第十話「ベルンブルグ攻略会議―②」
*** レヴォル 武器屋店内 ***
「せんこうだん?」
「そうだ。それならスナイパー連中は黙らせることができる。いくらスナイパーライフルを持ったとて、所詮は異世界の代物。まだ奴らが使いこなせているとは思えない」
「すないぱー……らいふる?」
フランが何を言っているのかわからない様子で首をかしげると、頭を抱えながら武器屋の親父は説明する。
「スナイパーライフルは……まぁ要するに望遠鏡付きの銃みたいなもんだ。嬢ちゃんの銃よりでかいし破壊力もあり、なにより遠くの敵を狙える。で、閃光弾ってのは……ようするに、ものすごく光る爆弾……ってこれでわかるか?」
厳密に言えばスナイパーライフルだからといってもスコープが必ずついてくるわけではないのだが……ついでに閃光弾は光るだけというのも、かなり語弊がある。ただ、このくらいかみ砕いて説明しなければ、この世界の人にはわからないと思ったのだろう。
だがフランは、それでもはっきりとわからない様子だったが、自分なりに解釈して聞き返した。
「つまり、私達が空中から襲撃したらその……“すないぱーらいふる”で狙ってくるから、光魔法で目くらまし……てこと?」
「光魔法って……いや、もうそれでいいか」
あきらめたようなスキンヘッドの言葉に、ヴァンが補足をする。
「要点だけ抑えればいい。詳しい理論や技術は、今必要ない」
「わかった」
「……一つだけ質問してもいい?」
フランが手を上げると、自称カイルは頷いて質問を許す。
「どうして異世界の武器がこんな風に量産されているの? そのすないぱーらいふるも、せんこうだんも、こちらの技術で作れるものなの?」
「理論上は制作可能だ。だがこちらの世界には武器を作るための機械……つまり道具がない。それがないと、スナイパーライフルを作成しても、精度がデタラメで使い物にならない。こっちの世界でまともなライフリング加工なんて不可能だからな」
この世界での銃は、せいぜいマスケット銃か銃剣くらいである。スナイパーライフルのように超長距離射撃を可能にする武器は存在しないし作れない。またその武器を作る機械を作ることは、四勇者でもできるものは一人もいない。
「だが、異世界召喚されたものには、全員に武装召喚という魔法が使えるようになっている。自身が触れたことがある武器なら、なんでも魔法で作れる。まぁ、その代わり大量に魔力を消費するがな」
だが、言い換えればスナイパーライフルを手にしたことがある勇者なら時間さえあれば量産可能。これは十分脅威と言える。
「じゃあ、そのスナイパーライフルを使ったことがある人が、四勇者の中にいるということ?」
「ああ……カイル=グリード。奴は元々アメリカの暗殺部隊の所属だ。超長距離射撃ならお手の物だろう」
「……逆に、こんな拳銃や閃光弾を私達が持ってるってことは、勇者達を裏切った異世界人は……」
ヴァンは、その問いに首を縦に振って答えた。
「イタリア人のガイウス=ガリヴァルディは、イタリア軍所属の軍人だった。触れたことのある兵器ならカイル以上に存在する」
「まぁ、武装召喚には他にも制約があるがな。片手一つで持つことができるもの。スナイパーライフルは鍛えていればギリギリ片手で持てるためOKだが、戦車やミサイルランチャーなんかは召喚できない」
まるで試してきたかのような言い方に、フランは“まさか”と何かに気付いたが、簡単に口にしてはいけないことだと勘づいて、その問いを飲み込んだ。
「ただアサシンのカイルとガイウス以外は、とんでもない兵器を作れる奴はいない。それだけは間違いない」
「……四勇者って、結局どんな人なの?」
――――日本人 桜田明日香。
彼女は、居合と剣道をしていた少女で、日本では二番目の強さを誇る女性とされていた。
どうして一番でないかはわからないが、その剣の腕は閃光の騎士レオンハルトと肩を並べるほどの腕前で、音もなく一瞬で十人を惨殺するほどの達人である。
――――中国人 李=白虎。
大戦時はなんと十歳と、四勇者最年少の彼は、中国武術をたしなんでいる。その中でも徒手空拳をメインで修行を積んでいたため、武装召喚は、ほとんどできない。
だが、彼は十歳とは思えないほどの才能を発揮し、銃弾と剣が飛び交う中でその身一つで戦い抜き、事実上の四勇者最強とまで言われていた。
――――アメリカ人 カイル=グリード。
アメリカの暗殺部隊出身の彼は、すべての計略を完璧にこなす天才。実際に、大戦当時の反乱軍幹部陣の大半と、リーダーであるクリストフ=アルムガルドを暗殺したのは彼である。
つまり四勇者で最大の功績者となるわけだが、彼ほど危険な男はいない。現に今も自分の能力を使い、武器商人まがいの事をしている。
――――ロシア人 イリーナ=イワノフ。
四勇者の中で、唯一の魔術師。そもそも魔法の概念がないはずの四勇者が元々住んでいた世界で、なぜ彼女が魔法を使えるのか? どこで覚えたのか? そのすべてが謎に包まれている。
見た目はアスカより若く、パイフゥより年上といったところだが、正確な年齢を知っているものはいない。
ついでに、ガイウス=ガリヴァルディの説明も付け加えておこう。
――――イタリア人 ガイウス=ガリヴァルディ。
元々イタリア軍人だった彼は、大戦の際、神仔族の嘘に気付き裏切る。反乱軍側に寝返った彼は豊富な知識と、軍仕込みの戦略で、四勇者を圧倒するほどの力を持っていた。だが、彼は大戦がそろそろ一年を超えようかと言うときに、謎の戦死を遂げる。それを機に、一気に大戦は、反乱軍の敗北へと突き進んでいった。
四勇者の説明を聞いて、フランの先ほどの“まさか”という疑問は確信へと変わった。だが、それを追及はせず、フランは自称カイルにお辞儀をして「ありがとう」と礼を言った。
「とにかく、その閃光弾を使えば勝てるのね?」
「いや……おそらくは…………」
武器屋の主人は苦虫を噛み潰したような顔で、腕を組んだ。
「――――このままだと、成功率は二十パーセントってところか」
「そうなの?」
フランの問に武器屋は頷く。
「……あいつらも馬鹿じゃない。それに、異世界についての知識は向こうも持っている。四勇者がいるからな。五年間で、それなりの知識は持っていると考えていい」
「あ……」
そもそもスナイパーライフルも閃光弾も、元々は異世界の代物だ。そのくらいの知識はあると考えて間違いない。
「だが――――大事なのは、奴らがそれをどこまで理解しているか……それが、つけ入るスキというわけだな」




