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第一章エピローグ「四勇者」

 ――――ベルンブルグ陥落の報は、ジークヴェルト王国にすぐに広まった。




 *** 中央都市カイゼル。領主の屋敷 ***




「おや……もう落ちましたか」

 その報を聞いた男は、まるで予想していたように、落ち着きをはらってワインを煽る。

「はっ……ですが、これでまた戦争が起きると考えると……」

「いいんですよ。これで……」

 報告を知らせに来た諜報員は、その言葉に首をかしげる。少し濃いブロンドの髪をオールバックにして固めていた強面の男は、悲報を知らされたというのにニヤリと笑う。

「戦争は、とても恐ろしいものだ……そして、とても美しい。私が暮らしていたアメリカも、自由だの、平等などを謳っているが、その仮面の下はこのワインより深くどす黒い血だまり……国はまさに血で固められたオブジェに過ぎない……」

「オブジェ……ですか」

 男は一つ頷くと、再びワインを飲みながら舌なめずりする。

「彫刻もまた美しい……あらゆる芸術家が美しさを追い求めてただひたすらに飾る……」

「国も……同じであると?」

 男はまた頷く。

「ですが……飾っただけのオブジェは簡単な力で壊れる……このグラスのようにね」

 ワイングラスは男の手から離れる。床に触れた瞬間、炸裂し、光を乱反射しながら粉々に砕ける。砕けた後、血だまりのような赤が広がっていく。

「それは、国もまた変わらない……ちょっとしたことで、国は崩壊する。そうならないためには、どうすればいいと思いますか?」

「……勝ち続けることです」

 その言葉に、大きな口を三日月のようにゆがませて、一つ手を打ち鳴らす。

「そう‼ まさにそこです! 国は戦いを忘れれば力を失います。現にアメリカ軍は、いまだに敵を作り戦争を繰り返している。……敵を作り、己の力を失わないために戦い続ける……それが国を維持するのに一番重要なことです。――――戦いを忘れた国家に、生きる価値などないのだから」




 中央都市カイゼル 領主 ジークヴェルト騎士団 参謀 四勇者 カイル=グリード。




 *** ジークヴェルト南方 ドラゴニア山 竜の森 ***




「え? ジルートのおっちゃん、死んだのか?」

「そう……みたい……でね、この近くの村が……怪しいんだって」

 黒髪の少年は、体全体でめんどくささをアピールするように、地団駄を踏んだり、頭をかきむしったり、とにかくせわしなく体を動かす。

「くっそーー‼ ……なぁ、レオンのにーちゃんは動けないんか? オレ、まだ竜王のねーちゃんを倒せてないんだよ」

「だ……だからね。竜王様は……四勇者様の一人って言っても……倒せないと思うな」

 おどおどした様子の少女の耳は、竜の翼のような形になっていて、通常の人間の二倍ほど大きかった。竜人族と呼ばれる、人と竜の血を引いた種族だ。その少女は髪は青く、肩のあたりで切りそろえている。

 少女は黒髪の少年よりさらに小さい。見た目なら5~6歳と言われれば信じるだろう。

「でも悔しいやん‼ レオンのにーちゃんも、アスカのねーちゃんも、竜王のねーちゃんに勝ってるんやろ? オレまだ勝ってないもん‼」

「そ……それはね……レオンハルト様は騎士団長で……すごい人で……アスカ様も……その下に付く、ものすごく強い剣神様で……そもそも、二人とも修行をつけてもらったってだけで、勝ってるわけじゃ……」

 そう言って、なんとか諭そうとするが、少年は駄々をこねるように言い訳をする。

「そんな難しい話、オレにはわからんもん‼ レオンのにーちゃんも、じっちゃん流の拳法でいつか超えてやるんだ‼」

「……せめて……剣を使って戦えば……」

「だーーーかーーーらーーーっ‼ 拳法は拳であって剣じゃないってっ‼」

「そう言う意味じゃ……ないんだよぅ」

 まったく話がかみ合ってなかった。半ばあきらめ始めた竜人の少女は、話をベルンブルグ陥落の話に戻す。

「とにかく……ね……リー君は……すぐにレヴォルに向かってって……」

「えーー……めんどくさいぃ……」

「リー君……めんどくさがりはメ……なんだよ?」

 そう言って、まるで姉が叱るような言葉を、弱々しく控え目につぶやく。

「……まぁライちゃんがそこまで言うならしゃーない。リーお兄ちゃんに任せとけ‼」

 ドンと胸を打ち鳴らす黒髪の少年に対して、再び控え目に“ライちゃん”は答える。

「だからね……私のほうが百歳以上……年上なんだよぅ……」




 ジークヴェルト騎士団 遊撃部隊 突撃兵 四勇者 リ=パイフゥ。

 ジークヴェルト騎士団 諜報員 竜王の娘 ライネル。




 *** ジークヴェルト南方 元・吸血姫の館 ***




「そう……落ちたのね」

 その少女は、まるで人形にかわいらしく、だがまるで科学者のように冷静沈着で、ゆっくりとフラスコの中の液体をゆらゆらと揺らす。

 紫の瞳が、フラスコの中身を見通すと、その唇が赤い笑みを浮かべる。フラスコの中身は葡萄酒のように赤紫の液体が入っている。

「これで……また戦いが始まる……今回は面白くなりそうね……あなたもそう思うでしょ? フラスコの中の巨人……いや、フラスコの中の賢者……そっちのほうが正しいかしら?」

