 クレアも現れ、ヴァンの説明に補足を入れる。なお、昔のヴァンパイアは、主に女性を誘惑して吸血行為に及んでいたそうで、美形男子が多かった。それだけに、口臭でめちゃくちゃ嫌われたウラドは、それはたいそう落ち込んだそうな。この笑い話が、吸血鬼や魔族の間で語り草になり、この世に広まった。それがいつしか、「吸血鬼の弱点はニンニク」ということになっていった。

「ちなみに、十字架が弱点ってのも嘘っぱち。実際にはウラドが討伐された時、頭に刺さった剣が十字架に見えたことが由来」

 当時の吸血鬼は、今ほど進化をしておらず、液状内臓という特異体質は持っていなかった。そのため、脳がある頭を貫かれたら、ウラドはあっけなく死んだそうだ。……というより、普通どんな生物でも頭に剣が刺されば死ぬ。

なお、その後世代を経て吸血鬼が脳や内臓が液状化した理由は、ウラドの思いが受け継がれているからと信じられているが、真実は定かではない。

 なんにしても“吸血鬼=ニンニクもしくは十字架が苦手”というのは全くのデタラメである。

「……で、どうするんだ? クソガキ」

「……しゃーねぇ。おいっ! 吸血鬼ヤロー‼ 四勇者の一人李白虎(リー=パイフゥ)が相手してやる。覚悟しやがれ‼」

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