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第五話「敗者―①」

「なっ?」「えっ?」

 ヴァン達が気が付いたときはイリーナの館の中だった。剣を持ったまま呆然としているヴァン。当然ながら、レオンハルトの姿は消えていた。

「ヴァン。あなたは失格よ」

「……どういうことだ」

「あなたが一番よく知ってるはずよ……まさかあの程度で、勝てるとでも思ったの?」

「くっ……」

 ヴァンは、剣を血液に戻して右腕に吸収する。

「ヴァンが……失格?」

 フランも呆然としていた。あれだけ命を懸けた戦いを繰り広げたあげく、ヴァンが敗北したという事実が付きつけられる。

「で、でもどうしてっ‼ ヴァンが最後に作った剣が、レオンハルトの防御を貫けない確証があったの?」

「いいえ。あのニセモノの防御くらいなら貫けるでしょうね……。あの剣は、血の剣の上に、さらに上乗せで血刃を重ねて作ったもの。ニセモノの防壁が上乗せした一刀を破壊したとしても、その下に隠れた刃は相手の首に届く」

 イリーナはヴァンの技の本質まで見抜いていた。確かに、あの技だったら、()()レオンハルトなら倒せるかもしれない。

「だけど、それだけ。本物の防御は傷をつけることもできない。しかもあんなに自分の血を抜いた状態で、本物のレオンハルトが隙を見逃さないとでも思った?」

 もはや何も言い返せない。ヴァンはそもそも、相手がニセモノだということも、頭から消えていた。だから、ニセモノを倒せる程度の力を作り立ち向かってしまった。

 むしろ、あのまま戦って仮に勝ったとしても、ヴァンは大量の血液を失い、どうなっていたかわからない。いくらクレアが生命を維持しているからと言っても、無謀すぎる賭けだった。

「忘れてはダメよ。あなたが戦うのはあんなニセモノじゃない。本物の閃光、レオンハルト=ジークヴェルト。こんなテストで命を懸けているようでは、一生彼には勝てないわ」

 ヴァンが敗北した事実がフランの頭を真っ白にしていく。

「そんな……じ、じゃあ大麻の対策方法は……」

「勘違いはよして。私は合格したら手伝うと言ったのよ。どちらも合格、なんてことは言ってないわ」

「そ、それじゃあ」

 イリーナは静かに頷き、棚の奥からビンを取り出す。

「大麻の依存性を和らげる薬よ。一週間も服用すれば依存はなくなり、依存性だけはなくなるわ」

「依存性だけ? ……依存性ってどういう……」

「あなた達の世界ではあまり聞きなれない事かもしれないけど、こういった薬には依存性というものがある。言ってしまえば、強制的且つ定期的に大麻を服用するよう欲求が抑えられなくなる症状ね。それに逆らって服用しない場合は、幻覚症状をはじめとした、ありとあらゆる病状が襲うことになる」

 フランにとっては依存性という言葉も新鮮だった。頷きながら話を聞き入っていた。

「ふぅ……あなたに言っても仕方ないのかもしれないけど、やはりこの世界の医学的常識は低すぎるわね。せめて多少の医学的知識は持っていてほしいものだわ」

「はぁ……と、とにかくそれをいただけるんですね!?」

「いいわよ。注意事項と投薬方法はこのメモに書いているわ。あなたが指示して処方しなさい」

 レヴォルには医者がいない。誰かが代わりに処方するしかない。

「はい……でも……」

 チラリと、男を見つめる。目を伏せてうつむく男は、くやしさを隠し切れないでいる。

「放っておきなさい。彼に必要なのは慰めではないわ。彼に必要なことは、彼自身が気づかなければ意味がない」

 ヴァン自身が気づかなければならない事……。なぜだかはわからないが、フランには予想がついていた。だがイリーナの言う通り、これはフランが言うべきことではない。たとえフランが教えても……みじめになるだけだ。

「ヴァン……私、行くね……ベルンブルグのみんなにお薬届けないといけないから」

 その言葉に返答はない。ただ、力なくうつむいているだけだった。

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