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437話:黒のバイコーン

 僕の本来の精神世界である草原で、ようやくアルフと合流を果たした。


 けど体のほうではグライフたちまで合流してしまっている。


「ほんと、あいつら!」


 僕は文句を言うアルフと一緒に左右から魔王に襲いかかった。

 魔王は魔法とアダマンタイトの鎌で応戦してくる。


 けど挟み撃ちのつもりが、僕の角を振るタイミングが遅くなった。


「アダマンタイトって痛いね!?」


 体のほうがグライフにアダマンタイトの爪を引っ掛けられたからだ。


 魔王が体を使ってすぐさまグライフの胴体を下から攻撃する。

 グライフ自身も負傷して距離を取ったのが自分のこととして知覚できた。


『ち、あの魔王石が邪魔だ』


 グライフを下から攻撃したのは魔王石から放たれるビーム。

 魔王の周囲を不規則に回りながら数で勝るグライフたちを牽制してる。


『おい、妖精王。接触していなくていいのか?』

『そういうことは殴りかかる前に聞けよ、この短気!』


 グライフとアーディの強襲に、被害を考慮されてないとわかったアルフは魔王から離れてる。

 けど精神世界にはいるからたぶん大丈夫なんだろう。


 あ、アルフの心象風景の天空の城が雲に覆われ始めた。

 全くダメってわけじゃないけど、やっぱり掴んでるほうがアルフの影響力強くなるみたいだ。


『妖精王さま、あの悪魔はどうしますか?』

『ほっとけ!』

『えぇ、もうすでにわたくしが施した呪いは弾き飛ばされておりますのでお構いなく』


 スヴァルトに処理を聞かれてるのに、ウェベンは自分から悪びれもせずそんなことを言う。

 しかもクローテリアと一緒に壁際に寄って、戦闘の被害に巻き込まれないようにしてた。


 警戒していたスヴァルトもウェベンへ割く意識を減らす。

 そして魔法を纏わせた矢を飛ばして魔王石の攻撃をずらすことで、アルフたちの援護を始めた。

 大きな宝石とは言え、動き回る魔王石に矢を当てるのはすごいと思う。


「この状況で抵抗して、お前は何が目的だ!? 魔王!」


 アルフが精神世界で魔王を捕らえようと躍りかかった。

 魔王は地面を転がって避けると、地面に手を突いて草を操り逆にアルフを捉えようとする。

 攻防するだけで、答える気はないらしい。


「ただの八つ当たりだよ」


 答えないから僕が答えたら魔王に睨まれた。

 なんか声にしてないのに余計なこと言うなって圧をひしひしと感じる。


「味方一人増えたところで所詮は幼稚な精神のままだろう!」


 魔王はアルフに草を千切られてる隙に、僕に対して冷たく激しい下降気流をぶつけて来る。


 もう、そう思うなら八つ当たりなんて大人げない真似しないでよ。

 僕まだ一歳になってない子供だよ。

 って言いたいけど言ったら余計に攻撃されるだけだからやめよう。

 ともかく今はモグラたたき並みに次々と落ちて来る気流を避ける。


「ちょこまかと、面倒な。大人しくしろ!」

「やだ! っていうか、もう過去じゃなくて未来見ようよ。いつまでも振り返ってたってしょうがないって。目的果たしたなら一回区切りにしてさ!」

「勝手に決めつけるな。何より温故知新という言葉があったはずだ!」


 日本語、いや、中国語的な四字熟語知ってるんだ?


 元になった疑似人格の人種はわからないけど、神が全員日本人ってことはないと思う。

 倫理とか宗教の根深さとか神が言ってたから、たぶん倫理観や宗教の違う人たちが生き残りの十人には混じってるんだろうな。

 まぁ、漢字圏の人がいてもおかしくないし、今から一万年以上前から月で一緒に暮らしてたなら多文化を知ってることもあるかもしれない。


「そうだぞ、フォーレン。死人に未来語っても意味な…………どわ!?」


 魔王が極太のビームをアルフに放った。

 魔王石ないのに魔王石から放つようなビームを操る顔が、すごくイラッとしてる。


 アルフは羽根もないのに飛んで上空に逃れるけどビームが追ってくる。

 しょうがないから僕が魔王に突進してビームを邪魔した。


「これ以上神がどうこうじゃないだろうし。魔王石求めたのが思念しかない自分の強化ってのはわかったけど、人間試すならもうこれ以上は必要ないでしょ」

「それを判断するのは俺だ」

「僕の体だってば」


 突進を避けて魔王は僕の体にアダマンタイトの鎌を突き立てようとするそこに、アルフが上空から雷を落とす。

 防御態勢に入った魔王に僕は後ろを向いて蹴り上げた。


 魔法で防御されたけど細身の魔王は大きく後ろに飛ばされる。

 ただそれだけでは済ましてくれず、着地した地面に手を突くと、下からビームが四方八方に発射された。


「あっぶね! フォーレン、魔王は宝冠取り戻すために魔王石集めてたんじゃないのか?」

「その可能性もあるかもしれないけど、この辺りにある分集めた後は目的達成に集中してたみたいだよ」

「…………魔王の目的って」


 答えようとした口が勝手に止まる。

 その隙に魔王が遠隔からアダマンタイトの鎌で斬撃を飛ばしてきた。


「六人目の介入があるだけだ。説明などするだけ無駄だ」

「「えー?」」


 アルフとハモったら魔王がまたイラッとした顔をする。


「抵抗するなら真面目に、やれ!」

「僕、戦い、嫌い!」

「お前が大人しく引けばいい話なんだけどな!」


 魔王の攻撃を避けながら文句を言うと、また眉間を険しくした魔王が極太ビームを放った。


「だいたい、誰が宝冠を諦めると言った!? 西に迫る人間たちが運んできているぞ!」

「そうなの!?」

「げ! 宝冠は別に封印してあるからきっと魔王石だぜ、フォーレン。それにしても西の人間たち学習しないのかよ! 宝冠の石持ってた時も魔王本人と当たったらほぼ奪われて終わってたのに!?」


