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夢見る少女は空を飛ぶ

ジャンルVR月間2位になりました。

本当にありがとうございます!

次回更新も明日昼12時になると思います。


「……え、何なんだよこれダガー」

「罠」

「いや分かるけどよ。何でこんな街中で」

「早速だけど、検証に付き合ってリンカちゃん」

「キモッ」


もう聞きすぎてダメージゼロ。アオイに言われたら多分自決。

集合場所、始まりの街・非戦闘フィールドの武器屋横。

ここは影になってて人が少ないんだよな。


んで今日はリンカは赤ネームじゃなかった。一安心。真っ赤なまま来られたら……ま、その時はその時だ。



「……で、何なんだこの黒いの」

「ご協力どうも――あっ! それ触れんなよ爆発するから」

「はぁ!? あッぶねぇ!」



今の状況。

地雷×2と、落とし穴×1を設置中。

落とし穴を真ん中にして、それを囲う様に地雷を2つ設置してある。

言わずもがな、あの『穴ジャンプ』に地雷を追加した『地雷ジャンプ』の強化版だ。地雷を2つにした事によって飛距離は上昇……制御は難しいが、先程成功した。


いつかこの地雷ジャンプについても徹底解剖したいところ。それぐらい楽しいのだ。


「って訳で。俺の背中に掴まれ」

「は?」

「移動ついでに検証するから」


リンカは背丈が小さくて助かった。

おんぶしても多分余裕。つーかこのゲーム、体重とかどうなるんだろ? 全員固定?


「……うん」

「前でも後ろでもどっちでもいいけど」

「う、後ろに決まってんだろ!」


もう一度言おう。俺のタイプは身長が高くて包容力のある年上のお姉さん。

見た目は都会に染まりきってなくて、顔にほくろとかそばかすとかがあると神です。


つまり彼女は前でも後ろでも横でも上でもどっちでも良い。子供を相手にしてる感じだからな、それに金髪だし。


アオイ? おんぶでも緊張する。

というかBANされそう。


「えっ後ろじゃないの?」

「……前」

「いやどっちでも良いんだが――よっと!」

「ぅ……ッ」

「軽ッ」


結局リンカは俺の前に来た。

屈んで彼女の上半身と下半身を支え持つ。

そして立ち上がり、ぐいっと俺の腹まで持ってきた。


世間ではお姫様だっこと呼ばれているが、この場合はクソガキだっこである。

一応運びやすさでいえばおんぶよりこっちのが上だし、ぶっちゃけ助かった。

声も届きやすいし様子も見えやすい。



「うぅう~~ッ!」

「え、何」

「早くしろよ! 検証するんだろ!!」

「うわジタバタすんな――落ち付けって! どうどう!」

「……あ」



両腕を振り回すリンカ。恥ずかしいならやめとけよ!

とりあえずさっさとやってしまおう。


「リンカ、地雷には触れない様頼むぞ」

「……うん」


《落とし穴が発動しました》


リンカを抱えて、生成された穴に落ちる。

彼女を抱えているせいか、少しだけ穴が広い。助かる。


「ひいッ!」

「ナイス回避」


そのまま、地雷2つ無事落下。

後は――これを踏んでジャンプするだけ。



「じゃ、空に行こうか!」


《地雷が発動しました》

《地雷が発動しました》


「ぐッ」

「え――わぁ!!」


「行くぞ――!」


爆風を両足で受けながら、体勢を前へ。

バランスを崩さない様に、上昇しながら目標を定める。


「とっ、飛んでる飛んでる!!」

「だからジタバタすんなって!」


飛行距離、大体4,5mぐらいか?

やはり二人だと縮む様だ――


「――っと!」

「はッ、はッ、え……どこ、ここ?」

「驚いたか? 武器屋の屋根だよ」


先程した10分の検証で、俺はそれを確認していた。このフィールドの建物にのれる事を。


「良い眺めだろ?」

「……す、すげぇ。すげぇよダガー!」


目を輝かせるリンカ。

子供は高いところが好きだからな。

きっと喜ぶと思った。検証ついでだけど。

同盟の願いを受けてくれた、彼女へのほんのお礼だ。


これでパーティでもこの地雷ジャンプが使える事が分かった。

流石に二人までだがな!


「すごいすごーい!!」

「はしゃぎすぎだろ……」


子供以上の子供、クソガキリンカには効果抜群だったみたいだ。

屋根を走り回っている。


おっ跳んだ。今は雑貨屋の屋根だ。

次は防具屋……まるで忍者みたい。


あの、どこまで行くんですか?



