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382話:アルフの動向

 僕は心象風景で独り呟いた。


「これ、アルフのほうもまた視界見れないかな?」


 魔王の動向を見て、アルフが心配になる。


『完全ではないからこそ魔王石が…………』

『ではヘイリンペリアムを…………』

『それは楽しそうですね』

『せ、拙速ではありませんか!? まだ…………!』

『一度どうか我が族に…………! 魔王さま!』


 森の城の跡地で言い合いをしているのが聞こえる。


 魔王は魔王石狙いでヘイリンペリアムへ行きたいらしく、悪魔たちはその意見を推す。

 けど双子はなんとかやる気を振り絞ってる感じで訴えてた。

 二人だけだと手に負えないことを悟って仲間の所に連れて行きたいんだろう。


「なんにしても森を離れるならアルフたちが気になるんだよね」


 僕は魔王の視界の見える窓から離れて一番遠い窓へと向かう。

 青空から降り注ぐ日差しに照らされた窓辺には、近代的な机とパソコンがあった。


「これがたぶんアルフとの繋がりなんだけど。デスクトップは壁紙だしなぁ」


 僕はマウスを操作してパソコンを触る。

 検索エンジンにかけてもアルフの視点を覗き見る方法にヒットはない。


「あれ? そう言えば前にこれで見たゴーゴンたちとの戦いって、もしかしてアルフ視点? …………いや、確かゴーゴンと戦ったことあるって言ってたの、魔王で」


 なんでここにあったの?

 え、もしかして混線してる?


 いや、それとも…………。


「魔王もこれ使って何かしてた? そう言えば人格持ってるの変って悪魔たちも言ってたよね。術で僕の中に魔王石から思念が別れたけど、その時点ではあやふやな存在だったはず。けどこれとかで学んで確立した、とか?」


 わー、だとしたら本当に僕の中に復活って当たりじゃん。

 ブラオンの術邪魔しないほうが良かったかな?


「でもあの時嘆きの声が…………あれ? 魔王に白い闇に落とされた時には全く聞こえなかったな。けど僕死にかけたんだよね? ウーリも言ってたし」


 もしかして死を報せる嘆きの声って、外部からの攻撃にしか反応しない?

