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職業『罠士』の大罪人 ~不人気職の検証勢、最前線を突き進む~  作者: aaa168(スリーエー)
『落とし穴には、無限の可能性が広がっている』
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閑話:リンカが狂鬼に至るまで①

リンカ視点の回想です、長すぎたので分割しました……ちょっとシリアス。ご注意ください。

あたし、『虎取 鈴花(とらとりりんか)』はお姫様に憧れていた。

可愛いだけじゃない、強くて格好良さも兼ね備え――たくさんの仲間も居る、そんな物語の主人公に。


現実じゃ退屈な日々だ。おまけに一人ぼっち。

あたしが異世界転生したら――そんな妄想は膨らんで。

やがて、『Freedom-Liberty』が発売。


30万なんて余裕で出せる。

下手くそなりに頑張って作った、憧れのキャラクターを真似たアバター。

アニメで見た様な弓を使う花凜な彼女を、自分に投影した。


きっと、素晴らしい世界が待っていると思っていた。



《リンカ LEVEL5 弓士》


「ねぇそこの――リンカちゃん、一緒に狩りしない?」

「良いですよ~♪」


サービス開始一日目。

出来るだけ可愛く話して、身振りも可憐な少女みたいに振る舞った。


『あざとい』、そういうやつかもしれない。

女性プレイヤーは寄りつかず、男ばっかりあたしに寄ってきた。


そしてそれが誇らしかった。

あたしでも、可愛くなれるんだって。

現実じゃ不可能だったお姫様に、あたしはなれるかもしれないと。



「あー、リンカちゃんは後ろ居て良いよ」

「ほらほら下がって下がって~」


「え、えぇ。大丈夫ですよ」


「良いから」

「あっ後で喫茶店行かない? VRだけどしっかり味がして――」


しかし良いのは最初だけだった。

自分よりも戦闘が下手な者ばかりで、逆に前に出ようとすれば下がって良いといわれる。

またそんな弱い奴に限って、狩りをすぐに止めて駄弁ろうとしてくる。


「――『コンタクトショット』」


「お、おいって」

「あはは、俺達邪魔っぽいな~じゃあね」


「え――」


《パーティから追放されました》


そして、我慢出来ずにあたしが前に出て戦えばこれだ。


その繰り返し。

一日目で、既にあたしは理想と違う世界に落ち込んでいた。


……でも、何時かは。

自分の強さを認めて、共に戦う仲間が出来ると思っていた。



「ねぇリンカちゃん! 一緒に組もうよ」

「……ごめんなさい~、今は一人で」


「ふっ、ふふ。可愛いなぁ。良いじゃん組もう、きっと良いペアになれるよ」

「ッ……やめてくださいよぉ」


「良いから良いから」


戦闘フィールド。

もう今日は一人で狩ろう……そう思っていたら、何時かのパーティの一人が近付いて来た。


鬱陶しいナンパに、ボディタッチが目立つその気持ち悪い男。

あたしを舐めており、かつ歪んだ好意が向けられているのを感じていた。


フレンド、解除しておけば良かった。

肩を触る手が気持ち悪い。

その声も。その弱さも。


ゲームを始めたその時。

浮かれずに、このゲームの説明書をしっかり呼んでいたのなら。

『ブロック機能』に『通報機能』を、知っていたのなら。


「――触んな、ゴミが」


《罪ポイントが加算されます》

《PKペナルティが発生します》

《PKペナルティ第一段階》


彼に、その矢を命中させる事も無かったのに。


「ひっ……あ、あーあ! 終わったぞお前!」

「あァ?」

「ひい……っ!」


怯えるその身体は蹴り飛ばせば簡単に崩れた。

見下ろした彼の姿は、本当に醜く。


消してやりたい――そう思った。



「失せろ」

「……はっ、はは。殺してみろよこの××(ビッチ)が!」

「あ? テメー何つった!?」

「この暴力女が! 自分の事可愛いとか思ってんじゃね――」


「ッ!! ――『パワーショット』!」


もう止められない。

システムの力を借りず、あたしはその男を蹂躙した。




《『セイ』様をキルしました》

