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370話:魔王復活

 おかしい。

 体が僕の意思に関係なく動く。


 岩の点在する山の斜面にヴェラットの悲鳴が甲高く響いた。


「トラウエン!?」


 僕が蹴り飛ばしたトラウエンをライレフが空中で受け止めた。

 その間に、僕は一人になったヴェラットに駆け寄る。


 早さにヴェラットはついていけず、目の前に立ってもまだ茫然としていた。


「おや、動けるのですか?」


 ウェベンは遅れてもついて来てた。

 そして今さら気づくヴェラットの腕を掴む。


 僕は答えずにヴェラットが握り込んだ魔王石に手を伸ばした。


「いや!」

「ヴェ、ラット…………!」


 トラウエンが抵抗するヴェラットを苦しい息の下から呼ぶ。


 苦しそうな声だけど、喋れるなら大丈夫そう?

 適当に蹴ったからかな。

 本気だったらたぶんジェルガエの長官と同じことになってた。

 しかもお腹を蹴ったから確実に死んでたよね。


「魔王石の回収ですか?」


 ウェベンは答えてもらえないのに気にせず聞く。

 これは僕の異変に気づいてない?


 ウェベンはヴェラットの腕を捻り上げて魔王石を奪うのを手伝う。

 僕も躊躇いなく黄色い宝石を手に取った。

 って、これも魔王石ならまた意識が!


「ヴェラットを、離、せ!」

「契約者、今無理をするとすぐに死んでしまいますよ。それでは面白くない」


 トラウエンをライレフが止めてる。


 その間に僕は気をしっかり持とうと意識を集中した。

 けど、何か、魔王石から流れ込んでくるものが横を素通りするような感覚がある。

 こんなこと今まで…………。


「それにどうもおかしい」


 ライレフが怪しむように声を落とした。

 勝手に動く僕は、ライレフに目を向ける。


「魂ではない。これは、何が違うのか」

「まるで別人のようですね」


 見定めようとするライレフにウェベンも同意してる。

 どうやら異変には気づいていて疑問をさしはさまなかっただけらしい。

 けどウェベンは従僕として振る舞うことを続けるらしく、僕が魔王石を手に入れたことで掴んでいたヴェラットを用済みのため離す。


 ヴェラットはすぐにトラウエンのほうに走り出した。

 でも僕は動かない。

 まるで興味がないみたいに。


「今回は上手く行った」


 自分の手を見た僕が呟く。

 いや、たぶんこれは僕じゃない。


 白かった肌が日焼けしたように色が濃くなる。

 視界の端で揺れていた金髪が黒く色を変える。

 うん、これはなんかまずい!


「誰だ君は!?」


 必死の思いで声を出す。

 すると首に巻いた魔女のスカーフが光って力を貸してくれた。


「さすがに慣れたか。精神の奥に退けばいいものを」


 同じ口で僕じゃない誰かが喋る。

 その様子に双子は動揺してた。


「何が、どうなっているの?」

「別人? ユニコーンじゃないのか?」


 僕じゃない誰かがトラウエンとヴェラットに向き直る。

 口は頑張れば動かせても体はどうにもならない。


「お前たちが望んだはずだ。俺の復活を。魔王の復活を」


 ま…………魔王!?


「おやおや、これはどういうことでしょうね? 確かに別人。そして似ていると言えば似ているような?」


 ライレフも驚きを隠せない様子で笑みをひっこめた。


 僕だってどういうことかわからない。

 どうして僕の体に魔王が?

 いきなりこんな他人が現われるようなこと今まで…………。


「あー! ビーンセイズのブラオン!?」


 感情のままに声を上げると双子が肩を跳ね上げる。


 魔王を名乗る者は僕の顔で眉間を険しくしたのが感覚でわかる。

 どうやら動かない割りに、体の何処を動かしているかは見えなくてもわかるみたいだ。

 つまり、僕はまだ完全に体の主導権を奪われたわけじゃない。


「うるさい。さっさと消えろ。あの術で入り込んできたのはお前だ。何故四足の幻象種などの体にと言いたいのはこちらだ」


 だったら出て行ってよ!

 っていうか、心象風景になる度に誰かいるような気がしてたの気のせいじゃなかった!

 あれ魔王だったんだ!


