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第十一話「血意の一撃―②」

 巨人の腕が変貌し、紅の大鎌となってヴァンの右手に収まった。

「ほう……まさに死神じゃないか。切り札が血の大鎌とは……」

「勘違いすんな……こいつはテメェに勝つための布石だ……」

 大鎌が空を切り頭上で大きく円を描く。遠心力を加えながら、その切っ先はジルートの首筋へと向かう。バックステップでそれをよけると、ジルートはその勢いを乗せて槍をヴァンの胸に放つ。それを鎌でからめとるように動きを止めると、ヴァンの左拳が、ジルートの鼻先を穿つ。ひるみながらも即座に体制を戻したジルートは、槍の腹でヴァンの脇腹を薙ぐ。思わずうめきながらヴァンは鎌から手を放して槍の勢いを利用しながら後方へ飛ぶ。そして、鎌は再び血となり、意志を持ってヴァンの右手の中に戻り、再び大鎌へと戻る。

「くっ‼」

 ヴァンが鎌を手放したことでジルートは油断した。その鎌が抱くようにジルートを捕縛する。そのまま引いて胴体を真っ二つにされるかと思いきや、ジルートの床に突き立てた槍がそれを阻む。そのままジルートは長槍をポールにして回し蹴りをみまいつつ、大鎌から脱出する。だが、ヴァンはその程度ではひるまなかった。ジルートが着地したところを見計らい、大鎌の峰で腹を突く。内臓をつぶし、血を吐き出しながら大きく吹っ飛ばされた。

「かはっ‼」

 二~三メートルほど吹き飛ばされたあと、ジルートは受け身をとって立ち上がった。

 一撃はくらわせたが、体内に流れる血に触れることはできなかった。吐血は血管とは離れてしまっているため、血の補充にはなるが、相手の体内の血液を操るまでには至らない。

「ふ……ふふ……その大鎌が両刃なら貴様の勝ちだったろうに」

「――クレアの武器変化にも制約があんだよ。彼女は、彼女の知っている武器にしかなれない」

 両刃の大鎌。確かにありそうなものではあるが、彼女の知識の中には存在しない。

「他にはどんな武器(エモノ)があるか……聞いてみたいものだな」

「さぁな……少なくとも片手剣には、なれるんじゃないか?」

「ふん……」

 槍は再びヴァンを襲う。大鎌の柄で攻撃を防ぎながらも、次第に押されていく。

「本当に化け物だなっ! モンスターとどこが違うんだ?」

「さぁどこだろうな? まぁモンスターと違って、心臓は動いてないぜっ? ぐっ!?」

 ついに、体制を崩したヴァン。その胸に長槍が深々と突き刺さる。――――だが、ヴァンはニヤリと笑い、止めを刺したはずのジルートが焦りの色を浮かべる。――彼の心臓は急所ではない。その場所はクレアのテリトリーだ。

 ジルートはすぐに槍を手放した。体制を低くすると、コンマ一秒ほど前にジルートの胴体があった場所を、鎌が引き裂く。ジルートはそのまま大きく後ろに飛んで距離をとった。

「……十分に化け物だ。胸を貫いたのに……死なないどころか、むしろ生き生きしているように見える」

 胸から槍を引き抜き、平然とした顔でジルートに投げ返す。それを素直に受け取るも、冷や汗は隠せなかった。

「言ったろ? 俺は神に死を与えるもの……神死(ディオ・モルテ)だ」

 ――いや、効いていないわけではない。離れた場所から見ていたフランでも、その変化は見て取れる。心臓がないと言っても他の臓器はあるのだ。肺を穿てば息も止まるし、何より激痛は確実にヴァンを襲う。現に胸を貫かれたヴァンの動きは確実に鈍っていた。

 フランは先ほどから敵を狙い、銃口を向けるが、激しい戦闘の中で照準が定まらない。

「だめだ……」

 ただでさえ拳銃を握ったのは、これが初めてだ。最低限の事は教わったが、完全な素人である自分がまともに扱えるとは思えない。だが、ヴァンの言葉がよぎり、弱い自分を振り払う。

