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442話:空振りの地下迷宮

 姫騎士が勝手に締まる縄でヴァーンジーンを縛ったんだけど、その間も抵抗はなし。

 シアナスの遺体は軽く整えられて床に寝かされてる。


 誰も言葉を探すような沈黙の中、僕は拾った葉っぱをランシェリスに返した。


「これ、シュティフィがあげた物だから、はい」

「フォーレン…………とても、馬鹿なことを聞く」


 ランシェリスが僕にだけ聞こえるように近づいてきて、葉っぱを握る手を見つめる。


「これで、死者を蘇らせることは、できないだろうか?」


 それってシアナス? それともローズ?

 いや、聞くだけ野暮か。


 ここはアルフに聞いて見よう、おーい。


「…………うーん、無理みたい。ただ」


 精神の繋がりが戻ってるから聞けたんだけど、シュティフィの葉にそんな効果はない。

 けど驚いたことに、蘇生できる葉っぱが他に実在はするらしい。


「そう、なの? 本当に?」

「あれ、ランシェリスは知らないの? あぁ、南のほうにあるんだね」

「幻象種の、住まう地に…………」

「けどアルフが言うには成功例は知らないって。蛇の姿をした冥界の刺客から守り通して死者の元まで運ばなきゃいけない。で、この蛇の刺客の面倒なところがちょっとの隙に掠め取って行くんだって」


 力押しの相手より厄介だそうだ。

 ちなみにその葉っぱの効用がわかったのは刺客の蛇が仲間内で使うから。

 掠め盗って行く上に倒しても切りがないんだとか。


「情報、感謝する」

「あんまり無茶しないでね」


 ランシェリスは葉っぱ受け取ってくれたけどなんか自棄っぽい笑い方だなぁ。


 そこにひそめた足音と、ひそめる気のない異様な気配が近づいて来た。


「む、これは」

「あれ、ヴィドランドル?」


 僕が声をかけると姫騎士がやって来た扉からいかつい骸骨が現われる。


「「あ!?」」

「ユウェルに、ブラウウェルも。首都の外でヴァシリッサに聞き取りしてたんじゃないの?」


 なんでヴィドランドルと一緒に地下に?


 そんな僕の疑問より先に、二人のエルフは駆け寄って来た。


「良かったです! フォーレンさん戻ったんですね? 私たちはあのダムピールがここに地下迷宮があるというので調べに来たんです!」

「そうなんだ。森まで来てくれたのにいなくてごめんね、ユウェル。ブラウウェルもわざわざエルフ王連れて来てくれてありがとう」

「恩人に礼を言われる筋合いはない。というか、ずいぶんよく知ってるな? 僕たちがライレフという悪魔に用があることは知らないのか?」

「ライレフに? 魔王に乗っ取られてる間はアルフを通してたまに見てたんだ。僕のほうからは見れたんだけど、アルフのほうは駄目だったみたいで意思の疎通はなかったけど」


 ヴィドランドルもやって来て話を聞く。

 さすがに大きな干物ドラゴンは地下に連れてこれなかったのかいない。


「呆れたものよ。魔王は手心でも加えたのか?」

「いやぁ、正直死にかけたんだよ。けど色んな助けをもらってなんとかね」

「それは…………ぬぉ!?」


 いきなりヴィドランドルが叫んだ。

 目玉はないけどどうやら視線の先は僕の背中らしい。


「あぁ、これ?」


 意識すると背中に貼りついてた魔王石十一個が頭の後ろに浮かび上がって円を描く。


「魔王石!?」


 姫騎士たちも今気づいたみたいで驚いた。


「魔王が術でくっつけてて、僕じゃ外せないんだ。後でアルフにどうにかしてもらう予定だけど、僕から離れないし、奪うことも難しいから状況が落ち着くまでこのままって」

「…………このユニコーンに関わると、死を克服した我が身も未だ偏狭な常識という偏見に囚われていることを痛感せざるをえん」

「これは極端な例にすぎるのであまり参考にならないのではないか?」

「ブラウウェルくん、状況として存在している限り、除外するのも、えっと」


 ヴィドランドルは疲れたように首を横に振る。

 ブラウウェルが僕を否定すると、ユウェルが先生らしく注意するんだけど語尾が怪しい。


 そんな僕たちを見て姫騎士のクレーラが、魔王石を警戒しながら声をかけて来た。


「フォーレン、大丈夫ですか? 体調や、心のほうに変化は?」

「僕が使おうと思わない限りくっついてるだけだから平気だよ」


 クレーラに目を移した時、ブラウウェルが息を飲んだ。


「な…………!? シアナス!? どうして!?」


 そう言えば森で仲良くしてたんだ。

 これはシアナスの裏切りを言うべきなのかな?


