399話:ジッテルライヒの戦い
数日後、アルフたちがいるジッテルライヒの副都には流浪の民が攻め寄せていた。
僕はアルフの視界からその様子を見ることになる。
「こんなことが、こんな魔法が、あるとは…………」
アルフはジッテルライヒ側の軍の後方にいて、日除けを広げた下で将軍っぽい人たちと一緒にいた。
みんなで見ているのはアルフが森の館でも作ってたジオラマ。
戦況をリアルタイムで俯瞰するためだ。
二次元での戦いしか知らない人間たちには驚くことらしい。
「いい反応してくれるじゃねぇか。フォーレンとかあの傷のグリフォンとかあるものそのまま受け入れちまうんだよな」
「貴様がすることに一々驚いていては切りがないだろう」
そう言うのはアルフの奇行の被害に遭ったことのあるアーディ。
隣には海の人魚の長ヴィーディアが当たり前にいる。
なんか争うことはやめてくれたみたいだけど、まだ嫁取り問題は解決してないんだとか。
そして話に出たグライフはドラゴンたちと上空に陣取ってる。
あとメディサと魔女も一緒に上にいて、控えてるケルベロスを覆える日除けを吊り下げていた。
もうこれだけで威圧効果は十分な気がする。
「面倒なもん出して来やがったな。ここの一団は魔力を備えた装備を着てる。人間の魔力じゃない。これ、昔飛竜から作ったっていう魔王軍の鎧着てんだろうな」
「お待ちください、妖精王! この百人ほど全てですか?」
驚くエルフ先生も、さすがに今日は魔学生を連れていない。
対照的にユウェルはすごく珍しい物を見たと言わんばかりに声を弾ませる。
「魔王軍の飛竜の鎧と言えば、飛竜の魔法を常に纏う装備であったと聞きますが?」
「そうそう、そこの百二十八人な。で、幻象種の魔法だから俺たちじゃ完全には無効化できない。性能としてはお前のほうが詳しいだろ、スヴァルト」
「人間の作った武器はほぼ効かなくなり、こちらも魔法を込めた攻撃をしなければ鎧に備わった飛竜の力で威力は減衰させられる。難点と言えば常に飛竜の気配がしますので見つけやすいことくらいだ」
素晴らしい性能はないけれど、正攻法で鎧の耐久力を上回る攻撃をするしかない装備だとスヴァルトは言う。
人間たちが懐疑的なのはアルフの感覚では丸わかりだ。
ダークエルフは魔王軍だったので、本当のこと言ってるかどうかと言いたいらしい。
スヴァルトもわかってるのか淡々としてて近寄りがたい雰囲気を作ってた。
「それじゃ、こっちは飛竜よりでかいドラゴン二体いるし、鎧着た奴らは引き受けようか。問題は砲台型が十基あることだな」
ウェベンが量産した兵器がすでにジッテルライヒに投入されていた。
耐久力が減った分、運搬も楽な重量になっているようだ。
絶妙に面倒臭いことしてくるのがウェベンらしい。
「あれ一基でも運用次第で人間の軍なんて壊滅できるし、無視はできないよな」
「私も伝聞ではありますが、砲台型一基で城壁に囲まれた首都一つが数時間で壊滅した記録があったと記憶しています」
エルフ先生の意見に今度は人間たちも素直に驚き、警戒する。
スヴァルトは信用できないけどエルフ先生ならジッテルライヒ側も信用するみたいだ。
「妖精王のお力でまた破壊していただけないでしょうか?」
「いいのか? 魔法使いが使い物にならなくなるぞ?」
ジッテルライヒの軍には魔法使いの部隊がいる。
前回アルフが壊した時、その部隊も被害を受けた。
同じ手を使うというアルフに、ジッテルライヒ側はすぐさま前言撤回する。
「では他に方法はないのでしょうか?」
「いや、お前らも考えろよ。守るんだろ、自分の国」
他人ごとのようなアルフに弱腰を責められ、将軍はむっとする。
そこに黙ってた獣王が呆れるような口調で請け負った。
「では我らで半数は引き受けてやろう。だが、そのためには我が軍の前に立つな。充填を終わらせる前に距離を詰めて倒す」
獣王は遠目だけど、一度はあの砲台型の動きを見てる。
最初から充填しててもビームは一直線にしか飛ばないし、獣人たちの身体能力なら避けられるという見込みのようだ。
アーディは獣王の意見を聞いて考える。
「一度撃たせてその次の充填の間に距離を詰めるつもりか。ふむ、それなら我らでもできよう。妖精王、シュティフィーから聞いたが砲台型と呼ばれる兵器の光線は太陽の如きものであるとか?」
「あぁ、お前らの魔法使えば直撃は逸らせるだろうな」
アルフは簡単に肯定した。
たぶん水の魔法でレンズでも作るだろうけど、言うほど簡単じゃないと思うなぁ。
けどそれが思いつくってアーディもすごくない?
水の中に住んでるから光の屈折わかるのかな?
