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第四話「夢の終わり―③」

 フランツェスカにとっては、ずっと暮らしていたこの聖堂も今は別の場所のように思える。言われて見れば聖堂に連なる屋敷の中で奴隷生活していたのだ。なので、彼女は聖堂の外観を見たことはほとんどない。

 当然ここにはフランツェスカと仲良くしていた仲間もいる。奴隷を開放するためとはいえ、かつての同志に刃を向けるのは気が引ける。

「大丈夫だよ。他の奴隷達には手を出さないから。手筈通りに動いてくれれば、絶対に僕達が助けるからね」

 聖堂の建物の影に隠れながら慎重に事を進める。次第にチェシカに変装したフランツェスカを緑の光が包み込む。

「わ、わかった……」

 フランツェスカにかけられた魔法が解けて、栗色の髪と白い奴隷の首輪があらわになる。

「あんまり汗かいちゃだめだよ。黒首枷の上から塗装しているだけなんだからさ」

「わかってる……」

 覚悟を決めながら、作戦を再度確認する。

 これから、フランツェスカはジルートの衛兵に捕まる。そうすれば、ジルートの性格からそのまま殺しはせず、彼の前に連れ去られるはずだ。

 その騒ぎに乗じてクレアとヴァンが屋敷の裏口に侵入。クレアの魔法でフランツェスカの拘束を解いて三人で挟撃する。

 最終的にフランツェスカがジルートの止めを刺す。主人を殺したことで、フランは解放される。

 また、この街のほとんどの奴隷はジルートのものだということは調べがついている。ジルートさえ倒せば多くの奴隷を開放させることができる。

「カギとなるのは、あなたよ。フランツェスカ」

「うん……ありがとう。クレアさん」

 行動に出ようとするクレアを、フランツェスカは呼び止める。

「あなたは……本当に、この世界を変えられると思ってるんですか?」

「……ううん。多分革命が成功しても、人は変わらない。僕はそれくらいの絶望は知ってるつもりだよ?」

「だったらなぜ…………」

 クレアの瞳の奥は、いくつもの闇の中を見てきた絶望と…………それでも信じた希望を一つ。そんなあいまいだけど、確かな強い意思を感じた。

「ヴァンを信じたくなった……ただそれだけ――――」




「人を信じる暇があるなら、もう少し自分の能力を信じられるくらいは鍛えるべきだったな」




「へ――――」

 クレアの言葉の続きは音にならず、代わりに血しぶきと重い頭の落ちる音が鼓膜を刺激する。

「ふん……私をなめすぎだ。これでも剣においては正規軍に引けを取らぬ力をもっておるのだぞ? なぁ、フランツェスカ?」

 混乱している頭を必死で整理する。作戦は始まるはずだった。順調だったはずだ。だがどうしてバレた? それより、なぜジルートがここにいるのだ? そんな疑問ばかりが、まっしろな頭の中を支配する。

「ど、どうして……ジルート様が」

 震える声で、どうにかその言葉を絞り出す。

「ヘタクソな変身魔法なんぞ、門番の時点で、すでに看破しておるわ。いくら何でも軍をなめすぎだ」

 ジルートの私兵が、クレアの首のない死体の脈を調べている。死を確認し、静かに首を縦に振る。

 クレアが死んだ……あまりにも、あっけなく――――。

「なるほど、やはり人形(プリューシュ)だったか……。術者はあの男に違いないか」

人形(プリューシュ)……?」

「簡単な話だ。……赤翼の吸血姫。クレア=アルカードはすでに死んでいる。彼女の姿は、吸血鬼の力を使って生み出した人型の模造品。骨すら存在しない。形をマネただけの人間の出来損ないって事だ」

 “すでに死んでいる”という言葉はとても信じられるものではなかった。だが、一つだけ納得できたのは、クレアがもし、人形(プリューシュ)と呼ばれる存在であるならば、ヴァンとクレアの今までの関係性には一部、納得がいくところがあった。クレアのヴァンに対する絶対的信頼は、ヴァンが作った人形だから。それが真実なのだろう。

 どちらにしても、今その人形が破壊された。ヴァンが生きているとしても、たった二人で勝てる見込みなどない。

「そんな……」

「さて……脱獄して、どこかで野垂れ死んでいると思ったが……いやはや、よくやったものだ。うまく反乱軍残党を誘きだしたものだっ‼」

 ほめる言葉とは対照的に、彼女の頬にジルートのつま先がめり込む。

「ぐぁっ‼」

 小さな悲鳴と共に彼女は倒れる。

「水よ……小娘の本性を暴き出せ。アクアブラスト」

 ジルートの手の平が圧縮した水を放ち、彼女を襲う。

 小さな体はその水圧に押されて、子供の投げたぬいぐるみのように軽く二、三度はずみながら転がる。

「ふん……こざかしい真似を。やはり奴隷省に裏切り者がいたか」

 ハッとして、フランツェスカは首枷を引っ張って見下ろす。色が剥がれ落ちて、一部黒くなっていた。

「くぅ…………」

 残りの頼みの綱はヴァンだけだ。せめて彼が一矢報いれば…………。

「ああ。ヴァン=リベリオンについても、すでに死を確認している。あとは……奴隷のお前だけだ」

「そ……そんな…………あっ!?」

 黒く染まっていたはずの首枷が白く戻っていく。それは主人だったヴァンが死んで、ジルートが主導権を握ったことを意味していた。

「さぁ……我が奴隷フランツェスカ……テロリストを誘きだしてくれたとは言え、勝手に脱獄した…………その罰は、死にも価するぞ?」

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