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387話:動く天井

「うーん、僕もどうにかしないと」


 白い壁に囲まれた心象風景で、僕は天井を見上げて唸る。

 相変わらず天井のないそこには夜空が広がってた。

 満天の星だけど月がないのが寂しい気がする。


 あ、よく見ると大きな星がある。

 北極星かな?


「星を眺めてる場合じゃないな。アルフは僕を助けようとしてくれてる。数人殺意高いけど、魔王を追う気だ。どうにか魔王の動き伝えられたらな」


 そのためには魔王が何してるか見なきゃ。


 そう思って立ち上がると、奥の窓から物音がした。

 僕はすぐに身を低くして、息をひそめる。

 心象風景の中だから呼吸とか関係ないんだろうけど、できる限り動かないように小さくなった。


「…………違う?」


 動かず百数えてみたけど続く音はない。

 何かが崩れたような偶発的な音だった気もするし、どうやら魔王はいないみたいだ。


「けどいったい何が音を立てたんだろう? あっちの部屋はそんな音のしそうな物…………あ。映写機壊れた!?」


 僕は焦りながらも警戒を持って、すり足で奥の窓へ向かった。

 カーテンは開いたままの窓の向こうから物音がしないことを確かめて、そっと覗き込む。

 やっぱり部屋の中に人影はなかった。


「ふぅ…………。映写機も動いてるね。魔王はまだ移動中か」


 魔王の視点だろう映像は空を飛んでる。

 風の音はするけど無言だから様子はよくわからない。

 たぶんライレフの使い魔の取りに乗ってるんだろうけど。

 魔王周り見てないしな。


 ちょっと耳を澄ましてもアルフたちのような話し合いはしないみたいだ。

 まぁ、魔王ワンマンっぽいしね。


「流浪の民の双子は魔王復活が目的だったけど、一族とかはいいのかな? こういう時って世界に復讐してやる! とか、今まで無碍にしてきた奴らに目に物見せてやる! って主張はしないのかな?」


 言いながら、僕は双子の様子を思い出す。

 うん、しなさそう。

 っていうか滅茶苦茶魔王怖がってたね。

 それと下手したら意識なくなってるんじゃない、この強行軍。


 まぁ、一度僕も襲った相手だし、敵だった僕がさらに厄介になって目の前にいたら怖いだろうな。

 しかも話聞かなさそうな感じだし、休憩とか言い出せなさそう。


「悪魔は騒ぎが起こればいいみたいだよね。なんかライレフのほうは双子よりも魔王のほう気にしてるし、生きてればいいからって世話もされてなさそうだな」


 ただ庇ってはいたから双子に死んでもらっては困るんだろう。


 その上で魔王が争いの引き金になってくれるならもろ手を上げてついて行くと。

 碌でもない悪魔だなぁ。

 やっぱりライレフは倒さないと。


「…………ウェベンは、うん」


 僕相手でも押しかけだったんだ。

 相手が魔王になっても変わらないよね。

 コーニッシュみたいに競う相手もいないなら、その内食事の世話でもし始めるのかな?


 あれ?

 魔王って今僕の体だけど、なんかユニコーンじゃなくなってるんだっけ?

 バイコーンってユニコーンの反対の生態の生き物、だよね?

 乙女が好きなユニコーンと嫌いなバイコーンってことは、食事の好みも反対になってたりする?


「いやいや、なんか余計なことが気になっちゃった。アシュトルたちも気にしてなかったし、ウェベンは物の数に入れてないのかな。言えばサポートしてくれるし、いて困ることはないけど。敵になるとしたら、うん、細々動かれるのが厄介かな」


 手回しは上手いけど、今のウェベンは魔王にくっついてるだけ。

 離れて手回しをする様子がないならいいか。


「で、本題は…………? さっきの音の原因はなんだろ?」


 広くもない部屋に変わった様子はない。


 …………と思ったら視界の端に光る物があるな。


「…………ドアノブ?」


 窓のすぐ横の床に鈍い金属光沢があった。

 開かない窓にへばりついて見れば、一つ一つは手に持てる大きさの物品。

 それが山になって一部崩れて床に転がっている。


「あれ? よく見ると壁に穴がある気が?」


 窓から見える右手の壁に指の入りそうな穴がある。

 床に転がる種々のドアノブには、取っ手の裏にちょうど穴にはまりそうな大きさの突起があった。


「もしかして、扉?」


 壁と同色で境もほぼない。

 そんなところにドアがあるなんてノブが落ちてなければ気づけなかった。


 窓から離れて右手を見ても、僕の心象風景のほうには壁しかない。


「この向こうってなんだろう?」


 床に積み上がったドアノブの意味は、たぶんドアにはまらなかったから放り捨ててあるんだ。

 同時にそれだけの数を試したという執着も感じた。


 魔王が望む何かがドアの向こうにあるの?


