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番外編4:魔法学園の新入生

 獣人の他にも国に帰る知り合いがいた。


「あ! フォー!」


 僕が向かう先でディートマールが大きく手を振る。

 見慣れた魔学生たちと一緒にエルフ先生も旅支度を終えて、馬車の前に揃っていた。


「見送りに来たよ。みんな怪我は平気?」

「フォーのほうが大変だったって聞いてるわ」

「魔王に捕まってたんでしょ」


 ミアとマルセルがまだ治りきらない細かい傷のある顔で心配してくれる。

 僕の中に魔王が復活したことは言ってない。


 人間がどういう反応するかはわかってるから、エルフ先生は知ってるらしいけど魔学生に教える気はないようだ。

 アルフもジッテルライヒや他の国々にも言ってないし、どうせ僕殺せってなるだけだから言う必要はないだろって言ってた。

 ま、知ってる人は知ってるって感じかな?


「うわ、角長…………いくらに…………」


 額飾りが壊れて人化してても隠せてない僕の角に、テオが欲を隠しきれない呟きを漏らす。


「長くないよ。僕の母馬の角のほうが長かったし太かったの見たでしょ」

「「「「あ…………」」」」


 あ…………なんか気まずい雰囲気になっちゃった。

 見物に行った時には僕の母馬だって報せてなかったし、四人揃って申し訳なさそうにしなくてもいいのに。


「え、えーと、みんなが活躍したって話を聞いたよ。エルフ先生も魔法使いたちを指揮してたって。それだけ軽傷で実績も残すなんてすごいね」


 僕が話を逸らして声を大きくしたところに、エイアーナからビーンセイズに避難した少年シーリオが現われる。

 そのシーリオを守ってる妖精のカウィーナも一緒だ。

 この二人も魔学生たちと一緒にジッテルライヒまで戻ると聞いた。


「ど、どうしたんですか?」

「あ、シーリオ。カウィーナも。気にしないで。心配かけてごめんね。明日には帰るって聞いて会いに来たんだけど。シーリオも志願して従軍した上に活躍したって聞いたよ」

「あぁ、とある街で大変な悪魔と戦うことになりまして。活躍というほどのことは何も。僕よりも魔学生方が勇気ある振る舞いをしていました」


 シーリオは謙遜して、魔学生を讃える。

 うーん、大人の対応。


 状況を知ってる側からすれば、たぶんあの巨漢の悪魔が魔学生をすぐに殺さなかった理由は二つ。

 一つは単に性格の悪い趣味。

 そしてもう一つはシーリオの危機に理性を失くして猛ってたカウィーナを警戒して。

 だからシーリオ自身が恐れずあの場に行っていたことが、一つの活躍だと僕は思う。


「あの悪魔本当にやばかった! デブのくせに早いんだよ! それに魔法が効かなかったんだぜ!」


 途端にディートマールが元気を取り戻して興奮ぎみに声を上げた。

 テオは当時の窮地を思い出したのか身を震わせてる。


「さ、最初、血まみれの人を、掴んでてさ。血は、慣れてるよ。けど、その人が…………」


 これは死んだかそれに類する酷い目に遭ったのかな?

 子供相手になんてことをする悪魔だろう。

 僕も血みどろはトラウマだから怖がる気持ちはよくわかる。


「けどそれ、僕たちがエルフ先生に黙って悪魔倒そうって行っちゃったせいだよ」


 マルセルは反省するようだ。

 エルフ先生は渋い顔で頷いてる。


「酷い目に遭ってる人を助けようと思ったのよ。でも、私たち、力不足だったわ」


 ミアも反省してるけど助ける行為が悪かったとは思ってないみたいだ。

 それはそれで問題なせいで、エルフ先生の眉間の皺が深くなっちゃった。


 結果が良かったから、魔学生助けるために余計に犠牲出てたかも、なんて可能性でしかないお説教は意味がないよね。


「志は素晴らしいと思います。僕もそれで助けられましたし。皆さんの勇気ある行動で僕も一歩を踏み出す決意をしました。ですが、もっといい手があったのではないでしょうか?」

「そうだね。最初からエルフ先生にその気持ちを伝えて、本当にひどい目に遭ってる人を確実に助けられるよう、他の人の手も借りれていれば良かったんじゃない?」


 シーリオに乗って言ってみると、ディートマールたちは反論できず項垂れた。

 ちょっと恐怖の色があるのは、巨漢悪魔がよほど怖かったせいか。

 これは理解してくれたかな?


