閑話:リンカが狂鬼に至るまで②
☆
醜い者達は動きすらも醜かった。
何も考えずに振られるその剣が可哀想だった。
猿の様に通じない攻撃を何度も繰り返し。
あたしを、能無しのモンスターと勘違いしているのだろうか?
「おらっ――『スウィング』!」
「ッ」
片手剣、横薙ぎのその武技。
あたしは地面に這う様に体を倒し、避けて。
「ひいっ……!」
接近。
手に持つ矢を、その晒した首元に突き刺す。
怯える様に倒れるゴミ一匹。
「っ、らあああああ!」
「……『コンセントショット』」
そして突っ込んでくる斧持ち。
振りかぶるがこちらが早い。
その顔面の、額にゼロ距離射撃を。
『コンセントショット』……敵が近くに居れば居るほど威力が上がる矢を放つ。
隙も少なく、あたしにはぴったりのスキル。
最初から持っていた訳じゃなく、狩りをしてたら手に入っていた。
「ぐっ、あ……」
「ッ」
後ろ。気配。
倒れる斧持ちの頭を踏みつけ跳び、背後から迫っていたもう一人の攻撃も避ける。
「『パワーショット』」
「がぐっ!!」
上空からの一撃。
『パワーショット』。こっちは初期の弓武技。名前通りの威力が高いそれを、ソイツの首元に到達させた。
「もう終わりか?」
吹っ切れたおかげで迷いは無い。
コイツら三人程度なら――ゼロダメージで終了だ。
☆
「つ、強すぎだろ――ッ」
《『アリ』様をキルしました》
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが加算されます》
《報酬を獲得しますか?》
「こっちは三人――ッ!!」
《『ユウヤ』様をキルしました》
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが加算されます》
《報酬を獲得しますか?》
《報酬(2)を獲得しますか?》
《キル報酬を獲得しますか?》
「くそ、このビッ――」
《『セイ』様をキルしました》
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが加算されます》
《PKペナルティ第二段階》
《キル報酬を獲得しますか?》
《キル報酬を獲得しますか?》
《報酬を獲得しますか?》
《報酬(2)を獲得しますか?》
《報酬(3)を獲得しますか?》
《キル報酬を獲得しますか?》
《キル報酬を獲得しますか?》
《キル報酬を獲得しますか?》
「――『獲得する』」
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《体術スキルを獲得しました!》
《弓スキルのレベルが上がりました!》
《弓スキルのレベルが上がりました!》
《弓スキルのレベルが上がりました!》
《弓スキルのレベルが上がりました!》
《弓スキルのレベルが上がりました!》
《弓スキルのレベルが上がりました!》
《接射スキルのレベルが上がりました!》
《接射スキルのレベルが上がりました!》
《接射スキルのレベルが上がりました!》
《接射スキルのレベルが上がりました!》
《接射スキルのレベルが上がりました!》
《接射スキルのレベルが上がりました!》
《体術スキルを獲得しました!》
《称号『罪を背負いし者』を取得しました》
《称号『初めてのプレイヤーキル』を取得しました》
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが加算されます》
《PKペナルティ第四段階》
その報酬は、今までの自分を消し去るかの様に莫大なモノで。
――「おい、アレ」「レッドネームだ」「倒そうぜ」「しかもあの真っ赤の名前……倒したら凄い事になるんじゃね?」――
この朱に染まった名前を見て、餌に集う虫の様に寄ってくる者達。
なんとなく、彼らの前で倒れたらこの報酬も消えると悟った。
だが関係ない。
死ぬ事など。
こんな有象無象に負ける事など――この自分には無い。
……ああ。
ふっきれたおかげだろうか。
本来のあたしに戻ったからだろうか。
――氷の様に頭が冴え。
――風の様に体が軽い。
「全員相手してやるよ」
この時決めた。
憧れのお姫様は捨て去って。
『リンカちゃん』は――テメーらゴミ共を踏み台に。
突っ掛かってきた雑魚共を全てひれ伏させ。
このゲームの、トップに立ってやる。
☆
《『ハいる』様をキルしました》
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが加算されます》
《『あや』様をキルしました》
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが加算されます》
《『さんかっけー』様をキルしました》
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが加算されます》
《PKペナルティ第五段階》
辺りで見ていた者共が襲い掛かる、返り討ち。
そのループ。
迫り来る者達はいつの間にか消えていた。
――「お、おい止めようぜ」「逃げるぞ!」「アイツ強すぎ」――
「……」
《罪ポイント【91】》
やがてあたしは、その周囲の恐怖の目線と、大量に積み重なった罪ポイントで悟る。
キャラ再作成でもしない限り――『あたしはずっと一人なのだと』。
☆
「……あはッ」
歩いて行く道は、自然と誰も居なくなる。
心地良い。
《セイ様をフレンドから消去しました》
《セイ様をブロックしました》
例のゴミ野郎を忘れずに登録して。
《PKペナルティが第四段階に低下》
「……これ、下がるんだ」
あたしはこのPKペナルティが解除されるのを待つために、狩り場を歩いた。
後は……『同志』が見つかれば良いな、とそんな淡い期待を込めて。
勿論仲良くなんてする気は無い。
ただの暇潰し。ただの情報交換。ただ、利用するだけ。
あたしは一人で良い。
もう、フレンドなんていらない。本当だ。
絶対にキャラ再作成なんてしてやるもんか。
そんなの負けを認めたようなもの。あのゴミ共が嘲笑うのが見えて嫌。
……そして。
そのあたしの『一抹の望み』は、どうやら叶った様で。
「――――ありがとう、人生で一番楽しかったよ」
遙か遠く。
その、闘う罠士の男に出会ったのだ。
□
【職業説明:弓士】
スキルによりDEX、AGIに追加ステータスが掛かる。
弓を装備可能。
遠距離攻撃で戦うが、魔法士と違い高威力の攻撃ではなく手数で攻めるタイプ。
防御は低いが回避力は高いためソロでもやっていける。
ただ狙う場所によりダメージが変動、また単純に弓の扱いが難しいのでかなり上級者向けといえる。
PSが高い者が扱えば、魔法士よりもダメージ効率が高いとか。
【キャラ再作成】
メニューに存在。
使用すると、現在使用されているキャラが消去され、再度始まりからやり直せる。
何度でも使用できるが、サーバー負荷対策の為か一ヵ月に一度のみ可能。
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