第十二話「解放の光―①」
「……まさか、あの一瞬でペテンにかけるなんてね」
「当たり前だろ? ジルートが考えていることなんて想像がつく」
「そゆことー。残念だったね。奴隷ちゃん」
首枷は再び黒く染まり、改めて奴隷に戻る。首枷が絞まったのは、奴隷の首枷の副次効果である“主人はいつでも首枷を絞めることができる”というものだ。
「……安心しろ。首枷はあとで必ず外してやる。それよりも、ジルートのすべての奴隷が解放された事によって、街の皆、混乱しているだろう。……屋上に行こう。……ん?」
ヴァンは、フランの顔に傷が一つ、ついていることに気が付いた。その傷を、涙をぬぐうようにそっとなでる。すると傷が、緑色の光に包まれ塞がっていく。
「あなた、回復魔法も使えたのね」
「これでも、一人でずっと戦ってきたんだ。そのために必要なスキルは、すべて手に入れた」
傷の手当が済むと、力が抜けたようでフランがよろける。
「どこかまだ痛いのか?」
「違う……ただ、ちょっと……こ、腰が抜けて……」
「ふん……だらしない」
そう言うと、右腕から赤い煙が噴き上げる。それが形を作り、ふくれっ面をさらに膨らませて少女はヴァンの後頭部を叩く。
「ってぇな‼」
「少しは女の子の気持ちも考えてあげなよっ‼ ……初めて人を殺したんだから、まだ気持ちが追い付かないんだよ」
「……でも、これで最後だ。これが終わったら、小麦畑を管理してもらう」
「…………」
――わかっていたことだった。ヴァンは最初っから、フランを革命軍のメンバーにするつもりなんてなかった。
フランを徹底的に鍛えるわけでもなく、基本的な戦闘技術だけを伝えてきた理由。いくら何でもフランにだってその理由はわかっていた。
当初の予定では、アンナに雇ってもらう形で、畑仕事をさせるつもりだった。どちらにしても、彼女が復讐を遂げた後に、それ以上戦わせるつもりは毛頭なかった。ただそれだけの話だ。
「ヴァン……」
「少し、風にあたるか……」
*** *** ***
「これは…………」
幻想的な光景だった。
まるで星の海が風に揺れて漂っているようだ。奴隷の首枷が解放されて、光の粒子となって町中を漂っている。
「これが……奴隷解放の光」
「俺達が目指している。革命の光だ」
「きれい……」
時間は深夜をとっくに迎え、そろそろ朝日を迎えるころ。奴隷とはいえ、ほとんどの人は寝ていた。だからこの光景を見ているのは、ヴァンとクレア、フランくらいなものだ。
「……あ」
フランの首からも光の粒子が現れた。五年間、彼女を支配し続けていた奴隷の首枷が、光の粒となって消えていく。
「これで、お前は自由だ……仕事もある。これで戦いなどとは程遠い、平和な世界で生きていける」
「……ヴァン」
光の海の中を漂いながら、フランは一つの決断をした。
「ありがとう……ヴァン。ここに連れてきてくれて」
フランが、改めてお礼を言うと、ヴァンの手を離れて一人で立つ。
「こんなに綺麗な景色……生まれて初めて見た」
「ここまで凄いのは、俺も初めて見た……これから、この街は自由を取り戻す。みんなが目を覚ました時には、新しい街の姿が現れる。……きっとな」
「……これからこの街はどうなるの?」
「勇者達がいた世界も、奴隷がいた時代から抜け出したらしい。すべての人民が主権を持つ民主制……そのモデルケースとなる予定だ」
ただ、異世界の勇者ならいざ知らず、ヴァン達にとっては初めての民主制度だ。それがどれだけ大変なことか、ヴァンにも理解できていた。
それでも、成し遂げられると……ここにいる三人は信じていた。
「だったら私は、あなたと一緒に戦うわ」
「なに?」
フランはクルクルとまるでダンスをするように回る。まるで光の海の中を、自由に泳ぐイルカのように。
「私はもっと、この光景を見てみたい……だから戦う。止めても無駄よ。言ったでしょ? 私はもう、誰の命令も聞かないんだから」
「――ふん……好きにしろ」
上機嫌に星の海を泳ぐ彼女は、とても美しくて、つい、ヴァンは見惚れそうになり、それがバレないようにそっぽを向く。
「……だが今から見る光景は、お前にとっては少し酷かもしれんぞ」
「え……?」




