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431話:悪魔の行方

「質が悪い。死は生と表裏一体。流離の理であると同時に流転の性質を持つ。それらを無視して陣地を築いたところで租税乱造でしかないわ」

「ぐぬぬ」


 ヘイリンペリアム首都前で捕獲したヴァシリッサは、ゾンビ地帯を乗っ取ったヴィドランドルから講釈つきの駄目だしを受けていた。

 ヴァシリッサは口答えを許されていないので悔しげに唸るだけしかできていない。


 けどそれが何よりの屈辱なようで、目には殺意というか憎悪というか、ともかく今まで見たこともないくらいの激しい感情が浮かんでいた。

 どうやらヴァシリッサにとっては、ヴィドランドに囚われた状況が我慢ならないようだ。


「うーん、これだけドンパチやったのに誰も出て来ねぇな」


 屈辱に涙ぐみさえするヴァシリッサを気にせず、アルフが閉ざされたままの首都の門を眺める。


 アルフは遠距離砲撃が来た場合に撃ち返すべく、赤い穂先が石刀に似た槍を構えてた。


「出払っている可能性があります。すでに首都の反抗勢力は一掃されており、血に飢えた悪魔は勇んで人々を蹂躙するため移動しましたので」


 姫騎士団の事務長は苦り切った顔で説明した。

 首都の人々の心はすでに折れ、五人衆という戦力も首都の外へ出たので、打って出るよりも籠城を選択したのでは、と。


 それはそれで首都機能停止してるけど大丈夫?

 魔王も動く気配ないし、もしかして首都が滅んでも気にしないのかな?


「魔王一人座していればこと足りるということか。出迎えもないとは横着な」


 アーディが面白くなさそうに言うと、ペオルが巨体で足音も立てずに現れた。


「ライレフがいるならばこの状況で争いを煽り立てないのもおかしい。首都にはいないと考えるべきか」

「やっぱりお前でも中に入らないとわからないか?」

「元より魔王が我ら悪魔の行動を制限していた都市。本来の主が戻った今、やはり内応なくしては入りこめん」


 確認するアルフにペオルは悪魔としての力を振るえない状況に顔を顰める。

 それを聞いて海の人魚ヴィーディアが胸を張るように城壁を見上げた。


「ふん、魔を寄せ付けぬ聖都などとよくも嘯いたものだな。つまりこの都の守りとは、悪と断罪した魔王の力ではないか」

「ある物を有効利用することは否定しない。だが、他人の手柄を横取りしあまつさえ恥もないとは見下げ果てる」


 ワイアームまでやめてよ。

 その首都出身のランシェリスたちがお通夜みたいな雰囲気じゃん。


 けどランシェリスは気丈に顔を上げた。


「首都への潜入であるなら、事務長が脱出した経路を逆に進めばいいだろう」

「これだけ派手にやったのだ。今さら隠れても意味はあるまい」


 グライフが上空から舞い降りて、また好戦的なことを言う。


「誰もいないの壁の上を越えるのは駄目だ! 数が足りねぇ!」

「むぅ、近づくことさえできれば破壊も可能であるが攻撃速度は向こうが上回る」


 飛竜のロベロとグリフォンのフォンダルフも降りて来た。

 実はこの飛行系三人、首都の壁を越えようとちょっかいを出してたんだ。


 途端に迎撃システムみたいな小型の砲台型に攻撃されて、その攻撃をかわしたり撃ち返したりで空中戦を派手にやってた。


「潜入するのならば、逆にここでもっと大きく動いて目を集めるべきでしょう」


 スヴァルトに続いて妹のティーナも意見を上げる。


「やるのならば他の軍が集結するのを待つべきです。妖精王さま、人間のほうでもこちらに向かっている隊がいると仰っていましたね?」

「あぁ、いるいる。どうもちまちま街を解放する軍に焦れて、有志が隊を編成したらしい。志願の理由は色々だな。首都に知り合いがいるとか、復讐したいとか、魔王を倒して名を上げたい奴や神官連中に恩を売りたい奴なんか」


 うーん、足並みそろわなさそうだなぁ。


「ほっほ、ちょうど良いではございませぬか、妖精王さま」


 そう言ったのはマーリエの口を借りた魔女の長老オーリアだろう。


「逸る人間たちに首都解放の名誉を与え、その裏で内部を押さえる。魔王までの道は彼の料理人が開けてくれるのでしょう?」

「あぁ、魔王周辺のことは調べてるって話だ。そうか、人間じゃそう簡単に扉開けられないし、時間かかる。俺たちは人間を尊重してってな言い訳で傍観に見せかけた行動ができるな」

