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『一人と一つ』の逃走戦


きっかけは、何だっただろうか。

こんなにも“罠”というものを好きになったのは。


別に悪戯っ子だった訳ではない。

勉強は嫌いだったが、好きなモノの知識を集める事は好きだったから本ばかり読んでいた。


というか、そもそもゲームに興味が無かった。

中学、高校になってからも――付き合いでやることはあってもそれだけだった。



《――「お、おにいさま。い、一緒にゲーム、やりませんかっ」――》



……ああ思い出した。

俺はあの時、“アイツ”に誘われたんだ。


血の繋がりのない兄弟が出来てから――ほんの少し経った頃に。



《――「(あき)は“AGI(素早さ)”ばっか振ってんのな」――》

《――「スピードこそ正義〜♪ あっ」――》


《――「死んでんじゃねーか……」――》



よくあるRPGのVRゲー。

オフラインのそれで、よく二人きりで遊ぶようになった。


子供でも遊べる様な可愛いやつだ。



《――「お、ナイス兄さん!」――》

《――「麻痺罠……良いな」――》



スピードで敵を翻弄するアイツ。

そして、裏から罠を仕掛ける俺。


いつの間にか、そんな連携が出来ていて。



《――「この毒罠、積み重ねられるぞ……」――》

《――「に、兄さん?」――》



いつの間にか、俺もゲームに夢中になっていて。

いいや――『罠』に夢中になっていて。



《――「落とし穴サイコー!!」――》



今に至る。

気付けば、それは一つの趣味になっていた。



《――「兄さんが楽しそうで、ボクも嬉しい♪」――》



そうだ。あの笑った顔だ。

時は過ぎ、離れた今でも――何処かで彼は遊んでいるんだろう。



……もちろん、このFLでも。










この戦場――プラチナレッグ一行は、敵が俺だけだと思っているんだろう。

だがそれは違う。


上半身、自分の防具を外して地面に投げる。

視線は上。ばれないように。


見知った顔がそこに居るから。



《リンカ 弓士 LEVEL20》




――『タイミングはいつでも良い ボクに任せて』




同じチームである彼女が、“嫌そうに”持つ『旅の記録』にはそう書かれている。

もちろん俺のやつじゃない――彼女でもない。

“もう一人”のモノ。



《――『ボクは敵じゃない』――》



少し前……木の上。

視線を感じたと思ったら“そいつ”は居た。



《――『助け、要りそうだね』――》



アーノルドを倒した後から、チラチラとメッセージを書いた旅の記録を掲げていたのだ。

プラチナさん達にバレないかヒヤヒヤだったよね。


そしてさっきリンカとバトンタッチ。

今は準備に入っているんだろう。


勘違いかな。

本当に、懐かしい筆跡だ。




「――ハンデはこれぐらいで十分か?」




ってわけで、ありがたく任せるとしよう!



「なっ……!」

「『高速罠設置』」



まさか防具を脱ぐと思わなかったんだろう。

明らかに“隙”が生まれた。


その間に、小声でスキルを発動――



《落とし穴を設置しました》



スコップを片手に、0.7秒で服にソレを設置。

周囲を見れば、刀の様な長い剣を構え……こちらに迫る一人の少女。


彼女だけは、いち早く俺に向かってきていた。



《雫 軽戦士 LEVEL26》



「やっちゃうよ、リーダー!」



完全に殺る目だ。

だからこそ、行動が読める。



「『抜刀』――」




その長剣。美しい鞘から放たれる一撃。


もちろん食らってはやらないがね。



《落とし穴が発動しました》



「へ!?」



回避。俺はするすると入る。

地面。背後……さっき捨てた、“防具”に設置していた落とし穴に。


そして――



「――来い!」



落ちながら、俺の呼び声。





「――『迅雷の術』!」





同時にプラチナレッグの面々から飛び出す影。

足元に雷の様なオーラを纏った黒装束。






《VP 忍者 【“最大瞬間風速(ソニック)” 保持者】 LEVEL30》







「ごめんねっ、ダガーはボクが貰っていくから!」





気付けば、すぐそこに声が聞こえる。

とんでもない早さで向かってきた事が分かる。



「は? なんでココでアイツが――」



目を見開くプラチナさん。


移動。動作。一つ一つ。

彼だけ、二倍速で流れているかの様だった。



「よっ」

「どーも」



彼は、“俺が入った”防具を一瞬で拾い、羽織って走った……多分。

……穴に居るから、想像だ。



「はっや」



すんげー勢いで世界が遠のいていく!

ちなみに、俺の体重は今ほぼゼロである。



『検証ナンバー57』


検証ナンバー53の検証時に一つ、興味深い事があった。

旅の記録に落とし穴を設置。

その中に俺が入り、外に居るPさんが旅の記録を閉じて穴を閉じれるかという検証。


ここまでは以前述べた通り。結果は不可能だった。

しかし旅の記録をPさんが途中、勢い余って“持ち上げた”のだ。


いくらゲームとはいえ、俺は普通に成人男性のサイズで重い。

なのにビックリするぐらい軽かったと。どうやら『旅の記録』の重量と同程度だった。

しかしながら、落とし穴にハマった俺を引き上げる時は普通に重い。


つまり……“穴”を設置したアイテムは、穴に何が入ろうが重量が変わらないという事になる。カロリーゼロ!

