表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/56

第一話「滅びかけの都市―②」

「きゃああああぁぁぁ‼」

「はははっ‼ 油断大敵だぞフラン‼」

「な……なぜ…………って、あれ?」

 刺されたはずなのに、痛みがこない。

「安心しろ。ダミーナイフ。要するにおもちゃだ」

 ケラケラと笑いながら、ガイウスがナイフの先端を人差し指で押してみると、それに連動して鋼の部分が柄の方に引っ込んだり、出たりしている。当然人差し指に傷は一つもない。よく見ると刃の部分は偽物だ。

「以前ヴァンにも使ったが、あいつもすっかり騙されてよ! だがフランのリアクションも、なかなか面白かったぜ?」

 ケラケラと笑うその男に対して、安堵しつつも騙されたことに怒りがこみあげてくる。

「も、もうっ! ふざけないで‼」

「わりぃな、でも力みすぎってことだ。特に動きながらだと力が入りすぎている」

 彼女の場合、走りながらだと腕に余計な力が入り、狙いがブレている。だから、持ち前の筋力で狙いをつけやすいように接近して射撃をすれば戦える。

「わかってるだろう? フラン。この世界に魔法がある以上、遠距離戦になることも多い。だから動きながらでもある程度、相手に狙いをつけられるようになっておくこと。特にオレたちの敵は圧倒的に多い。戦うためには、自分の弱点をよく知り、克服することだ」

「…………」

 拳銃より魔法が優れている部分と言えば、やはり自由が利くところだろう。拳銃は物陰に隠れてしまえば、威嚇射撃以外の手段はなくなってしまう。

 だが、魔法は軌道を曲げたり、範囲攻撃で殲滅したり、さまざまな応用が利く。弾丸より速度は落ちるが、戦術の差では魔法の方が上だ。

 だから、拳銃戦闘の基本である隠れながら打つことが、あまり意味をなさない。「物陰にいたら下から岩の槍で突き刺された」なんてこともある。そんな訓練をするよりも、ヒット&ダッシュで打ちながら逃げるほうが、この世界では重要となる。

 だが、そこまでフランの弱点を指摘しながらも、ガイウスはその成長ぶりに心底驚いていた。最初の想定では、たった一ヵ月では、まだ静止状態の射撃訓練をしている頃だろうと思っていた。しかも片手ではなく両手持ちでだ。

 一番最初に行った筋肉トレーニングの結果、彼女の基礎代謝はとんでもなく高いことが判明し、必要な筋肉はすぐについた。すでに通常の軍人より筋力を得た彼女は、CQCでも覚えさせれば近距離最強になれるだろうが、魔術による遠距離戦が多いこの世界では、CQCよりも射撃センスを磨いた方がいい。そういう判断で彼女には一ヵ月みっちり射撃戦をやらせた。

 だが拳銃は、単純に力を入れればいい武器ではない。覚えるのには数ヵ月の時間がかかるだろうと思っていた。

 だが、彼女には天性の才能があった。静止状態の銃撃戦もさることながら、接近してくる敵にも持ち前のスピードと戦闘センスで対処できる。

 確かに動きながらの射撃をすると手をこねる癖があり射撃精度が著しく落ちるが、そもそも実際の軍人でも難しいことをやらせているのだ。普通なら、それだけできれば十分戦線に出れる。

「……一ヵ月と考えれば……だがな」

「え? なんですか?」

「ああ、悪い……なんでもない」

 思わず自分の思考が口に出てしまった。謝りながらも、そのまま思考を続ける。

 ……一ヵ月で成長したと考えれば、確かに彼女は十分強くなった。……だが、それは敵には全く関係ない。実際に戦うとなれば、彼女はせいぜい一般兵を二、三人倒して死ねば御の字だろう。

 特に四勇者と、その上についているレオンハルトと戦えば瞬殺だ。四勇者の中では最弱のリー=パイフゥと戦っても一秒も持たないだろう。

 今のところ反乱軍で、四勇者と渡り合えるのはヴァンだけだ。そのヴァンでもレオンハルトと渡り合うことは到底不可能。明らかに戦力不足だ。

「……フラン。少しレヴォルの今後の方針を話しておくぞ」

「え……は、はい」

 汗を拭きながら、フランはその話に耳を傾ける。

「まず、現状の戦力ではオレたちに勝ち目はない。人数差も当然あるが、化け物レベルの戦力が五人もいるからな」

「四勇者と、レオンハルトね……」

 ガイウスは静かに頷くと、指を四つ立てて彼女に見せる。

「確かに四勇者は強力だ。それぞれ固有の戦闘技術を持っているのは当然として、勇者が共通して持っている能力……武装召喚がある。普通に戦えばお前も、オレも勝てない」

「……でもガイゥ……っとと」

 あともう少しで、ガイウスの名前を話すところだった。慌てて口を閉じるフランだったが、ガイウスはゆっくりと首を振った。

「もう構わんさ。あくまで予想だが、この前の戦闘でオレが生きてることに気付かれたと考えていい。……整形でもしたいところだが、そんな費用もないしな」

「……じゃあ。ガイウスさんは、元々勇者として召喚されたんですよね? だから武装召喚も持っているはず。じゃあガイウスさんも戦えば……」

 現につい先日、武装召喚された拳銃を渡されたばかりのフランらしい疑問だったが、その質問は愚問だった。

「……オレの右足と右腕は義手義足だ。ついでに右目も義眼を埋めてある。右半身がイカれちまってな。それを知ってているのはヴァンと四勇者のイリーナだけのはずだ」

「そ、そうだったんですか!? すみません。全然気が付きませんでした……」

「気にしなくていい。ある意味褒めてもらえたようなもんだ。気が付かないってことは、リハビリもうまくいってる、つーことだからな」

「ははは……それにしても、イリーナさんでしたっけ? 確か……四勇者の一人の。その人にやられたんですか?」

「ああ、イリーナ=イワノフ……。奴は……強すぎる。火力では四勇者最強だ。現実世界から召喚された人間にも関わらず、魔法を使う……というか、どこまで魔法が使えるのか計り知れない。アスカを除けば奴は最強だよ」




 勇者達の元々暮らしていた世界は、地球という惑星で構成されているという。だが、勇者達が暮らしていた世界とこの世界は、よく似てはいるが、まったく別の歴史をたどっているらしい。

 勇者達の世界の小説の中に、こういった異世界転生の話があり、その話からあやかって、この世界は異世界。そして、勇者達の暮らしていた世界を現実世界と呼ぶようになった。

 そして、現実世界と異世界の大きな違いは、ずばり魔法の有無である。現実世界に魔法は存在しない。仮に存在していたとしても、魔女狩りという悲劇により、魔法を使えるものはいなくなったはずだそうだ。




 だが、どういうわけかイリーナは異世界転生後、ほとんど時を置かずに魔法を使用した。理由を聞いてもまともに話そうとしないため、彼女がいったい何者なのか、知る者はいない。

「イリーナさんって、どういう方なんですか?」

「そうだな……奴と戦ったのは、ちょうど、この草原だったな」

 ガイウスは、自分の過去を語りだした……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