第十一話「血意の一撃―③」
「惜しかったな……反乱軍共っ‼」
ステンドガラスのあった場所で静止し、ジルートはその場に浮遊した。
「なるほど……泣かせる話じゃないか。奴隷に止めを刺させるために、貴様は、わざと実力を抑えていたとはな」
フランの放った弾丸の傷は、みるみるうちにふさがっていく。急所を外したどころか、その傷は回復の魔法によって一瞬にしてふさがった。
「まったく……私が逃げるまで追いつめられることになろうとはな……だが、これでお前達も終わりだ。私がやられたとなれば、すぐにでも四勇者によって総攻撃が仕掛けられる……もうお前に逃げ道なんてねーんだよっ‼」
「……逃げ道がねーのはお前のほうだ」
赤い眼が、偽の神の最後を映し出した。ステンドグラスに描かれていた十字架が、処刑を待ちわびるように淡く光る。
「はっ? ……何を言って…………る…………」
気が付けば、ジルートの四肢から、血液があふれ出ていた。それだけではない。鼻や耳、目、毛穴に至るまで、人間について回る穴すべてから血液が煙となって溢れ出している。
「てめーの言う通りさ……とどめはあくまでフラン。俺はフランが自由を手にするために、手を貸しただけだ……武器の調達に、指導……そして、クレアの血に至るまで、貸せるものは全て貸してやったのさ」
「血……だと……」
フランは、その右手に握られたものをゆっくりと開いた。そこには紅に輝くルビーのような素材のでできた弾丸があった。
「鋼血弾……クレアさんの血を使って作り出した弾丸。これにかすりでもすれば、体全身の血は……“あなたのものではなくなる”」
「なっ‼」
これは、フランが自由を求めた一撃。たとえ、震える手で狙いがそれたとしても。たとえ初めての武器で動揺したとしても。まっすぐ歩むと決めた、決意の弾丸。
「最初の予定では、短剣に薄くクレアの血を塗り付けて、お前を切るつもりだったがな。……お前は、そんな隙は与えなかった。だから少し早いが、クレアにこの拳銃を渡すことにしたんだ……いつか、自由になったあと、己の運命と戦うための力をな」
「え?」
その言葉にフランは驚いた。つまりは最初にジルートと戦った時、ヴァンは右腕の封印が解いた結果、体力を失い撤退したわけではなく、フランにトドメを刺させるために撤退したということだ。
「じゃ、じゃあ……ヴァンは右腕の封印を解いて倒れそうになったわけじゃないの?」
「ったりめーだろ? 右腕の封印解いて、さほど時間が経ってないのに限界来てたら、革命なんぞ起こせるわけがない」
どうやらフランも騙されていたらしい。
「じゃあ、どうして私にまでそんな演技を……」
「はぁ……テメェは嘘が苦手な事くらいわかってんだよ。俺の実力が低いものとジルートが思わなきゃ、テメェが止めを刺す前に、ジルートが撤退するかもしれねーだろ」
結局、フランの演技力は最初から最後まで信用されてなかった。それもそのはず、ヴァンに反抗し頬を叩いた日から、彼女は面白いほど思考が表情に出るようになっていたからだ。演技力なんて一ミリも信用できるわけがなかった。
「貴様……ふふっ……そうか。フラン。これはその死神の策略だ。そうやって人間を信じ込ませて、完全な奴隷に仕立て上げるつもりだろう――――」
苦しみながらも、ジルートは得意げに言い放つ。
「ふん……そこまで言うなら見せてやるよ……」
ヴァンはフランと向かい合う。その手は次第に黒の首枷に伸びて祈るように目を閉じる。
「主人、ヴァン=リベリオンの名において……フランツェスカ=ヒルデブランドを開放する」
すると、黒の枷は次第にヴァンの契約を解いて、少しずつ白に染め上げられる。闇を祓い光を取り戻すように……。
「バカめっ‼ 殺せ‼ フランツェスカ‼ その銃で頭を打ち抜けっ‼」
「ジルートッ‼」
クレアの叫びも届かない。血液操作もこの距離では、完全には発動できない。
だが――――。
フランツェスカは――――笑っていた。
ジルートの命令など聞かずに、息も苦しいだろうに、ただひたすら歓喜に震える。
「あり……が……と……」
どうにか、その四文字だけは口から絞り出して、ヴァンの体を抱きしめる。
――――――その姿を、男は静かに見守っていた。
次第に抜けていく血の苦しみより、復讐を遂げられなかった悲しみより、何よりも――――彼女が本当の幸せを手に入れたことが――――うれしかった。