 語りかける先には何もないように見える。というより、この場所に彼女は一人だけだ。

 だが、彼女には何もないその場所にいる存在を、しっかりと感知していた。ブロンドの髪をいじりながら、美しい笑みでフラスコの中身に語り掛ける。

「全ては予定調和。(あなた)によって偽りの人形に裁きを下すための、決められた運命。小説の中のお伽話のように、覆す事のない終焉に向かうだけの……ね」

 まるで誰かを諭すかのように言葉を紡ぐ。すると見えない誰かから返答が来たのか、思わずクスリと笑みを浮かべながら答えた。

「そうね。そういう意味では私も同じかしら。……しかし、あなたの行動は、果たして冥界の神(ハデス)に許しを得ているのかしら?」

 その問いに対しては、どうもかなり不快な答えが返ってきたのか、苦い顔をしながらまた返答をする。

「まぁいいわ……あなたのおかげで、私が干渉するに至ったのですから。ある意味、あなたには感謝しているのよ?」

 すると、少女は立ち上がり、フラスコを見下ろしながら、また語りかける。

「どちらにしても、これで物語(うんめい)が始まるのね……楽しみだわ。……ねぇ、パラケルスス」




 ジークヴェルト騎士団 魔法部隊 黒魔導士 四勇者 イリーナ=イワノフ。





 *** 首都ゴッデス ジークヴェルト騎士団 騎士団長室 ***




「……レオンッ‼ ベルンブルグが」

「聞いている……」

 ブロンドの髪を整え清純そうな蒼の瞳に、白と青の高貴な騎士服。いかにも好青年という言葉がふさわしい男は地図を睨みつけながら頭を抱える。その青年が座る椅子は間違いなく騎士団長の座る椅子であった。

 つまりは彼が、レオンハルト=ジークヴェルト ジークヴェルト王国騎士団長というわけだが、そんな彼に、あたかも旧知の中のような口調で黒髪の長髪を後ろで結んだ少女は血相を変えながら話を続ける。

「まさか……こんなに早く」

「いや……僕達が遅すぎたんだ。……あれから五年。彼らは十分待ってくれた」

 “十分に待った”その言葉にヤマトの国の装束の振袖を、大きく揺らしてレオンのテーブルを叩きつけた。

「五年……たった五年じゃない‼ この国を変えるのに、レオンがどれだけ頑張ってたか……あの男は知らないのよっ‼」

「努力など、彼らにとっては意味がない言葉だよ。……ようは結果だ」

 その言葉でも納得がいかない黒髪の少女は、唇をかみしめながらギュッと目を閉じた。

「……それでも、彼らのように戦争という形で国を変えるというのが、正しいとは僕は思わない……。アスカ、君は戦いから身を引いてくれないか? ……きっと今度は、とてもつらい戦いになると思うんだ」

 アスカと呼ばれた少女は、必死に首を横に振る。そして、次の瞬間には剣士の目となりレオンハルトを見つめた。

「わかってるでしょ? レオン……私が、そんなこと聞けない女って事くらい」

「……そうだったね」




「……また君と戦うことになるのか……テオ=ヴァルトブルグ……いや、ヴァン=リベリオン――――」




 ジークヴェルト騎士団長 閃光の騎士 レオンハルト=ジークヴェルト。

 ジークヴェルト騎士団、ジークヴェルト隊副隊長 四勇者 アスカ=サクラダ。




「あなたが現れるのを待ち望んでいた。すべては、あなたが望む先にある。すべては必然。パラケルススという一人の天才によって導かれた運命。……そう作られた運命(ものがたり)。だから、また会いましょう……」




 二代目神殺し(ディオ・モルテ)。右腕の吸血姫(ヴァンピーロ)。ヴァン=リベリオン――――。

これにて第一章終了となります。いかがでしたでしょうか?

ぜひご感想、評価のほどよろしくお願い申し上げます。


エピローグでしか登場しなかった四勇者も次章でガッツリお話に絡んできます。戦ったり暗躍したり◯◯◯りします。


個人的にアスカはお気に入りキャラなのです。


ではでは第二章でお会いしましょうd( ̄  ̄)

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