物理法則はとっくの昔に無視しているが、本当にこの穴は異空間なんだろう。

グラウンドトータスでも突っ込んであげて検証したい。



結論。

仮に体重計の上に旅の記録を置いて落とし穴に入ったとすれば、1キロにも満たない表示になる。


ダイエット中の女性にも嬉しい。

そう、落とし穴ならね。




「……かるっ! 何この感じ、すごい不思議」

「だろ?」


「これなら余裕で振り切れるねっ!」



たった一秒。されど一秒。

彼の背中、羽織られた防具の穴から顔を出さない様覗けば……その光景からスピードが異常だと把握した。


スキルの恩恵か。

それとも、ステータス――



「両方!」

「っ、このまま背中借りるぞ、そっちのが早い」


「どーぞ〜♪ わっ今度はちゃんと重い!」



読まれて返された。


落とし穴の時間終了。

防具の穴から押し出されていくので、上手く彼の小さい背中と首に掴まる。


スコップはインベントリに仕舞い、おんぶの状態へ移行! 我ながらスムーズだ。

もうプラチナレッグとは大分離れ――



――「ああもう次はなんや!?」「上だ!」「ッ、詠唱が」

「拙者が守ります!」「お前(ドM)は攻撃食らいたいだけやろ、それでも白金級か! ダガーを狙え!」



そして、彼らは上から襲い掛かる矢に苦戦している。ありがとリンカ。

一人おかしいやついるけど!


これなら余裕で――



「『短縮詠唱』」


「逃がすかッ! おい足場《ドM》!」「いつでも!」



というわけにはいかなかった。

アーノルドと同じ『魔導士』の詠唱。


加えて、不穏な声。





「――『炎蛇』!」



《ドMで行こう 格闘士 LEVEL23》

《雫 軽戦士 LEVEL26》



放たれた炎の横。

見えたそのプレイヤー、二人。



「『アームブロック』――」

「ッ――」



格闘士は、腕を胸の前でクロス。

軽戦士は、地面を蹴ってその格闘士の腕に足の裏を合わせる。



「『カウンター』!」

「『スプリント』ォ!」



それにタイミングを合わせ――格闘士が腕を広げ解放。

同時に腕から軽戦士が跳ぶ――ロケットの噴射の如く。


その勢いのまま、猛スピードでこちらまで突っ込んでくる!


彼女の足にはVPと似た風の様なオーラ。

恐らくAGIを上昇されるそれ。

あっという間に、横の炎蛇を追い越して。




「待てッ、ドロボー!!」




迫ってくる、“一人”と“一つ”。

『雫』、そしてアーノルドの時にも見た『炎蛇』。



「うわぁ気配が近付いてくる。ボクAGI極振りなんだけど、相当振ってるなぁあっちも」

「俺背負ってるせいだな」

「アハハっ! 仕方ない、リンカも今は必死だろうし――」



コイツの声。

コイツの背中。


姿は黒装束、顔もほぼマスクで見えないが――。


一目見て、感じた。

木の上に居た“彼”を見た時から。

なんとなく――お互いに考えている事が分かるんだ。



「ダガーは『軽戦士(あれ)』!」

「お前は『炎蛇(アレ)』だ――支えてくれ!」


「りょっ!」



走り続けるVPの背中。

おんぶの体勢から背中をのけ反り、目標を補足。


イナバウアー!



「『同時罠設置』」



そのまま地面に手を擦り触れる。

3、2、1……



「このッ! 絶対逃がさないッ――」



目の前には、今まさに追い付こうとする雫。


鬼の形相で刀を振らんとする光景は中々恐怖。



うーん、ギリギリ。でも――



《落とし穴を設置しました》

《落とし穴を設置しました》

《二つの落とし穴が合体されました》



「――跳べ!」

「りょっ!」



間に合った。

その勢いじゃ、避けられないよな?





《大落とし穴が設置されました》






「墜ちろ」






《大落とし穴が発動しました》




「あッ!? きゃああああああああぁ――」



設置した瞬間に、彼女はそれを踏み発動。

巻き込まれない様VPはジャンプ。


次だ。

地面に吸い込まれる光景を見送って、後ろから迫る炎。

それを、彼は――



「『分身の術』!」



後ろ。

“もう一人の彼”が現れたと思ったら、そのまま炎を受けて爆散!



「……余裕じゃねーか」

「でしょ〜♪」



そのまま俺達は走っていく。

騒がしい森の中を、彼と共に。



「じゃあね、“カルシウムエッグ”さん!」



背中。

そんな風に、笑うコイツを見ていたら。



「……“宿題”はやってるのか?」

「……さあ、なんのこと?」



懐かしい声音。

思わず呟いてしまったソレを、目の前のプレイヤーは楽し気に否定した。




「……ははっ。そうだな」




自分が言った事。

俺達は――『Vilrtual(ヴァーチャル) Player(プレイヤー)』。




「助かったよ、『VP』」

「どういたしまして、『ダガー』!」



目の前に居るのが、例え我が“義弟”……『長久 秋(ながひさ あき)』だったとしても。


この世界じゃ、何も関係ないってことだ。






「ダガー!!!」



そしてしばらくして、もう一人の功労者であるリンカが来たのだった。



……生きてて良かった!

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