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413話:無理なことはしない

「お前らと足並みそろえるとか無理だ!」


 魔王の動きを見て、アルフが心配になった僕はとんでもないことを言ってる場面に出くわした。


「いや、本当。お前ら協調性なさすぎだろ」

「普段の妖精の行いを棚に上げるな、羽虫」


 ぼやくアルフにグライフが容赦のない言葉を投げかける。


 今の妖精はアルフがいるから命令に従うし、悪戯も控えてるんだけどね。

 反対にグライフはいつもどおりだし、すぐエルフのグリフォンにちょっかいかけるし。

 ロベロとフォンダルフも加わってじゃれだしたり、今のところアルフの言葉には一理ある。


「元より生態が違いすぎるのだろう。そこに来て目的にも差異があればさもありなん」


 あんまり怖がられるからって、フードを被って骸骨の顔を隠したヴィドランドルがアルフに同意した。

 元人間だから足並みは揃えられるんだけど、発する魔力が冷気を帯びるという独特の生態、何より見た目が怖くて人間が近くは嫌だと言って足並みを揃えられてない。


 日中でも移動できるのに、普段は夜間行軍側に入れられてた。


「人間たちの中でも目的がわかれているのは度し難いな」


 比較的に見た目は人間に近い人魚のアーディが失笑する。


「ジッテルライヒもそうだが、このヘイリンペリアムという国の奪還が目的になってしまったからな。魔王という強敵にぶつかろうという気はないのだろう」


 もう当たり前に一緒にいる海の人魚ヴィーディアが応じた。


 ここには基本森勢力と括られる者たちが集まっているようだ。

 その中には姫騎士や魔女もいるけど、基本は人外の集まりになってる。


「ヘイリンペリアムの内部に入ってより、もはや人間の独力での抵抗が難しいことは骨身に染みたのだろう。主眼が取り残された人々の救出、もしくは閉鎖された街の解放となっている」