 だとしたら有用性は変わらないけど気をつけないといけないなぁ。


「この反省を生かすためには早く体取り戻さないとね! …………って、あ!」


 中身を確認していたファイルに映像を発見した。


「ここ、仔馬の館?」


 映像を再生すると意識が飲み込まれるような錯覚に陥る。


 それはアルフの視界を見ようとしていた時に似てた。

 そう思ったらまるで自分のことのように声が聞こえ出す。


「いったい何が起きている? こちらでも妙なことがあったというのに。城の崩壊はお前だろう、妖精王」


 そう言って仔馬の館に現れたのは人魚のアーディだった。


「ちょっと待ってくれ、アーディ。獣王もこっち向かってるから合流したら話す。スヴァルト、お前の意見は聞きたいから残ってくれ」

「わかりました。ティーナ、里のほうは頼んだ」

「任された、と言いたいところだけど。なんて説明したらいいのかしら?」


 ティーナは困ったように言って、仔馬の館から出て行く。

 どうやらここは仔馬の館の中庭を望む談話室だ。

 円形の石の段差にみんなで腰かけてる。


 アルフの姿が見えないのはやっぱりこれがアルフ視点だからなんだろう。


「今度はなんだ!?」


 獣王が来たと思ったら、狼の将軍ヴォルフィが苛立ちを隠さず吠えた。


 後ろに獣王いるけどすごい厚着でしょんぼりしてる。

 寒いの苦手みたい。

 そう言えばライオンって暑い地域の生き物で、狼は寒い地域だ。


「妖精王さま、食堂のほうに風除けと火鉢を用意しましたのでご移動を」


 そう言いに来たのはエルフのブラウウェル。

 その姿にアーディが眉を顰めた。


「ゴーゴンはどうした?」

「城に居合わせたスティナとエウリアが目をやられてメディサが看病してる」


 アルフは答えて移動を促した。


 食堂の上座だと思うほうにはアルフと獣王が座り、側にはスヴァルトとヴォルフィが立つ。

 大きな本性のままのモッペルの側に、グライフとクローテリアが伏せてた。

 アシュトルとペオルも巨体で部屋の一角を占拠。

 ブラウウェルとドワーフのウィスクは話を聞く姿勢だけど、他のエルフは防寒用の布を増やしたり、温かい飲み物を用意したりと立ち働いてた。

 妖精たちはアルフの部屋のジオラマを観察して報せがあると出入りしているようだ。


「簡単に言うと、フォーレンの体使って魔王が復活した?」

「嘘だろ」

「有りえん」

「もっとましなことを言え」

「それはちょっと」

「ないのう」


 城にいなかった面々から、即座に否定の言葉が飛ぶ。


「いや、聞けよ」


 アルフは魔王が襲って来たことから、ウーリとモッペルが一部始終を見ていたことを説明した。


 うーん、やっぱり僕の中ってのが問題になってる。

 ただの人間だったらありえないって話らしい。


「つまり本人は乗っ取られた状態なんだな? ユニコーンとしての身体能力はどうなっている?」

「人化したまま変わらなかったが、怒りには振り回されていたな」


 質問を投げるアーディにグライフがつまらなさそうに返した。

 それを聞いて獣王がアルフに問い直す。


「その場合、妖精王の加護はどうなっているのだ?」

「体がそのままなら存在も基本はフォーレンだ。加護に変化はないぜ」

「なんたることだ。それでは妖精王の加護を受けた魔王が復活したと?」


 ウィスクの隣でブラウウェルも蒼白になってる。

 それに対してアシュトルとペオルが否定の言葉を発した。


「復活というにはまだ早いわ。どうも変なのよね。らしいことを言うし、語る内容に魔王との矛盾はないわ」

「だが、どうも性格が違う。唯一同じと言えたのは怒りに我を忘れる直前くらいだ」

「なんというか、人間味が全くなくなっていたように思う。魔王石を求める様子からするに、まだ完全に復活したとは言えない状態なのではないだろうか?」


 スヴァルトも悪魔の疑念に同意するらしい。

 どうやら魔王を知るひとたちからすると、今の魔王は違和感があるようだ。


「そういうものなのよ? でも名前封じたとかアダマンタイトとか言ってたのよ?」

「アダマンタイト!? あの魔王しか作れないと言う?」


 ブラウウェルが改めて驚くと、グライフが伏せていた顔を上げた。


「本当にあれがそうなのか、羽虫」

「あぁ、アダマンタイトだった」

「ならば、アダマンタイトとはなんだ?」


 グライフの短い問いに、重い空気が広がった。


「…………本来は妖精がその全存在をかけて与える至高の宝。黄金を媒介に妖精の核を犠牲にして作る魔術触媒だ。アダマンタイトは存在するだけでその場の魔力を吸い上げ、持ち主の許容を越えた知識と魔力を補助する」

「なんだそれは? まるで、魔力を持たない者でも魔法が使えるように聞こえるぞ」


 厚着のままの獣王に、アルフはただ頷くだけ。

 途端にモッペルが吠えだした。

 その声には悲しみが宿っている。


「あ…………猫は?」


 ヴォルフィが気づいて鼻を動かすと、アシュトルが蓮っ葉に教える。


「私たちの目の前でアダマンタイトの素材にされたわ。様子はおかしいけどあんなの見せられちゃ、魔王だと信じないわけにはいかない。だって、悪魔にも再現は不可能だったんだもの」

「ドワーフにもどうにかアダマンタイトの製法を知りたいと魔王側につく者がいたと聞いておったが。決して魔王が明かさなかった理由が、まさか材料のせいだとは」


 ウィスクは悩ましげに自分の白髭を掴んだ。


「アダマンタイトは最初、本当に魔王を気に入った妖精が善意から与えたものだった。それをあいつは老いて物事の結果ばかりを見るようになってから、強制的に作れるよう、技術を開発しやがったんだ」


 苦々しく語るアルフに、当時を知るペオルがさらに疑問を投げかけた。


「魔王はドラゴンの血によって体は老いぬが心はそうもいかん。だが、あのユニコーンの体を得た魔王は老成した頃とも若かりし頃とも違うぞ」


 結局、こっちの悪魔は魔王だと信じ切れないみたいだ。

 そこに入り口の風除けを揺らす風が吹いて、シルフのニーナとネーナが現われた。


「大変、大変! お料理悪魔が死にかけて帰って来たよ!」

「姫騎士が三人支えながら来てます。案内は魔女のマーリエです」


 ランシェリスたちとコーニッシュが生きてた!? 良かった!


「ってことはケイスマルクからか」

「仔馬に何があったか知っているかもしれんな」


 グライフの同意を得て、アルフはニーナとネーナに命じた。


「すぐにここまで案内してやってくれ!」

「「はい!」」


 ニーナとネーナはまた大きく風除けを揺らして食堂から飛び出して行った。


隔日更新

次回:命の価値

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