 言い返そうとしたら圧がかかる。

 まるで大きな手に体全部を包まれて押しつぶされそうになるような圧力だ。

 現実のものじゃないはずだけど、ここで押し負けると魔王の言うとおり消える気がする。


「ビーンセイズで何があったか聞いても、召喚者?」


 ライレフがトラウエンとヴェラットに目を向けずに聞く。


「ブ、ブラオンという同朋が、魔王石のダイヤを使ってその中に保存されているであろう魔王さまを自らの肉体に招き蘇生させるという秘術をおこなったんだ」

「でも、妖精王たちに邪魔をされて失敗したの。星の巡りや魔法陣を起動させるために必要な魔力を溜めるために、次は二百年以上待たなければいけないはずだった、けど」

「妖精王とユニコーンに邪魔をされて失敗していたはずが、ユニコーンの体を依代にすることで密かに成功していたと?」


 双子の言葉を纏めながらも、ライレフはいまいちの反応だ。

 アルフも成功しないって言ってたし、納得いかないんだろう。


 僕は圧に耐えてると口を動かす余裕がないまま聞いているしかない。


「本当に魔王であると言うのなら、何故今までユニコーンの仔馬程度にここまで時間がかかったのでしょうね?」

「逆だな。ユニコーンと言ってもこいつは特殊だ。そして精神に広い余白がある。精神が幼すぎて部屋一つ程度の矮小な精神性のままだが、その実、空のように果てのない広がりがあった」

「精神の、余白?」


 トラウエンが困惑ぎみに魔王だという僕の言葉を繰り返す。

 ただ悪魔のほうはそれで通じたらしくウェベンもライレフと一緒に頷いてた。


「だいたいにおいて術が未熟、いや、粗雑すぎた。無駄が多い、燃費が悪い、機能性もない。あれで俺が復活の可能性を持てたこと自体、こいつの素養あってこそだ」


 そう思うなら少しは感謝してその僕を消そうとするのやめてほしいんだけど!?


「あまりに不安定な存在となったためこいつの中に隠れて機を計っていた。すると自ら宝冠の石を求め、俺の思念を集めることをし始めた。これで十一。半分を得てようやく主導権を奪えた」

「魔王石を十一個!?」


 ヴェラットが驚く。

 どうやら魔王石集めてること知られてなかったらしい。

 シィグダムとジェルガエはともかく他は人間たち感知してなかったしな。

 見つけた流浪の民も捕まえてたし、連絡が届いてなかったんだろう。


 っていうか、もしかしなくても僕が魔王石触る度に心象風景に行ってたの、魔王のせいか。

 主導権を奪おうとかしてたなんて全然気づかなかったよ!

 ってことはドワーフの国での暴走も?

 あれって実は僕の体使って魔王がワイアームと戦ってた?


「む、これは」


 褐色になった僕の手で魔王が額を触る。

 感触は僕にも伝わるんだけど、なんか小さな角が増えてる?

 あれ? 僕二本角になってる。


「これだから四足の幻象種は訳がわからない。何故色が変わる? 何故角が増える? 尻尾も邪魔だ」


 文句多いな!

 尻尾は君か僕が苛々してるからだよ!


 でも気が逸れたのか圧が少し減った。

 もう少し気を散らせばどうにかできないかな?


「あのユニコーンがそのような嘘を吐くとも思えませんし、ここで魔王を名乗る益があるとも思えませんね」

「では、あの方が本当に、魔王さまだというの?」

「ふ、復活が、一族の悲願が、達成された?」


 肯定に傾くライレフに、双子は困惑を払拭できない。

 こんな形で達成とか思ってなかったんだろう。


 自分たちの手でどうにかしようとしていたからこそ信じられない。

 まぁ、精神違うって言ってもそんなの見えないしね。

 僕は信じないままでもいいんだけど、そうでもない悪魔がいた。


「あなたが魔王であると言うなら、吾の問いに答えてもらいたいのですが?」

「俺が俺であるという以上の証明など必要とはしない。が、役目を終えた悪魔が今さら旧主に何を問うのか興味もある。聞いてやろう」

「では、我ら七十二の悪魔とそれに連なる者たちへあなたが最後にした命令はなんでしょう?」

「最後に? そう言えばあの場に悪魔はいなかった。何故だったか…………」


 魔王が記憶を手繰るように呟くと、同じ頭を使ってるせいか僕にも考えが少し浮かぶ。

 本当にずっと昔のおぼろげな記憶を探るような感覚で、つまり覚えてない。

 けど、探るごとに記憶がはっきりしてくる。


 物忘れしてることは覚えてるんだけど、いまいちしっかりと掴めない歯痒さ。

 けど関連することをふと思い出して、そこから明瞭になって行くような感じがした。


「あぁ、もう悪魔などではすることもないと、暇を出したのか。確か、奴らが門を開くと同時に城を出て好きにしろと言ったのだったな。自ら悪魔を放つように門を開いた奴らの驚きには少し笑った気もする」


 ライレフは魔王の返答に邪悪な笑みを浮かべていた。


GW更新

次回:魔王への抵抗

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