「話を戻そう」

「そうだった……リンカちゃん迂闊だぜ」


ま、そんだけ楽しんでもらったのなら落とし穴と地雷も喜んでるよ。

息を切らすほどはしゃいだ彼女を呼び戻し、二人して屋根に座り込む。

うん、いい景色だ。


「ふう……まあ簡潔に言うと、この街の牢獄のボスみたいな奴倒したらスゲー経験値貰えた」

「え。牢獄ってもしかして門番にやられたら連れて行かれる場所かァ?」

「ああ」

「え、テメーそこのボス倒したのかよ」

「うん」

「攻略じゃ報告無かったぞ……お前ってもしかして凄い?」

「罠士の罠が凄いんだよ」


落とし穴と毒罠が勝ったんだ。

俺が強いとかそんなんじゃない。

それはリンカ、お前が言われる台詞だ。


「でも」

「どうした?」

「り、リンカちゃんが見てきた情報と違い過ぎるぜ」

「何も知らない奴らの言葉だ」

「それは……」

「現に、こんな事まで出来てるだろ?」

「……それはそうだけど。で、でも罠士だろ? 普通思わないぜ!」


幾度となくその声は聞いてきた。

街中。さっきまで見られる度に『罠士』、『罠士のくせにレベル20』。


他人の声なんてどうでも良いが同盟のリンカは別だ。

世の中の声に影響を受け過ぎるのは、子供の良くない所だな。

ちょっと説教してやるか。ちょっとだけ真面目に。


「なあ、リンカ」

「へ!? なっなに?」


……門を越えて見える戦闘フィールドの草原、動き回る人達の姿。

防具屋の暖簾(のれん)も風で揺れて、息をする様に動いていく世界。


俺は、そんな屋根からの景色を楽しみながら――横に居る少女に言ってやった。



「その罠士を愚弄した奴ら、見限った奴らはこの罠達の可能性に気付けてない。いや違うな、気付こうともしてない」


「下の道を歩くプレイヤー達が、上に居る俺達にまったく気付かず素通りしていく様に。誰も見ようとしない世界にはな、それだけ『何か』が眠っているんだ」


「罠士には罠士の可能性と魅力がある、そしてソレを俺は知ってる」



罪人が言っても雰囲気無いかもしれないけど、きっと大事な事だ。例えこれがゲームでも。

リンカの様な天才なら尚更——世の声に影響を受けすぎて欲しくないんだ。


偉大な学者は言った。

『常識なんて、偏見の蓄積でしかない』と。



「…………ぁ。ぅ……」

「はい?」



俺ばかり喋って退屈してないか……そう思ってふと横を見れば、ぼーっと俺を見つめるリンカが居た。

目は(うる)んでるし、口開いてるし頬は赤いし。

眠たくなっちゃったのかな? 子供には難しい話だったか。反省しよう。


――でも起きろ。流石にちょっと辛い。

居眠り生徒を前に、教壇に立つ先生の気持ちが分かった気がする!


「リンカ?」

「……」

「リンカちゃん~」

「……」

「起きろクソガキ」

「……」

「えぇ……」


マジ? 流石に読めなかった。

これで反応無いのは反則だ。次は何て言ってやろ――


「――――んだよクソガキってオイ!!」

「うあッ!?」


と思ったらいきなり叫び出すリンカ。

時間差攻撃止めろ! 鼓膜破れる!


「うぅ……でも、たまになら、その、テメーの検証に付きあってやっても良いぜ」

「今までもそうじゃなかった?」

「うるせー!」

「ああそうだ、一回牢獄行ってみるか? 俺の罠があればもう一回倒せると思うけど」

「……いや、テメーに時間取らせるし良い。その情報だけで十分だぜ」

「そっか」


ま、リンカらしいな。

コイツは寄生とか嫌いそうだし。


「アタシはアタシで倒してやるぜ!」

「その意気だ」


「じゃッ、じゃーな! 貴重な情報ありがとよ!」

「おう」

「ば……ばいばい」


タタッと走り、屋根から屋根へ飛び移る彼女

そのままリンカは門まで行くと、飛び降り戦闘フィールドへ駆けていった。


……さて、彼女に追いつかれる前に俺も――


《リンカ様からメッセージリクエストを受けました》

《メッセージリクエストを承認しました》


《『えっ何』》

《『ま、また屋根の上連れてけよ!!』》


……良い感じに別れたと思ったらこれである。

ここでソレを断るほど俺はクズじゃない。


《『嫌』》

《『えッ!?』》


《『1回行く毎に1検証、オーケー?』》

《『……わ、分かったぜ』》


《『ははは』》

《『テメーマジで……』》

《『言質は取った』》


口調から分かる、本気で嫌がってないんだろう。

それならこっちもやりやすい。



《『でもいつか、試す事が無くなるかも……』》

《『……ま、あり得ない話じゃないが』》



不安そうな彼女の声に。

俺はこう言って、メッセージを終わらせた。



《『その頃には、雲の上でも連れてってやるよ』》



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↓過去のVRMMOモノです。コミカライズもしてるので良ければどうぞ。↓
やがて最強のPKキラー(職業:商人)
― 新着の感想 ―
[一言] 高台ハメできそうw
[良い点] 身長が高くてそばかすがある……ねぇ?それをコンプレックスに思ってキャラクリした人がいるらしいですよ?
[良い点] 目指せ!雲の上でお散歩。
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