《罪ポイントが加算されます》

《PKペナルティが加算されます》

《PKペナルティ第二段階》


《報酬を獲得しますか?》

《報酬(2)を獲得しますか?》



「……『獲得しない』」





翌日。

昨日はあの男をキルしてから気分が悪くなって、すぐ『FL』を止めた。


そして挑んだ二日目。

一日目に得た経験値にアイテムもほとんど無くなっていたのが、ある意味良かった。


そうだ。

昨日は、悪い夢だ。

今日から再スタート。

この前と同じ様に、可愛く振る舞って……



《パーティに加入しました》


「よろしくお願いします~♪」


「えっちょっと待って」

「ねぇ君、罪ポイントが……30ってなってるけど」


「え」


「あっ! はは、まさかNPCにイタズラしたとか?」


「あ……あの」


「いやそれなら30も行かねーだろ? NPCに30回もってそれはそれで」

「えっもしかして君……あ、じゃあね」


《パーティーから追放されました》


――「……『PKer』だ、危なかったな……」「見た目によらねーもんだ」――


『罪ポイント』、それはどうやらパーティを組んだ時点で見えるらしく。

彼らは、あたしの反応を見て去った。


「待てよ……」


呆然とする自分には目もくれず――遠くへと。



《パーティーから追放されました》


《パーティーから追放されました》


《パーティーから追放されました》


《パーティーから追放されました》


《パーティーから追放されました》


《パーティーから追放されました》


気付けば寄ってきた者達は全員、組んだ瞬間から去って行く。



――「おいアレ見ろよ、確か掲示板で見た危険人物だ」「マジ? 逃げるぞ」「誰でも見境無くキルするらしい、しかもスゲー慣れてる」――



狩り場。

たった一人のあたしを、嗤う様に聞こえてくる声。

昨日のアイツが、掲示板とやらであたしの悪名を広めているらしい。


悪いのは、あのゴミ野郎なのに。

なんで、あたしが。

あたしは――ただ『憧れ』を目指しただけなのに。


どうしてこんな思いをしなくてはならない?


《セイ LEVEL7》


「ひひっ……良い気味だな! フレンドはもう俺だけじゃね?」

「ッ……! テメェ!」


不意だった。

近付いてきた、そのゴミ野郎。

そういえば、フレンドリストからソイツを消していなかった。



「わざわざ同じチャンネルに来て上げたのに酷いなぁ」

「あァ?」

「君はもう戦闘狂の殺人鬼。ほら、君と組んであげられるのはもう僕だけ――」


「――『コンセントショット』!」

「ぶっ……!」


《罪ポイントが加算されます》

《PKペナルティが発生します》

《PKペナルティ第一段階》



「二度も言わせるな。失せろゴミ」

「あっ……あ、あーあ! やっちまったなお前!」



《アリ LEVEL6》

《ユウヤ LEVEL8》



「マジでやったじゃん、馬鹿だろコイツ」

「PKペナ持ってる奴、マジで経験値美味いらしいぞ」

「ははっ、覚悟しろ――」


その背中から現れる仲間とおぼしき野郎共。

待ち伏せしていたのだろう。

自業自得。手を出したこの女が悪い。だから容赦なく狩ってやろう――



――なんて、この男の思考を理解した途端。

氷の様に冷たい血が、身体を駆け巡っていく。

要らない思考は消え、精神が研ぎ澄まされていく。

この感覚は、好きでもないが嫌いでもない。



それでも――今はコレが良い。




「……なあ、テメェら」




『戦闘狂』……『殺人鬼』。

このゴミ野郎はそう言った。


なら。

どうせ、流れてしまっているのなら。

あたしが――この『リンカちゃん』が。




「その噂。『()()』にしてやるよ」


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↓過去のVRMMOモノです。コミカライズもしてるので良ければどうぞ。↓
やがて最強のPKキラー(職業:商人)
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