「最高のアイデアだ」
「はっ、ははっ――成功!!」
広がるのは、グリーンエルドを一望する光景。
闇市だけじゃない……戦闘フィールドすらも見える。なんなら薄っすら“その先”も――
「値千金どころじゃないな」
空に憧れた者達の気持ちが分かる。
この感覚は、いかようにも形容しがたい全能感。
以前の地雷ジャンプとは比較にならない。
単純計算じゃその五倍……多分4、50mぐらいか?
鍬の起爆のおかげか、至近距離で爆発を食らったわけじゃない。
だから体力は4割ちょい残っている。
「――ッ、『高速罠設置』」
《地雷を設置しました》
だが、そんな夢の時間はあっというまだ。
落下していく身体。
当然そのままってわけにはいかない。
このまま落ちたら死んじゃうからね。
ポケットに仕舞った空瓶に地雷を投入し、地雷グレネードを作成!
「らぁ! ――ぐっ……よし、生きてんな」
《地雷が発動しました》
地面に到達する瞬間、足元に地雷を落とし、踏んで起爆することで落下の衝撃を上書きできる。
これに関しても事前に地雷ジャンプの時に検証済みだ。
タイミングはシビアだけどね(n敗)。
名前を――どうしよう。
『地雷ジャンプ』の上……『地雷大ジャンプ』か?
それだと特別感ないし、『地雷飛行』にしよう。
「いやぁたまらんね。しかも、この残体力ならもっと地雷増やせるな」
「……」
「ん? おい大丈夫か」
「あ、あぁ……」
「約束通り、次お前の番な」
「!」
悔しいが、このPK野郎が居なければ数時間はこの飛行に辿り着けなかった。
多分俺へのリベンジをしようとしていたんだろうが、俺には関係ない。
そんなものより、“こっち”の方が先だ。
……さっきからソワソワしてるし。
早く飛びたくて仕方ないんだろうな、内心は。
「あっ」
「な、なんだよ」
「お前鍬って装備できんの?」
「……槍で良いだろ」
「あっそうか」
「……あぁ」
「というかアレ出来る?」
「多分」
「そうっすか……」
一応あの曲芸っぽいの、小一時間は練習したんだけど。
リンカといいコイツといい、たまに自信無くすよね!
「……ッ」
「さっきから言いたい事あったら言えよ」
「なんでもねぇ」
「嘘つけバカ。言ってみろ――集団思考はな、考えた事そのまま言うから意味があるんだ(てきとう)」
「ぶ、ぶれ……ああクソ、“アレ”から飛んだら、もっと飛べると思っただけだ!」
顎で示すその先。
そこには、俺が忌み嫌うあの場所。
「……へぇ」
グリーンエルドの某ドームがあった。
そびえ立つそれは、俺達が入れない建物。
あそこじゃ普通の地雷ジャンプじゃ届かなかった。
失敗後に見たそれは、まるで俺を嘲笑うかの様だった。
でも。今なら――。
「ああ、最高のアイデアだ」
☆
《地雷を設置しました》
《地雷を設置しました》
《地雷を設置しました》
《三つの地雷が合体されました》
《大地雷が設置されました》
《地雷を設置しました》
《地雷を設置しました》
《二つの地雷が合体されました》
《大地雷が設置されました》
「……」
「良い眺め!」
十分後。
宣言通り、ハオスは一発で地雷飛行をクリア。
しかも着地の瞬間にスキルを放って衝撃緩和までしてた。
なにその着地技、知らないんだけど……俺のホースラッシュ(鍬)でも行けんの?
で。
ドーム高さは大体20mちょいぐらいだったから、大地雷による地雷飛行で丁度到達。
なんで地雷のダメージ俺よりそんな少ない?
あっ戦士の防具は罠士と違う? そうっすか(泣)。
「……」
「いやぁ、もうこの時点で高いんだもんな」
なんかずっとボーっとしてるんだけどハオス。
大丈夫かコイツ。
でもこの感じ――昔行った京都旅行を思い出す。
ああ絶景かな絶景かな。
ここで一句(清水寺)。
「おいお前 感動するの まだ早い」
「……」
「納豆ネバネバ平城京(710)」
「……ッ!?」
「大丈夫かお前……おさらいだ。地雷は実際に武器に触れなきゃ爆発しないから、二つとも槍で思いっ切り起爆しろよ」
「……あ、あぁ。分かってる」
ドームの頂上、ど真ん中に落とし穴を設置。
可愛い地雷達を囲えば、後はハオスが飛び込めば発射する。
「……」
だというのに、途中で彼は立ち止まってしまってこちらへ振り返ってしまった。
早く飛べ! 後が支えってんだぞ! 物売るってレベルじゃねえぞ!
「ビビってんの?」
「違う……なんで俺にこんな事しやがる? 飛ぼうとした瞬間に殺す気か?」
「そこまでサイコじゃねーよ馬鹿」
「……ホントかよ」
「はぁ。ある偉人が言ったがな、人の愚かさってのは無限大なんだ」
「?」
「お前らが三人で同じ様に俺を殺しに来てたのなら、迷いなくお前がコケた時に鍬を叩きこんでやった」
「……何が言いたい」
例え彼による“あの”閃きの一件があったとしても――俺はまず、ソイツらを倒す事を優先しただろう。
腹立つからな。
「俺の中でお前の『愚かしさランク』が“まだマシ”程度になった。正々堂々、お前は一人で来たからな」
「!」
「うん。もう良い? だから安心して早く飛んで」
「チッ……そうかよ」
舌打ち交じりに地雷の方へ向くハオス。
やっと納得したか。
俺だって――“そんな表情”のヤツの背中を刺す事なんてしない。
「それじゃ、快適な空の旅を」
「ハッ! どこが――」
冗談交じりにそう言えば、ハオスはようやく前に進んだ。
「『ウィング・スピアー』」
槍を突き立て、飛ぶハオス。
その手は震えているが、精度には問題ないだろう。
ああ、分かるさ。
楽しみで仕方ないんだろ?
その少年の様な笑みを、お前は隠し切れていない。
《落とし穴が発動しました》
《大地雷が発動しました》
《大地雷が発動しました》
「行ってら~」
次回は明日のお昼頃!