「窓の向こうも一定じゃないみたいだし、あのドアの向こう、こっちから見ても違うもの見えそうだな」


 僕は自分の心象風景にある壁に手をつけた。

 感触は良くある感じの壁紙と、硬い建材。


「天井は夜空だし、窓の外は草原だし。魔王の部屋のほうから出ても全く違う世界広がってそうなんだけど…………」


 覗くだけでいいから窓が欲しいな。


 そんなことを考えた時、何か違和感が掌にあった。

 壁に突いていたはずの手を見るとなかったものが現われている。


「丸いこれ、船とかにある窓?」


 ちぐらとか棚とか突然出て来たし、その一種かな?


「いや、思うとおりにできるならもっとアルフと連絡できるように電話とかさ」


 言ってみるけど室内に変化はなし。

 こういうことはできないんだ。

 困ったなぁ


 僕はともかく窓の外を見る。


「…………結局夜? にしてはおかしいね」


 地面がないし、窓から見える景色が上下左右全て夜空だ。

 草原みたいな遠景さえない。


「もしかしてこれ、宇宙?」


 そう考えるとこの船にあるような分厚い丸い窓も宇宙船のそれっぽい。


「え? ちょっと待ってよ」


 僕は窓から離れて天井を見上げる。


 月の登らない夜空、明けない夜空、知った星座も見つけられない夜空。


「この天井ももしかして宇宙なの?」


 えー?

 僕自分の心象風景がわからなすぎるんだけど?


 なんで宇宙?

 っていうか魔王が開けようとしてるドア、開いたら宇宙?

 それ死ぬんじゃないの?

 映画とかで気圧の違いで宇宙空間に放り出されてなんてあるけど。


「いや、でもここって結局僕の中でしょ? 肉体もないんだし、死ぬ必要なくない?」


 って言って思い出した。

 僕、人化してる。

 まぁ、ワンルームに蹄で入るのは違うけど、いつも思えばここでは人化してる。


「うーん、僕の気持ち的にはまだ人間なのかな? だいぶユニコーンらしくなったと思ったんだけどな」


 床芝生だし、人間に必要な家具ほぼないし。

 本当に自分の精神の在り方が良くわからない。


「そう言えば、ワイアームが僕のほうに魔王との繋がりがあったかもって、言ってなかった? ブラオンの魔法陣じゃ復活しそうもな魔王が復活したのって、そういうこと? もしかして魔王が僕を乗っ取れたのも、僕に人間の部分があったから?」


 だとしたらとんでもない偶然だ。

 ユニコーンに人間の精神が宿ってるなんて普通思わない。


「この宇宙も僕の前世に関係してるのかな?」


 ユニコーンに生まれてまだ一年経ってない僕は、だから宇宙なんて前世関連しか思いつけない。

 そして僕の知る前世は何かしらの形で使徒である魔王も知ってる。

 そこが引き金となって魔王が復活してしまった可能性はゼロじゃないんじゃないかな?


「でもなんで魔王は外に出たがってるんだろ?」


 すでに僕の体は乗っ取った。

 その上自分の居場所も勝手に作ってる。


 なのにさらに外を目指すのは、そこに何か目的があると思う。


「別に出て行ってくれるんならいいんだけど、問題は結局僕の中ってことだよね」


 しかもこういう部屋から出て行かれたとして、観察が続けられるかどうか。


 僕はもう一度魔王の視界の映るスクリーンを見る。

 浅黒い腕がスクリーンの端から前方を指差した。

 その動きに合わせて、魔王の視界も腕の指し示す方向を眺める。


「あれ? もしかしてあの遠くに見えるの」


 ジッテルライヒの副都っぽい都市が見える。

 体力が人以上の僕が歩いて数日かかった距離。

 それをどうやら数時間で飛行したようだ。


「え、早くない? どれだけのスピードで飛んでるんだろう、この鳥?」


 ちょっと生身の双子が心配になってしまった。


隔日更新

次回:ヘイリンペリアムの内情

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