「ならばここは預かろう」


 ヴァシリッサに駄目出しをしながら、ゾンビ地帯に手を入れていたヴィドランドルが何か魔法を使った。


 すると地面から骸骨が起立して、そこに泥が纏いつき人型になる。

 細かく枯草や色のある石で形作られ、ヴァシリッサそっくりの土人形が出来上がった。


「これくらいの土台があれば、簡単な幻術を被せるだけで良かろう」

「お、器用だな。しかも中に骨使ってるのもあって、熱さえどうにかできれば簡単な走査じゃ人体に間違える」


 そこからとんとん拍子に進んだ。

 合流して来た獣人たちにも説明した後に、やって来たエルフとドワーフとも合流して作戦を話す。

 そして最後にきた人間たちにはアルフが言ったとおり、名目を与えて正面攻撃に動かすこととなった。


「こちらは大丈夫じゃろう。グリフォンたちが起動させた防衛機構に興味深々じゃ」


 先に合流してたウィスクがエルフ王を連れて戻る。

 ドワーフ軍は寒さでぶーたれてたけど、防衛機構に興味が湧いたみたいで人間たちの隊と一緒に首都の門攻略に乗り気だ。


「虜囚とした敵もいるので我々はここで待たせてもらうが、門が開けば兵を進めよう」


 エルフ王がいう虜囚とは、五人衆だった吸血鬼を倒した後に残った幻象種たちだ。

 魔王の復活に便乗し、恐怖で居場所をもぎ取ろうとするほどに追い込まれていた事情を鑑みて、虜囚という形で保護している。


 エルフたちも被害があり、ここまで一緒に来たドワーフたちの暴走も予想できる。

 同時にヴィドランドルが捕まえたヴァシリッサに用があるため、首都の門に残ることになった。

 実際ここまで来た目的は果たしたようなものだし、エルフ内から文句は出ない。


「我らはまだまだいけるぞ!」


 獣王は元気に宣言する。

 勝負して宴までして北の獣人たちと一緒に来てた。

 勝ったひとが群れのボスってことらしくて、こっちは意外なほどまとまってる。


「小隊を分散させて潜り込ませるのはどうだ?」

「ここは門の突破だけで力尽きるだろう人たちの後じゃないかな?」


 獣人の将軍たちも元気みたいで、ヴォルフィとベルントが意見を交わす。

 話し合いの結果、獣王を押さえてルイユが連絡係として潜入についてくることになった。


「では案内を務めさせていただく」


 事務長が先頭に立つけど、人間の隊には潜入のことは言わず動く。

 ただ門の突破を任せると言った途端、ドワーフと競って突進したから説明する暇もなかったんだけど。


「それじゃ行こう」


 アルフの掛け声でまず第一の隊が潜入する。

 ランシェリスたち姫騎士が半数、どうしても行くというグライフ、アーディ、スヴァルト、メディサもいる。

 獣王はさすがに却下されてたけど、悪魔のペオルとしれっとくっついてる蛇のアシュトルがいた。

 街中に強いコボルトのガウナとラスバブはわかるけど、なんでかワイアームがクローテリアの尻尾を掴んでついて来てる。


「あたしは安全確認の後でいいのよ」

「親がどうのと言ったのは貴様だ。我が分身であるなら己の言葉を全うせよ」


 なんかワイアームなりのけじめ?


 事務長が案内したのはちょっと離れた所にある物見の砦で、そこの地下に首都の外壁へ通じる地下通路があった。


「なんだ、まだこの道はあったのか」


 知っていたように言うペオル曰く、どうも魔王時代からあった物なら抜け道は全網羅しているそうだ。

 捜し物が得意な悪魔らしいけど、事務長が困ってるから言わないほうがいいよ。


 無人の外壁の様子を窺ってランシェリスがさすがに困惑する。


「事務長、本当に誰もいないのですか?」

「いない。いても悪魔に取り憑かれた者だけだ。それらも五人衆と一緒に外へでた。だから私も脱出できたのだ」


 けれど外にはゾンビ地帯で、首都を出られてもさらなる逃走は一般人では無理。


「夜な夜な死者の咆哮は聞こえていた。首都の生存者たちは壁の向こうがもっと悲惨なことになっているとわかっていて、隠れ潜んでいる。まさか魔王を倒すために北進する者たちがいたとは思わなかった」


 姫騎士の事務長さえ、魔王の暴虐に心が折れていたようだ。

 だから首都の人は隠れるようになんとか生きているだけで、頼りの聖騎士も占領初期に一掃されたせいで反抗の機運はないらしい。


「うーん、そうなると魔王石手に入れてから、ここ動かない魔王の狙いが全く分からないなぁ」

「羽虫、貴様何か知っているのではないか? 同じ使徒だろう」


 グライフの言葉にアルフは顔を顰めるだけで答えない。

 今ならわかるけど、使徒ってひとくくりにしてるのは神の疑似人格とか知らないからだ。


「ここにきて隠し立てするなよ」

「嘴鳴らして威嚇するな。俺だってよくわからないんだ。魔王と俺じゃ違いすぎる」


 一応アルフには使徒として負う役割の違いはわかってるようだ。

 けど観測用ナノAIだとか、疑似人格を埋め込まれた人間だとか言うつもりはないらしい。


「…………ただ言えるのは、たぶんあの魔王の目的は魔王石を集めて宝冠を手にすることじゃない。神に、会うことだ」

「できるのぉ? 千年かけて無理だったのに、半端な復活をした今の状態で月に行くなんて」

「うーん、あの言い方だとたぶん今までとは違う方法で月に行くか神と対話する手段にめどが立ったとかじゃねぇかな」


 アシュトルに答えるアルフを横目に、ランシェリスたち神を奉じる乙女たちが遠い目をしてる。


「使徒から外された魔王が、最も神に近づいてるということか」

「気落ちしてるところ悪いけど、誰か来てるわよ」


 アシュトルが蛇の舌を出し入れしながらそう警告した。

 みんな構えるけど、現れたのはぼろぼろの服を着た武器も持たない神官みたいな人間。


 あ、神殿長って呼ばれてた人がいる。

 どうやら牢屋からでてここまで逃げて来たらしかった。


毎日更新

次回:コーニッシュの内応

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