 ランシェリスは消極的な人間の動きに一定の理解を示すらしい。

 ジッテルライヒを中心にした人間が軍を形成し、中には逃げて来た人や故郷の奪還を志す人なんかが入ってる。


 その人間たちは進軍も遅くて、魔王の打倒は二の次なんだとか。


「妖精王、足並みを揃えての進軍を諦めるとして、どう動くつもりだ? 臆病な人間どもが我らの単独行動を許すこともなかろう」


 方針を問う獣王に、ヴォルフィが軍人らしく容赦ない意見を上げた。


「ついてこれないなら落とすまででしょう」

「君の考えは基本好戦的過ぎる。けど、今回はその意見を押すよ」


 穏健な獣人将軍ベルントに続いて、実質穏健なダークエルフのスヴァルトまで頷く。


「妥当な考えだ。時間をかけるだけ向こうは備えを拡充している。どう考えても兵器を作っている」

「ここに来るまで十では足りない数の砲台型壊しましたもん。開発した魔王本人がいるならそうなりますよね」


 ユウェルが嘆くように言いつつ眼鏡を直す。

 どうやら戦場への砲台型供給は順調らしい。

 これウェベンのせいだってわかったらみんな怒るよね。


「では、どう素早くフォーレンを取り戻すかですか? 飛行できる者が急襲というのはどうでしょう?」


 メディサが意見を上げると人型で幅を取らないようにしてるワイアームがダメ出しをした。


「愚か者。魔王であるならばそれくらいの備えはしている。かつての防備の再起動も確認しておるのだろう?」


 水を向けられて悪魔のペオルが答えた。


「うむ、かつての対空砲が再整備されていた。肉眼でとらえられる範囲に入れば打ち落とされる」

「そうなると、昔の人間たちの手を真似るしかないのよね。空と地上の多方面からの攻撃」


 アシュトル曰く、その作戦で各地の防衛に手を割かれた魔王は、敵精鋭の本拠地への突入を許してしまったそうだ。


 そのため魔王との戦闘で壊れた物もあったが、ほとんどの防衛機構は内に入られた後では稼働の意味がなく残った。

 ヘイリンペリアムの首都には魔王亡きあとも、人間の手で運用できるだけの防衛が使われている。

 それが今、魔王本人が戻ったことで人間が扱えずにいた防衛機構も全て復活しているのだとか。


「俺らだけでも足並みは揃わないし目的も違う。だったらもう自由にやったほうが効率もいいだろ」


 そう言ってアルフが魔法を展開する。


 現われたのは森にもあったジオラマ。

 それがヘイリンペリアム仕様になっている。


「まぁ、完成しましたの? ですがやはり魔王のいる首都は空白ですね」


 覗き込んだシュティフィーの様子から、アルフが妖精を使って地理を調べたようだ。

 だから僕が妖精を近寄らせないようにした魔王周辺は城壁だけの空白になっているらしい。


「ペオルやアシュトルの配下使って敵勢力もわかるだけ調べた。こうだ」


 ジオラマに角の生えたチェスの駒のようなものが現れる。


「妖精王さま、こちらの大きな駒は?」


 もう魔女の代表のように話し合いに加わるマーリエが素直に質問する。


「それたぶん五人衆ってやつ。どうも魔王が持ってた武器らしいもの装備してるんだと」

「ほう? 近い場所にいるではないか」


 グライフが興味を示すと、クローテリアは嫌そうに確認をした。


「また人間なのよ? 悪魔がいるのよ?」

「受肉した悪魔もただの人間もいたぞ。後は吸血鬼と熊の獣人だ」


 ペオルの答えに熊の獣人のベルントが興味を示す。


「へぇ、北の熊って大きいって聞いてるけどどうだったか聞いても?」

「大きいと言うよりも、長い? 体毛が白かったぞ」


 え、それって白熊?

 ここってそんなに寒いの?


「お荷物がいないのなら敵は殺す、それでよかろう」


 好戦的というかもはや考えなしに力技を押すワイアームを、アルフが止める。


「分散して進むのは人間のほうにも持ちかける。けどさすがに進み過ぎはやめろ。目標地点設定するからせめて誰が一番早くそこ辿り着けるか競争するくらいにしとけ」


 アルフの余計な一言でやる気になっちゃった。

 ランシェリスが額を押さえて困ってるけど、アルフは気にしない。


 これ絶対周りの被害考えないひと出るよ。

 アルフってば、もう。


「で、簡単に難易度考えてこういうルート設定で…………」


 アルフがジオラマに今いる場所からヘイリンペリアムの首都に向かう道筋を五通り示す。


「少ないぞ、妖精王」

「こっから先がまだあるって」


 アーディが文句を言うと、アルフはさらに五つのルートを枝分かれさせて十二個に増やした。


「で、人間がどうしても押さえたい街ってのが、こことこことここと…………」

「妖精王どの、この地は現状主要とは言えないが、人間たちの反抗を考えるならば、供給地点として使える」


 アルフが重要な街に旗を作って示すと、ランシェリスが押さえるべき要衝を補足する。


「あ、そう考えると港ってどうするもんだ?」

「必要だろう。海路のほうが人間は移動が早い」


 ヴィーディアの返答に応じて、アルフがさらに壊してはいけない街を増やす。


 暴れたい者は強敵だろう五人衆がいる所を狙いたい。

 けれど保全が必要な拠点は面倒だから避けたい。


「エルフ軍は動きの悪いドワーフ軍と一緒に進軍するだろう。で、人間たちが押さえたい街はここだから、こっちに行くはずだ。俺は妖精たち使って人間の補助をしつつ途中まで進む。単独行動の奴らは何処かしらの軍と連絡できる位置取り考えろよ」


 軍と言える規模の集団は人間、妖精、獣人、エルフとドワーフ、悪魔だ。

 軍に匹敵しそうな戦力もいるけど敵も備えてるから、連絡は確保しておいたほうがいい。


「各人で進行速度や戦力を変え、敵をかく乱する、か。危険な部分もあるがこれで退く者はこちらにはいないだろう」


 スヴァルトが揃った顔ぶれを見て頷く。

 孤立する危険や戦力を傾けられて各個撃破される危険もわかっているのに、グライフたちのやる気は削げない。


「そうなると我々姫騎士に戦力としての働きはほぼないだろう。ここは、先行させてもらってもいいだろうか?」


 どうやら実はランシェリスも気がはやっていたらしい。


「ヘイリンペリアムの首都は騎士団としての拠点がある。押さえられているだろうが姫騎士の関係者全員が処分されているとは考えにくい。首都へと先行し内側から引き入れる手段を講じる」

「その必要はないわぁ」


 ランシェリスを嘲笑うように、アシュトルが蛇の姿で現れた。


「もうすでに入り込んで内応の準備をしてる悪魔がいるもの。あなたたちが連れて戻ったのに、何処にいると思っていたのかしらぁ?」


 からかうように先手を打っていたことを告げるアシュトル。

 ランシェリスは確認のためブランカとクレーラを見る。

 二人とも確かに首を横に振った。


 そう言えばコーニッシュの姿が見えないままだ。

 どうやらいつの間にかヘイリンペリアムの首都に潜り込んでいたらしかった。


隔日更新

次回:妖精王の可能性

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