「けど、距離詰めても人魚の力じゃ壊せないぞ、あれ」
「ならば足場を泥にして転倒させるだけだ。倒れてまで打てる代物ではなかろう」
「それなら大丈夫か。どうせなら泥に埋めちまえ。内部にまで泥が入り込めば機能不全起こすだろ」
「それなら我が族も力を見せるとしよう」
ヴィーディアが対処可能と聞いて名乗りを上げた。
立場的にジッテルライヒ側なんだけどそこは幻象種。
乗りは攻撃的だ。
幻象種だけど人間に近い感覚のエルフ先生は、続いて名乗り出ようとする将軍を宥めてる。
できないことを、対抗心だけでやるというのはやめたほうがいいと僕も思うよ。
まず人間じゃビームは避けられないしね。
「妖精王、こちらの形を変えられた兵の駒はいったい?」
「魔法がかった武器持ってる奴らだな。揃いじゃなくて、目立つ大斧持ってる奴から短剣忍ばせてる奴まで色々。見てわかるとおりあっちの勢力には分散して配置されてるから、ただの兵と思ったら魔法武器で一騎当千なんてことされる場合もあるぜ」
「こ、こちらの他から離れた一団はどのような?」
「将軍連中呪ってる奴ら。俺の側離れると持病が悪化して最悪死ぬから気をつけろ。たぶんジッテルライヒに潜伏してた流浪の民が呪いに必要な情報取ってたんだろうな。個人を狙い撃ちして呪ってるぜ」
「で、では、この…………動物に見える、駒は?」
「見た目が動物だったからその形。悪魔の使い魔だ。普通に魔法放ってくるから近づかないほうがいいぜ。あ、空にいるのは傷物グリフォンが適当に狩るからほっとけ」
人間じゃ手に負えない問題山積みじゃないか。
なんかエルフ先生が諦めたような目してる?
「これではかつて聞いた魔王軍の再来のような」
「こんなの甘いって。ほぼ人間しかいないし数だって万もいないだろ」
エルフ先生のぼやきをアルフが笑い飛ばす。
考えてみれば魔王軍は悪魔もいたし怪物もいたし、ダークエルフのような幻象種もいた。
基本足の遅い人間が操ってるから脅威度は低い、なんて思うのはユニコーンの僕だからかな?
「あの、ですが流浪の民にしては数が多いような気がするのですが」
ユウェルの疑問に答える声は天井から降って来た。
「北辺の国々から連れて来た人間たちだ。国を人質のようにして従わせている」
「おう、ペオル。その人間たちどう配置されてるかわかったか?」
アルフの声でペオルが日除けを透過して現れる。
見るからに悪魔な外見に人間たち戦慄して腰を浮かした。
敵の人数が多いのはアルフも気づいていたから、探ることが得意なペオルに調査を依頼していたらしい。
「国々を混成にすることで協力しての反抗を抑止しているようだ。三人一組、三十三組で一隊を作り、それが三十三隊あった。これが左右中央の三つに分かれ三十三隊ずつだ」
「一万人弱か。数は多くないが」
「なんと言うことを…………」
将軍の言葉を遮るようにエルフ先生が呟くと、アルフもジオラマを見直してわかった様子で聞いた。
「ペオル、その人間たちはなんのために連れて来られていた?」
「術を構成するための生贄だろうな」
「「「はぁ!?」」」」
「可能か、妖精王?」
人間の将軍が驚くしかない中、獣王は顔を顰めながらも確認する。
「無理ではないな。ほら、兵の並び見てみろ。全体で輪を作るように動いてる。詳しいことはわからないが、もしこれで悪魔でも呼び出されたら厄介だ。それなりに高位の奴が出てくるぞ」
「無闇に死なせるだけこちらが不利な上に無益である。すぐに軍を前進させ圧力をかけるべきだ。まずはこの円を崩す」
やる気になった獣王の言葉に人間の将軍も無駄なことは言わず頷く。
「よし、だったら面倒な砲台型を確実に無力化するぞ。ペオル、アシュトルにも手伝うよう言ってくれ」
「獣人が半数の五基を引き受け、人魚どもが一基ずつ、残る三基を我らで押さえろと?」
「いや、飛竜の鎧着てる奴らの足止めにスヴァルトたち使う。ドラゴン二匹に一基ずつ、獣王は魔女と協力して同時に二基、人魚は予定どおり一基ずつで、アシュトルには二基頼む」
「残る二基は?」
アーディが聞くと、アルフは笑う様子で強気に言い放った。
「俺のほうで処理する」
「何をするつもりだ」
「なんでそんな疑ってかかるんだよ、お前は」
すぐさま問いを重ねるアーディに、アルフは出鼻をくじかれる。
「一基は魔導力機関壊して、もう一基は適当に自爆させてからボリスに爆炎吸い込ませる」
「一番端でやれ、妖精王。いや、いっそ全部誘爆させたほうが早いのではないか?」
考え直す獣王にスヴァルトが警告した。
「それでは人間の出る幕がなくなる。これは歩調を合わせる慣らしと思うべきだ」
気を使ったスヴァルトなんだけど、その言葉に将軍たちの顔が引き攣る。
エルフ先生はドワーフの国でも見たのと同じ体勢でお腹を押さえてた。
隔日更新
次回:神のいる場所