 ランシェリスを見ると、手短にシアナスが裏切り者でヴァーンジーンに通じていたことを話し始めた。


「そんな素振りは…………それに、動機はなんだ? 少なくともシアナスは騎士としての誇りに忠実だっただろう?」

「ブラウウェルくん、落ち着いて。心を許した相手に甘いのはいけません。獣人と人間の戦いがあった折、森の中から何者かに矢を射かけられたと聞いています。その時、この方は何処に?」


 あ、そうか。

 その時シアナスは森にいた。

 同じく館にいたはずのブランカとブラウウェルは、顔を見合わせてお互いに首を横に振る。


 どうやらその時、どちらも館でシアナスを見ていなかったらしい。

 まぁ、今となってはもう遅いけど。


「は? 愛のため? 愛する者がいずれ人間に争いを起こす心づもりがあったから、仲間を裏切っていた?」


 動機も話したらブラウウェルが余計に混乱して頭を抱えた。


「愛しているなら間違いを正すべきでは? 愛しているならそんな破滅の道止めるのではないのか? 人間は、それを肯定するのか? いったいどういう…………」


 あ、すごい混乱してる。


 それを見てヴィドランドルが動いて、ずっと目を閉じたままのヴァーンジーンの下に向かった。

 ブラウウェルがシアナスを呼んだ時に片目を開けただけ。

 耳では聞いてるんだろうけど無反応を貫いてる。

 そんなヴァーンジーンにヴィドランドルは骨の指を額に突きつけた。


「ふむ、この者は出会った時から死を恐れてはおらず、そのことをこの娘にも告げたが、この娘がせめてついて行きたいと願ったためにこの結末らしい」


 さすがに記憶を勝手に読まれて、ヴァーンジーンも目を開ける。


「魔術師どの! 眠らせることは!?」


 切迫したランシェリスの質問にヴィドランドルはすぐさま魔法を使った。

 何かしようとしたヴァーンジーンだけど、魔法使いとしてはヴィドランドルが上だったらしく、抵抗する暇もなく眠りに落ちる。


「良かった。私たちではこの者の守りを突破できなかったのだ。感謝する」

「ふむ、この手の人間はたまにいる。自分一人で世界が完結している者だな。全てが己とその他で別けるために、他人への共感性が低く、同時に情もないので何処までも効率的に、感情が揺らがずことにあたれる」

「けど、信仰心はあったみたいだよ? 自分と神とその他じゃないの?」


 この世界の神が信仰に値するかは知らないけど。


 眠るヴァーンジーンから記憶を探り出すヴィドランドは淡々と観察するように続けた。


「いっそ信仰心は邪魔だな。一人で完結していれば他に影響を与えようなどと余計なことは考えず、今回のようなこともしなかっただろう」

「それ、僕でもわかる空気読まない発言だよね」

「あ…………」


 ヴィドランドルの周りにいるのは神殿に所属する姫騎士たちだよ。


 そんな中、ブランカが耐え切れずに泣き声を上げた。


「じゃあ、シアナス先輩は好きな人に愛されることもなく、命を捧げたって言うんですか!? ローズさままで裏切ってつき従ったのに、何一つ、報われることなく!? そんなのあんまりです!」


 ブランカの言葉に姫騎士の中にも涙ぐんだり顔を逸らしたりする人がいる。

 ランシェリスは血が出そうなほど唇を噛んで、何か溢れそうになる感情を耐えるようだ。


 ほとんどの姫騎士が何も言えなくなる。

 そんな中でクレーラだけは、なんとか深呼吸を繰り返して平静を保つとヴィドランドルに事務的に聞いた。


「できればそのまま記憶を読み取り、この首都を奪ってから何をしていたかを調べていただきたいのですが」

「それは良いが、我らもライレフという悪魔を捜していたのだ。時間が惜しい」

「あの方はこちらではありませんよ」


 今まで黙ってたウェベンが、僕の視線を受けて答えた。


 ヴィドランドルは僕とウェベンを見比べて、情報を信じることにしたようだ。


「そうなのか。実はエルフを換魂したのは、悪魔に受肉されてる人間のほうだとわかったのだ。術者が生きているのならば、その者から情報を得たほうが確かであるため捜していた」


 ヴィドランドルの声で、ここに来た目的を思い出したブラウウェルがシアナスの死体から視線を離して僕のほうを見る。

 けどまだ心の整理がつかないみたいでユウェルが説明をしてくれた。


「悪魔ごと殺される前になんとか元になった術の知識をこちらの魔術師さんが抜いてくれないかと思ってですね」

「悪魔に乗っ取られてるのにできるの? もしかしてそれ、妖精でもできる?」

「ふむ、元から人間の感情に敏感な妖精なら可能かもしれないな。我もできるかどうかは五分といったところだ」

「そっか。さっきの言い方だと、ウェベンは何処にいるか知ってるんだよね? だったらヴィドランドルはここでランシェリスを手伝ってあげて。ライレフのほうは僕が押さえるから」


 アルフに手伝ってもらうことを考えながら請け負う。


「大丈夫、今度は逃がさない」


 決意を語ったら、なんでかヴィドランドルが震え上がった。


毎日更新

次回:見慣れた初対面

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[一言] 「じゃあ、シアナス先輩は好きな人に愛されることもなく、命を捧げたって言うんですか!? ローズさままで裏切ってつき従ったのに、何一つ、報われることなく!? そんなのあんまりです!」 裏切り者…
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