第七話「少年と吸血姫―②」
*** 同刻 ギルド本部 ***
「ヴァルトブルグ、今日お前のセガレが初任務だそうだな」
豪快な髭を生やした大男クラウス=オスヴァルトは、葉巻を咥えながら、その少年の資料を自分のデスクに放ったのち、どっしりとした高級な椅子に腰かける。
その前には屈強な体躯を持った黒髪の男、少年の父である最南端の都市、ヴァルトブルグが領主オスカー=ヴァルトブルグ。そして細目でヒョロヒョロとしたロン毛の男、ライナー=ハーマンが立っていた。
「はい。確か……ドラゴニア山のはずれの屋敷の調査だったかと……」
そう言って、少年の受けた依頼書をギルド長と書かれた席に座るクラウスに渡した。すると、鼻で笑いながらその資料を軽くたたく。
「あの屋敷か……ふん。誰かが嫉妬して難易度を偽造でもしたか?」
「お戯れを……ただの書き間違いでしょう。冒険者十人パーティでも攻略不可だったヴァンピーロの館が、難易度Bランクなどありえません」
ライナーの言葉に「かわいそう」などという言葉は一切出てこなかった。
彼がいくら強いとは言っても、吸血鬼の館は難易度が高すぎる。普通なら騎士団上位メンバーで討伐隊を組む必要がある。天才と言っても新人たった一人で攻略するには無理がある。
なぜこんなことになったのか? 少なくとも誰かがこの少年を罠にはめたのは間違いない。
――この少年には聖騎士の序列すら脅かしかねない才能があった。だから処分される。彼らにしてみれば当然のことだ。
現に、以前もうひとりの最年少聖騎士レオンハルトにも同じようなことが起きた。……だが、彼の場合は強すぎて何をしても無駄だと皆が察した。だが、この少年はレオンハルトほどの実力は少年にはない。まだ、Aクラス以上の任務をこなせるほどの実力はない。
それよりも、少年の父親は……この話を聞いても眉一つ動かさない。その男にとっては、ただ“目障りな息子を排除した”だけのようだ。
この世界にとっては珍しい話でもない。変に正義感の強い息子は後々邪魔になることもある。
「まぁいい……貴様の息子だ。好きにするといい。だが……それでも攻略した場合、貴様に息子を殺す覚悟はあるんだろうな?」
「……そのどこが難しい事なのでしょうか? たかが子供一匹殺す事よりも、権力を守ることのほうが、はるかに難しいと私は考えます」
「ふ……まぁ貴様らしい答えだな」
――――その言葉とは裏腹に爪が食い込み血が流れ落ちるほど、オスカーの右手は強く拳を握りしめていた。
*** 同刻 ヴァンピーロの館 ***
「…………」
少年は驚愕していた。
こんなにモンスターが、ウヨウヨしている場所に女の子が座っている。彼女を囲むように、骸骨達が愉快に踊る。
少女は深紅の髪を二メートルはあるんじゃないかというほど伸び散らかし、手入れなど一切していない。前髪も伸び切って、その奥の眼は暗く閉ざされている。
「こんなところで何しているの?」
思わず聞いていた。不気味な感覚はあったが、どうにも放っておけない気持ちが彼を動かした。
「お人形遊びしているの……ほら見て、楽しい踊り」
よく見ると、骸骨達は完全に操られているわけではない。まるで雑なつくりの操り人形のように、手足をぶらぶらさせている。さらにその骨には一部、腐敗しかかった肉が媚びりついていた。乾燥しきって元の色すらわからないが、おそらく元の持ち主のものだろう。他の人形にはもっと新しい肉がついていた。ただ、くっきりと歯型が付いている。
つまり、この操り人形の骨たちはモンスターたちの食料の残骸であり、それを使って遊んでいる。つまりはそういうことだった。
まさに外道の遊び。情状酌量の余地なしと、武器を構えるために体制を低くする。だが許せないはずの右手は、なぜかはわからないが短剣の柄には伸びなかった。
怒りの声を上げようと唇を動かそうとするが、なぜか動かない。そのわけを考えていると、不意に、自分でもよくわからない言葉が少年の口からこぼれだした。
「君はかわいそうだね」
「……そうかしら? とっても楽しいのよ?」
振り返ったその少女の声を聴いて自分の気持ちに確信を持った。体制を戻して、リラックスする。
「君は、本当は一緒に踊る仲間が欲しいんじゃないの?」
「仲間ならここにいるわ……」
「違うよ……仲間っていうのはね、君が操らなくても君を助けて、君と踊る。君と遊ぶし、君と楽しくおしゃべりする。そういう存在なんだよ」
少女は激しく首を振る。まるですべてを拒絶するように頭をかきむしり、激しく激昂する。
「そんなのいないっ‼ そんなのいらないっ‼ 私の言うこと聞かないお人形なんていらないっ‼ 勝手に動くお友達なんていらないっ‼」
「……じゃあ、僕がそのお友達第一号だ」
ニコっと笑って座り込んだ少女に手を差し伸べる。
「試しに、お友達をやってみよーぜ。もし気に入らなければ戦おう。居心地の良さを感じれば、僕たちは仲間だ」
今までこんなことを言われたことがなかった。少女が生きた百を超える年月に、彼のような人物は存在しなかった。
次第にそれは興味へと変わった。クスクス笑い、少年の手を握る。