「…………よし! だったら次こそは俺たちの力で助けてやる!」

「そうだね! 次こそは自分たちでやり遂げて悪魔なんて返り討ちだ!」

「えぇ、そのためにも腕を磨かないと! 気持ちだけじゃ駄目なんだわ!」

「使えるなら他人使ったほうが…………」


 うーん、駄目か。

 テオだけ消極的だけどなんかこれも違うしね。


 あ、エルフ先生がお腹押さえてる。

 目が合うと首を横に振った。

 どうやらすでに似たようなお説教はした後だったようだ。


「困ったことに、今回以上の危機というのもそうあることではないので。警戒を呼びかけるにしても限度があるかと」


 妖精の声は魔学生には聞こえてないのに、カウィーナがこっそり僕に耳うちする。

 けどエルフ先生には聞こえてて、そっちが項垂れてしまった。


 ふとカウィーナの声が聞こえてた苦笑顔のシーリオと目が合う。


「せめてシーリオくらいの落ち着きがあってくれればいいのにね」

「いえ、僕は…………。彼らのような勇気も必要だと思います」

「うん、だからそこはもうあるし。だったら足りないの冷静さだよね。シーリオは備えてるけど、少なくともディートマールにはないでしょ」

「なんで俺なんだよ、フォー!」

「ディートマール、顔確かめずにフォーに魔法攻撃したことあるじゃん」


 テオに言われてディートマールは目を泳がせる。


 まぁ、攻撃しようとしたのはテオとマルセルもだけどね。


「…………それだ!」


 エルフ先生が突然声を上げるけど、僕は訳が分からず魔学生を見る。

 けど四人揃って首を横に振って、何を言ってるのかわからないアピール。


 さらにエルフ先生は僕たちではなくシーリオに向かった。


「魔法学園に入学しないか!?」

「え…………えぇ!? 僕がですか!?」


 シーリオも驚くけど、なんでいきなりそんな勧誘をするのか僕もついていけない。


「エルフ先生、ともかく少し離れたほうがいいよ。カウィーナが嘆きの声で鼓膜割ろうかどうしようか迷ってるから」

「おっと、これは失礼」


 エルフ先生が素早く下がると、カウィーナは不安そうにシーリオを抱き込んだ。


 どうやら悪魔のいた街での暴走がまだ尾を引いてるようだ。

 カウィーナはちょっと攻撃的な気分になってるらしい。


「カウィーナ、落ち着いて。エルフ先生も説明してね。うーん、まずはシーリオって魔法使えるの? 見たことないけど?」

「そこは妖精がいれば可能だ。どころかこうして妖精が全力で庇護しているなら、少なくとも同年代の中では抜きんでて才能があると言えるだろう」


 エルフ先生の説明を聞いてカウィーナを見ると頷かれる。

 どうやらボリスのような火の精という明らかな魔法っぽい姿でなくても、妖精は人間の魔法を補助できるらしい。


「でもすぐには無理でしょう。僕は魔法の修練なんてしたことがありません」

「そうだよね。エルフ先生、いきなり入学は気が早いよ」

「それはわかっている。何よりジッテルライヒは国自体が大変だ。復興も必要だろうし、学園側も一年は通常の授業はできまい」


 こうして生徒が戦争に来ちゃってるしね。

 うん、異世界だ。

 日本に限らず元の世界だったらすごい非難されるけど、前の世界でも幼い内から戦争に関わる子供はいたし、敵を倒せる能力があれば年齢は二の次なんだろう。


 それで言えばディートマールたちは要件を満たしてる。

 それに国がほぼ乗っ取られてた状況だし、学校やってる余裕もなかったんだろう。


「だが、一年も訓練を積めば魔法使いとして入学要件は満たせるはずだ。その品行方正な立ち振る舞いがあれば学園側も受け入れるだろう」


 あ、なるほど。

 なんかエルフ先生の本音が漏れてわかった。


 けど確認は必要だよね。


「シーリオ、魔法学びたい? っていうか、ビーンセイズでの生活どうなってるの? よく考えたら僕、住んでる家に放火しちゃったんだけど大丈夫?」

「それは、はい。フォーさん、いえ、ユニコーンの一件で収蔵品を全て失ったため、領主は今までにない疲弊、いえ、やる気のなさを、えっと…………懐の広さを見せ、良く周囲の意見を採用し善政を敷いています」


 うん、こっちも本音が漏れてる。

 僕がコレクション燃やしたせいでやる気なくして圧政する元気なくなったんだね。

 だったらいいかな?


「それにヘイリンペリアムがこれほど早く取り戻せたなら大丈夫でしょう。まだ混乱は続くでしょうが、戦乱はこれ以上広がりません。だとすれば僕も、魔法を学ぶ機会があるなら、ぜひ。一年カウィーナと頑張ってみます。もし入学の運びとなりましたらどうぞ、ご鞭撻のほどよろしくお願いします」


 シーリオは僕の意思確認をきちんと理解した上で、エルフ先生に頭を下げた。


 エルフ先生? 今度は胸押さえて何してるの?

 あまりに素直で模範的な対応に胸打たれたのかな?


「これは、みんなも先輩として頑張らないとね」

「「「「う…………」」」」


 どうやら魔学生たちにもシーリオが優秀なことはわかっているようだ。


「あいつが後輩? シーリオに俺らが教えることってあるか?」

「ないない。だって出会った最初からあれだったんだもん」

「疫病の村助けるために一人で頑張ろうとしてたしね」

「魔法もその内追い抜かれてしまうのではないかしら?」


 なんかこっちは四人で話し合いを始めた。

 そんな姿を僕越しに見てたアルフも声をかけて来る。


(どうしてもその魔学生手に負えないなら、森に送ってきてもいいって言ってみるか? 面白いことになりそうだ)

(駄目だよ、アルフ。エルフ先生が倒れるし、魔学生は泣かされる)


 僕は密かにアルフの軽率な思いつきを却下したのだった。


明日更新

次回:仔馬の心象風景

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