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第七話「少年と吸血姫―①」

 *** 十年前 神暦百八年 ヴァン八歳 ***




「ママ! 行ってきます‼」

 少年は勢いよく駆け出した。広大な大地を、鳥のように両手を広げて駆けていく。

「まぁ、あの子ったら……。すっかり勇者様気どりね」

「ああ。いずれオレのように最高の剣士になる。オレが保証してやる。なんたってオレの息子だからなっ!」

「当たり前だろ? 力の神、オスカー=ヴァルトブルグの息子だぜ? そして、俺が大人になったら俺も力の神になるんだ」

 少年は自分の父親が神だということを疑うことなく、そう答えた。それも無理のない話だった。少年にとっては神仔族(ジークぞく)とは、神の子供の事だったからだ。だから疑わなかった。彼はいずれ、神になれると信じていた。その言葉が強く少年の背中を押す。

 今日はギルド聖騎士検定試験の日。ギルドでは、自由契約と呼ばれる冒険者。そして、政権をも担う軍事機関“聖騎士”が存在する。冒険者は給料こそ低いものの、神仔族(ジークぞく)じゃなくてもなることができる。その上に立つのが、神仔族(ジークぞく)のみで作られた軍。ジークヴェルト騎士団というわけだ。聖騎士は王国の軍属に入り、国のために戦うことになる。神仔族(ジークぞく)であるならば、誰しもあこがれる職業だ。

 さらには、このジークヴェルトは完全軍事国家。政治にかかわるなら、みなジークヴェルト騎士団に入団しなければならず、武勲も立てなければならない。日本例えるなら、幕府のようなものだといえばわかりやすいだろうか?

 さらに、万が一この少年が合格すれば、二人目の史上最年少の聖騎士となる。聖騎士史上最強と呼ばれる天才少年レオンハルト。そのあとを追いかける、もう一人の天才。それがこの少年だった。

 自由奔放に戦場を駆け回り、パワーも大人顔負け。視野が広く、たとえ力やスピードで負けていても天賦の才で他者を圧倒する。つい先日も木剣による演習で大人の冒険者十人をあっという間になぎ倒した。実力的には申し分ない。

「任せとけよ! 今日は絶対お祝いだかんなっ‼ ママっ! 肉、用意しておいてくれよっ‼」

「あらあら。今日は大変ね」

 嬉しそうに我が子を見守る母は、今日は牛の肉を用意しなければと、奴隷に用意させるための準備を始める。




 *** *** ***




 ――奴隷がいることについて、少年は一切疑問を持っていなかった。かわいそうなどの気持ちはなく、むしろ、当然のものだと少年は信じていた。

 少年は、両親の言葉を信じていた。神の仔とされる人種。神仔族(ジークぞく)は通常の人種とは全く別の存在であり、神と同じ生き物だと信じていた。それは少年に限ったことではない。

 この世界に生きるあらゆる人種は、その歴史を信じていた。現に、フランツェスカも神仔族(ジークぞく)は神の子供の一族であり、それ以外の人種は、神をマネて作られたまがい物と思っていた。

 ゆえに少年のような、奴隷が日常的に存在する貴族家庭に生まれると、かわいそうなどという感情が生まれることもない。

 少年は奴隷が踏まれている光景を、まるで子犬を可愛がっていることと同じように見えていた。犬が撫でられると嬉しそうにするように、神の仔に踏まれた奴隷は喜んでいたからだ。かわいそうなんてことは……一切思わなかった。当然だ。彼らは嫌がらない。踏んだら喜べと言われれば喜ぶしかない。主人に逆らえず反抗できず、ただただ献身的につくしている。


 ――――それが彼の日常。


 だから、彼も当然のように奴隷を虐げ、そうやって育っていくはずだった。




 それを証明するように、彼はその年で聖騎士検定試験に合格。実に順調な道を歩んでいた――。




 *** 数日後 ***




「最初の任務は古い屋敷の調査かぁ……」

 古い屋敷、なんて言うレベルじゃなかった。外観こそレンガ造りで貴族が暮らしていそうなほど大きいが、全体がツタに覆われ、窓ガラスは割れている。百年くらいは誰も住んでいない様子だ。普通の子供だったら、オバケでも出てくるんじゃないかとビクビクしてそうなものだが、むしろ少年はワクワクしていた。

「どんなモンスターがいるんだろうか? やっぱゴースト系かな? スケルトンとかもいるだろうし、最近は吸血鬼もこの辺で発見されてるらしいし……楽しみだぜ‼」

 胸を高鳴らせて、腰に付けた鞘から短剣を引き抜く。ギラついた刃を輝いた瞳で眺めて、鼻息荒く自慢げに振り回す。

「よし! 行くぜっ‼」

 屋敷の扉を勢いよく開くと、ワラワラと鎧を着た骸骨……スケルトンが迫ってくる。

「スケルトンは内部にコアがあるんだったな。ソイツを壊せば倒せる。へっ、楽勝だぜ‼」

 床を蹴り上げ、古びた赤絨毯が波を打つ。小さな体を最大限に生かして骸骨兵の剣を軽やかに回避していく。

「足がお留守だっ‼」

 脛のあたりを切断し、体が崩れる。その瞬間、スケルトンのコアとなる部分が薄紫に輝くのを見逃さない。反転しながらコアを突き刺し、スケルトンが停止する。その体を邪魔そうに蹴飛ばし、ついでに三体ものスケルトンを巻き添えにして吹っ飛ばす。その一瞬のスキを見逃さず、あっという間に三体のコアを瞬殺した。

「おらよっ‼」

 頭蓋骨を蹴り飛ばし、それを後方のスケルトンは回避する。だが、その一瞬で間合いに入り、そのまま肋骨の間に手を突っ込んでコアを握りつぶす。

「さぁて……あと何体だ?」

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