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88話:小さなドラゴン

 ノームの住む地下は、綺麗に整備がされていた。ドーム天井に平らな地面。天井には消えない灯り。その様相はまるで科学の発展した日本にもあった地下街だ。


「この天井の灯りは何?」

「熱を加えることで光を放つ鉱石になります」

「長い廊下みたいな先に、緩やかな階段上の地形があるのはなんで?」

「階層を上に積むと強度に問題が出るので、九十九折りして少しずつずらしているんです」


 他にも採掘用の横穴だったり、通気用の巨大な縦穴だったり、滑車を使った吊り篭のエレベーターまであって興味が尽きない。


「今の僕には狭さは感じないけど、この天井の高さで延々続くと思うと、人間は息苦しさを感じるだろうね」

「そうですね。たまにノームの暮らしに興味を持つ方もいますが、三階層まで降りると耐え切れなくなるようです」


 匍匐前進しかできない幅の穴を、三階層下まで延々進んだ人がいたことにびっくりだよ。

 想像するだけでちょっと息苦しい。


「…………ノームたちって、僕が歩いててもあんまり気にしないんだね」

「元から地中に住む妖精ですし、髪と髭が長いので、目はさほど良くないんです」


 つまり、僕のこと目に入ってないんだ?

 怖いって騒がれるよりはいいか。

 っていうか、今まで泥棒がドラゴンって気づかなかったのも、髪と髭が長すぎて視界が悪かったせいじゃ…………。


「本来ドラゴンは穴の中には住んでも地下にまで入り込んでは来ないはずなんです。まず翼が邪魔ですし、角もユニコーンさんみたいに気にしなければいけませんし」

「そう言えばそうだね。羽根があるならグライフみたいに地中は嫌がりそう」

「地中にいることで有名なドワーフの国のドラゴンは、元の穴を埋められての地中生活ですから、特殊例ですし」

「あぁ、あの魔王石掴まされたって言う?」


 そんな話をしながら進むこと七階層辺り。ノームの人混みが、土の散らばった横穴に群がっていた。


「あれは…………。もしかしたらまた泥棒が出たのかもしれません」


 ノームは魔法で土を掘るため、あんな風に土は散らばらないらしい。

 それに強度を考えて掘る場所は決めてあるから、予定外の場所に穴が掘られることはないそうだ。


「すみません、お話を聞かせてください」

「おう、こりゃフレーゲル。それがな…………う、うわー!? ユニコーンだー!」


 すぐ側に来てようやく?

 僕の存在で起きた騒ぎを鎮めて聞くと、どうやらフレーゲルの推測どおり、またドラゴンらしい泥棒が目撃されたそうだ。

 磨き上げた渾身のルビーを奪われたノームが、怒って仲間と共に追い駆けたんだって。


「わーー! 火が、火がー!」


 何故か天井にある通気口からノーム三人と火が落ちて来た。

 少し遅れて近くの横穴からも熱波が流れてくる。

 どうやら泥棒は、蟻の巣のように穴を掘って何処に潜伏しているかわからないようにしているらしい。

 そう教えてくれたのは、ルビーを盗まれたというノームだった。


「となると、僕が早さに物を言わせて距離を詰めるのは難しいね。きちんと場所を把握しなきゃ。蟻の巣みたいになってる通路の全体像とまではいかなくても、盗んだ物を置いてる場所は知りたいな」

