第五話「紅血の右腕―②」
「…………ヴァン⁉︎」
まず一人目の首を刈りとった剣は、鉄の甲冑で覆われた右腕の力を得て次の首を刈りとる。落とした首をサッカーボールのように蹴り飛ばし、もう一人の相手の顎を砕く。その隙をついて腹を裂く。
「貴様ぁっ‼ あぐぁ⁉︎」
四人目がヴァンに突っ込んだその瞬間。ヴァンはその男の口に何かを突っ込んだ。
「うまいか? ……そいつぁよかった。よく噛んで食えよっ‼︎」
「あがああああああぁぁぁ‼︎」
男の口につっこまれた洋梨は、ヴァンが顎を蹴り上げたと同時にバネが戻り、無情にも開き始める。まずは顎を関節から砕き、歯を割り、口を裂いたあと、大量の果汁を喉に放出した。叫び声が、溺れながら焼け死ぬような悲痛なものへと変わる。
残り二人となり、兵士達もようやく剣を抜く。……その鋼があらわになるときには、すでに一人は頭がなくなっていたが…………。
「残り一人……どうする? 逃げるか?」
「う…………うああぁぁ‼」
逃げようと鉄の扉にしがみつくき、カギを何度も回すが扉は開かない。
「ひっ⁉︎ な、なんでっ⁉︎」
「どうした? 逃げたきゃ逃げろよ…………テメェら“カミサマ”は、奴隷とは違うんだろ? 神の子を自称すんなら、せめて俺から逃げるくらいやってみろよ」
剣は天井を指す。ひたり、ひたりと魂を刈りとる死神のように赤く微笑み、断末魔の渇望を隠しもしない。
首を刈りとる鎌のように剣は振り下ろされ、奴隷ですら情けないと思う悲鳴と共に最後の一人は絶命した。
「ヴァン……どうして」
フランツェスカは、彼がどうして生きているのかわからない様子だ。首枷は確かに白くなり、ヴァンの死を告げたはずだった。
「塗装が剥げたタイミングで白く見えるように細工をしてたんだよ。今は黒に戻ってるはずだ。まぁ、この間抜けどもは気づかなかったみたいだがな」
ヴァンが、首枷を引っ張って見せると、確かに首枷が黒くなっていた。
「……わざとだったの? 私が捕まるまで⁉︎」
「敵をだますなら味方から。ハナっから、テメェの演技なんぞに期待はしちゃいねーよ」
剣に付いた血を振り払い、そのままフランツェスカの拘束を切り払う。不安定な体勢だったためしびれと共に体はうつむけに倒れる。服もボロボロになった彼女を、ヴァンは右肩についていたのマントで包み込む。
「女専用の拷問器具ね……こんなくだらねぇもん手に入れる暇あるなら、もう少しまともな軍師を育てるべきだったな」
そう言うと、銀の腕についた血を手拭いで拭き取る。その瞬間、フランツェスカも冷静さを取り戻し、ヴァンに告げなければならないことを思い出す。
「ヴァン……クレアさんが…………」
「クレアは死んでねーよ」
「え…………で、でもクレアさん首が飛んでたし」
それに彼らは、用意周到に脈を図って絶命を確認していた。とてもじゃないが、生きているとは思えない。
「首を飛ばした程度じゃ、アイツは死なねーよ……それに、俺が生きている限り奴は死なねぇ。クレアが死ぬときは俺が死ぬ時だ」
「首を飛ばした程度って……」
普通の人間はそんなことをすれば死ぬ。いや、というより脳と心臓を切り離した時点で、生きられる生物などいるものか。そんな疑問とは裏腹に、どこか信じられる安心感がそこにはあった。
少なくとも、ヴァンは確信していた。確信できるだけの何かを持っていた。
「行くぞ」
鋼鉄の扉はヴァンが引くとあっけなく開いた。鍵はかかっていなかったのかと疑問に思ったフランツェスカが、鍵の金具の内側をふと見つめた。
「血……?」
鍵の締まる機構……デッドボルトと呼ばれる部分に血がべっとりとついていた。まさか血が固まっていたから開かなかった? そう思ってみたが、さすがに無理がある。兵達の血が噴き出したのはついさっきだし、仮に血が固まってたとしても、血が固まった程度で開かなくなるものか?
「おい。行くぞ」
ヴァンに呼ばれ、謎を置いたままフランツェスカは、その背中を追いかけた。