(できない理由なんていくらでもあるわ……誰だって思いつく。そんな事考えてる暇あるなら知恵を絞れ! 体を動かせ! また戻りたいの? ……惨めなあの地獄に)

 フランは自分を奮い立たせて、震える右手を必死に押さえつける。その間にも戦いは続く。ジルートの三連撃は左肩、腹、右足を擦め、ヴァンは膝をついて血を吐き捨てた。

「終わりだっ‼︎」

 音速を超えて槍は、ヴァンの脳を貫こうとする。脳を失えば、さすがのヴァンも生きていられない。

「あああああぁぁぁ‼︎」

 轟音と共に鉛は放たれた。その弾丸をジルートはとてつもない反射神経で弾く。だが、その隙を見逃さずヴァンは大鎌を振り上げる。届かなかったものの、それは形勢を立て直すには十分の一発だった。

「くっ!」

 胸の傷はすでに癒されていた。ジルートは危険と判断し距離をとろうとするが、それよりも早くヴァンが追いすがる。

 棒術のように軽々と身の丈以上ある大鎌を軽やかに操り、遠心力も込めた重い一撃が何度もジルートを襲う。槍でなんとか防御するものの、まるで大岩のような超重量が、次第にジルートを追い詰める。

 しかも、一撃でも擦れば死だ。いや、それだけならいいが、フランの弾丸も、また確実にジルートを追い詰める。

「調子に乗るなっ‼」

 ヴァンの大鎌をはねのける。だが、その勢いを利用してヴァンが体を反回転させて薙ぎ払う。その攻撃を伏せて回避し、ジルートの槍がヴァンの頭を狙う。だが、それを紙一重で回避して鎌を大振りに振り下ろす。側転しながらそれをよける。その着地の隙をフランが突くが、読んでいたようで弾丸は振り回した槍で防がれる。

「くっ……強い……」

 ヴァン達は三人……実質二人と計算しても、その二人に互角の戦いをしているのだ。

「当然だ。ジルートは“もともと”四勇者にも並ぶ実力者だ」

 フランにとっては初耳だった。彼女にとって、ジルートはただのご主人様であって、戦いなどとは程遠い存在だった。

「もうわかっただろ。フランツェスカ……四勇者がいるということは、その大ホラ吹きの夢を実現するためには、私以上の実力者を、少なくとも五人倒さなければならないということだ。……いい加減あきらめろ。その男を打ち、奴隷に戻れば娼婦として迎え入れてやろう。そうすれば、白奴隷でも、それなりの幸せを見つけることもできよう」

 提案自体は、あるいは魅力的なものだったかもしれない。黒奴隷のままだと、ヴァンにいつ殺されてもおかしくない。だったらとりあえずの生命の保証がされる白奴隷に戻ったほうがいいのかもしれない。

「あきらめろ? この期に及んでそんな言葉が出るようじゃ……“アンタ”の実力も、底が知れたわね」

 だが、そんなジルートの言葉をフランは鼻で笑いつっぱねた。

「何が言いたい……?」

「テメェじゃ一生かかっても、俺には勝てねーつーことだよっ!」

 大鎌が切り上げ気味に振り上げられる。その一撃を槍で防御するが、さっきまでとは比べ物にならないほどの一撃の重さで、打ち上げられる。

「っあぁ‼」

 聖堂のステンドガラスに叩きつけられる直前、何か違和感に気づいた。あれだけの一撃を受け止めたというのに、自身の体が切られていないという違和感に――――。




 ――――まさか、この男はずっと実力を抑えていた……? 一体何のために……?




「ごきげんよう……ご主人様」




 フランから放たれた一撃の弾丸が、ジルートをとらえた。だが急所をわずかに外れ、肩を貫通し背面のステンドガラスを無残に破壊した。

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