 西の人間が東の地を狙ってるのは聞いたけど、まさか魔王石を持って近づいてるなんて思わないよ。


「っていうか、ヘイリンペリアム壊滅してから動いたんじゃ早すぎる! いったいいつから侵攻計画してたんだよ?」

「ふん、ここにはずいぶん西側に金銭で懐柔された者たちがいたようだぞ。あのヴァーンジーンという者が首都を押さえてすぐに粛清していたがな」


 たぶん僕が魔王石の影響で数日経ってる間のことだ。

 ってことはヴァーンジーンも西の動き知っててこの騒ぎを起こしたの?


 その上で一気に裏切り者を粛正して、攻められても平気な魔王を置く。

 ヴァーンジーン有能っていうのかな、これ?

 魔王もそれわかっててここ動かないくらいには先見があるのに、やってることは悪魔と流浪の民放置しての虐殺って本当何してるんだか。


「もう、魔王! やっぱり過去に拘るのやめようよ! いっそ宝冠超えるすごいのバーンと作って見返すとかさ!」

「えぇ? それはちょっと困るぞ、フォーレン。問題増えるだけだって」


 あ、アルフに反対された。


「けど、元は争いなくすために作ったんでしょ。宝冠よりもすごいの作ったら魔王石の害とかどうにかできないかな?」

「え、えー? うーん? あり、なのか?」

「簡単に言ってくれる」


 アルフが悩むと、魔王が吐き捨てるように言った。


 同時に魔王はアダマンタイトの鎌を振って斬撃を幾つも飛ばし、ビームまで乱射して僕たちから距離を取る。


「簡単じゃないのはわかるよ。けど、それだけ時間をかける甲斐があるんじゃない? こうやって僕たちと争うよりさ」


 覗き見してたからなんとなくわかるけど、魔王は先のことを考えてない。

 混乱を起こして人間たちを試して、その後どうしたいかがないんだ。


 たぶん本人も自分が死人で生前の魔王とは違うこと自覚してる。

 だから神に会うことを優先したし、会って答えを得てしたことと言えば僕への八つ当たりだ。

 いや、神への八つ当たりに人間が人間の生で困るのを眺めてる感じでもあるのかな?


「あれ? 諸悪の根源って神?」


 思わず呟いたけど、ビームを避けるためにまた飛んでるアルフには聞こえなかったようだ。

 代わりに斬撃を避けながら近づいた魔王がなんでかドン引きした目を向けて来た。


「さすがに俺でも己を生み出した英知をあしざまに罵るほど恥知らずではないぞ」

「いや、待って。そんな大げさなことじゃないって。腹いせだってやり方考えようよって話だよ。あ、ほら。温故知新。宝冠駄目だったならそれから学んでもっといいのをさ」


 そう提案したら、魔王は攻撃をやめて盛大な溜め息を吐いた。

 すごく馬鹿にされてる気がする。


 けどアダマンタイトの鎌を降ろしててなんか攻撃して来ない雰囲気?

 僕とアルフは警戒しながらもお互いにフォローし合えるよう動いて魔王の様子を窺った。


「…………馬鹿ばかしくなった」


 あ、やっぱりなんか馬鹿にされてる?

 いい考えだと思ったんだけどな。


「もういい。お前を見ているとこの世界にとっての異端である己を見せつけられるだけだ。俺ではもはや生きる者たちに道を示すには能わない。神の無力も知れた。…………ならば、俺はわかりやすい暴力装置になってやろう」

「へ?」

「フォーレン! 下がれ!」


 アルフよりも魔王に近かった僕は、警告どおり背を向けて走り出す。


 方向転換中に首を巡らせて見ると、魔王は黒い靄を足元から発生させてた。

 それが繭のように人型の魔王を覆う。


 …………これ、似たのを見たことがあるな。


「黒い…………バイコーン…………?」


 解けた繭からは赤い目をした黒い馬が現われた。

 真っ白な角が額に生え、その下に短めの角がもう一本ある。

 静かな立ち姿は一瞬で、すぐに荒々しく前足を振り上げた。


 激しく嘶くと同時に容赦のない威圧が辺りに広がる。


『『『ぐ…………!?』』』


 体のほうでも同じ変化があったらしく、グライフたちが威圧で壁に吹き飛ばされたようだ。


「こりゃ、また…………。本当に理性捨てたのか?」

「わからないよ。わからないけど、なんかまずい気がするのはわかる」


 四足の優位がなくなったことだけは確かにわかった。


毎日更新

次回:黒から白へ

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで言ってもやっても、真剣味も覚悟も理念もないフォーレンとアルフみてたら、それまで対峙してた神を思い出してムカつきが抑えられないんかな。ふたりとも神と似すぎてるし。 本当は神じゃなくてフ…
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