「では調べましょう」


 簡単に請け負ったフレーゲルは、目の前の横穴に手を触れて魔法を使う。

 瞬間、魔法の光るラインが横穴の中を走り出した。ほどなくしてノームが落ちて来た通気口から光が飛び出す。他の場所からも光が出たらしく、家々から驚きの声が上がった。


「だいぶ広いなぁ。これは僕だけでは全てを網羅することはできません」

「おっし、だったら俺たちもやってやらー!」

「さっき光がって言ってたのは何処の家だ?」

「そうだ、十階層に横穴開いてたろ? おらはあっち調べるだ」


 ノームたちが動きだす。

 …………興奮してたり文章が長くなると、やっぱりフゴフゴに聞こえるなぁ。


「最初からみんなで協力してれば、泥棒捕まえられたんじゃない?」


 僕の目の前にはアルフが使っていたような土のジオラマが作られている。

 泥棒の現在の居場所までばっちりだ。


「だってなぁ? …………怖くて行きたくないし」

「自分が被害に遭わなきゃ、危険は犯したくないし」

「倒せるかもわからない相手なんてやだよぉ」


 ほぼフガフガ聞こえるけど、なんかすごく消極的なのは雰囲気でわかる。

 アルフの知識にも、ノームは目立った悪戯はしないけど、保守的で頑固者が多いってある。つまり話の通じるフレーゲルが特殊なんだね。


「うーん、もうこれならみんなで協力して安全に捕まえようよ?」

「どのようにですか?」

「ノームは穴掘れるんでしょ。だったら簡単。ドラゴンを穴に落としちゃえばいいんだよ」


 というわけで、僕は威圧を放ちながらフレーゲルの指示に従って穴の中を歩く。

 警戒してじりじり後退する泥棒が所定の場所まで来たところで、待機していたノームたちに合図を送った。


「落とせー!」

「「「ヘイヘイホー!」」」

「あーーーー!?」


 思ったより甲高い悲鳴が聞こえて、僕は泥棒がいた方向へと走る。

 見ると、硬い岩盤の中に土にまみれたドラゴンと呼べる黒い個体がお腹を見せて落ちていた。


「何するのよ!? なんなのよ!? って、キャー!? ユニコーン!?」

「あ、僕のこと怖がるんだ? だったら刺さないであげるから大人しくしてね」

「ってよく考えたらすっごい小さいのよ! 恐るるに足らずなのよ!」


 変な語尾のドラゴンは、口を開いて僕に火炎放射を放つ。

 僕は事前にフレーゲルに用意してもらった魔法で、ドラゴンの落ちた穴に土で蓋をした。

 くぐもった悲鳴が聞こえ、その内静かになる。さすがに自分が吐いた炎で死ぬなんて間抜けなことはないと思うけど。


「…………!? ユニコーンさん、下がって!」


 僕より早くフレーゲルが異変を察した。言われて下がると、蓋にした土を割ってドラゴンが飛び出してくる。


「舐めるんじゃないのよ!」


 叫んで僕のいる穴に飛び込んで来たドラゴンは、突き出す角に怯えることなく噛みついた。瞬間、硬い物が折れる音が響く。

 …………折れたのは、ドラゴンの歯のほうだった。


「はーー!? 何この硬さ! ありえないのよ!」

「いきなり角に噛みつくとか、ちょっと…………気分悪いな」


 イラッとして角を振って威圧すると、ドラゴンは硬直する。

 近づいて鼻先の鱗の間に角を入れ、剥ぐように力を入れた。


「鱗剥いで全身骨まで魔法の素材にされるのと、大人しく穴から出るの、どっちがいいか選ばせてあげる」

「お、大人しく出るのよ! だから鱗剥がないで、なのよ!」


 思ったよりも素直だ。

 けど念のため、ドラゴンが暴れ出してもいい住居のない試し切り広場と呼ばれる場所に連行した。その名のとおり、作った武器の試し切りをする広場なんだって。

 九十九折りの住居周辺と違って、広いし天井も高い。

 ここなら僕も元の大きさでギリギリ入れそうだ。


「あー! あたしの宝なのよ!」

「泥棒が何言ってるの? あれ全部、ノームから盗んだ物でしょ」

「盗まれるほうが間抜けなのよ!」

「じゃ、あれ取り戻した時点で、守れなかった君が間抜けだ。次やったら鱗剥ぐからね」

「う…………」


 こういうのを盗人猛々しいっていうんだろうな。


「宝に固執するところを見ると、本物のドラゴンのようにも見えますね」

「当たり前なのよ! あたしはドラゴンなのよ!」

「では名前を教えてください。気配からして怪物系統のドラゴンですね? だったら名前があるはずです」

「…………まだないのよ」


 よくわからないけど、ノームたちの視線が白っとした。

 つまんない嘘吐くなよって言ってるのを肌で感じる。

 同じことを感じたらしいドラゴンは、鱗に覆われた顔に焦りを浮かべた。


「本当なのよ! ドラゴンだけど名前ないのよ! あたしはドラゴンなのよー!」

「君がなんでもいいけど、この暗踞の森で妖精王の冠盗むなんて考えなしにもほどがあるよ?」

「妖精王の冠!? どうりで他と一線を画するきん使いだと思ったのよ!」


 なんだろう、金使いって? そこそんなに興奮するところ?

 と思ったら、フレーゲルはわかったみたい。


「妖精王の冠は、かつての宝冠を模した魔王石のための特殊な封印装置ですから。世界を征すると言われた宝冠と同じく金を主体に作られています」

「…………ま、魔王石って、あの魔王石なのよ?」

「魔王の呪いがかかったダイヤモンドだよ。妖精王が管理してる魔王石の」

「そ、それを封印するための、冠なのよ?」

「そうだよ。だから盗まれて困った妖精王から、取り戻すように僕は言われて来たんだ」


 やっぱり変な語尾だなぁ。

 とか思ってたら、名前のないドラゴンは大きく尻尾を振って悶え始めた。


「のーー!? そんなもの宝じゃないのよ! あたしはいらないなのよ! 魔王石なんて滅べなのよ!」

「ノームたちに当たるからやめて」


 僕は尻尾に回って軽く角で突き刺す。

 思ったよりも簡単に鱗を貫通して、ちょっとドラゴンから血が出た。


「うわ、血だ。やだなぁ」

「なんでそんな汚いものみたいに言うのよ!? 不老不死の効能のあるありがたい血なのよ!?」

「ふーん」


 僕は聞き流して何処か角を拭ける所がないかを探す。


「ユニコーンさん、まだ剣も手入れ途中でしょうし、汚れが気になるようでしたらお風呂使ってください。人間も入れる大きさの物があるんです」

「本当!? わぁ、ぜひ使わせてもらうよ!」

「汚れってなんなのよ!? あたしの血のほうがありがたいのよー!?」


 うるさいドラゴンはケルベロスさえ千切れないという特殊な鎖を首輪代わりに、一度アルフに見てもらうため連れて帰ることになった。


「あ、女の子なんだ?」

「うっふん。ユニコーンならあたしの媚態にメロメロになるのよ」


 お風呂に入るために僕が人化すると、真似てドラゴンも黒髪の女の子になった。

 十歳より下らしく、胸よりお腹のほうが丸っと出てる。


「後で服はあげるから大人しくお風呂入ろうねー」

「メロメロになるのよー!」

「はいはい。僕がユニコーンとして正気失ったら、危ないのは君なんだからね」


 忠告に、ドラゴンは頬を膨らませながらも大人しくお風呂へとついて来た。

 もっと力を溜めればとか、名前さえ与えられていたらとか言ってたけど、さて、どういう意味かな?


毎日更新

次回:初めてのお風呂

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― 新着の感想 ―
[一言] 残念かわいいですね。
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