313話:奪われた権能
正直こんな危ない前世知識使いたくない。
というか使える状況に陥りたくなかった。
電気同士が引き合うなんて静電気でパチッとする原理だけど、雷でなんて想定してないよ。
しかもなんかできちゃったし、大グリフォン落ちちゃったし。
「お…………のれ…………」
大グリフォンはどうやら致命傷までは行ってないらしい。
僕羽根が片方駄目になってるのに。
嵐の精霊の加護かな?
普通落雷に当たったら死ぬと思うんだけどな。
「ま、ともかくチャンスだよね」
僕は一度地面に降りて羽根を消した。
そのまま念じるように体を大きくする。
威力重視で大グリフォンと同じくらいだ。
「たぶん治るから大丈夫だよね?」
僕は地面に倒れたままの大グリフォンに前足を振り上げた。
気づいた大グリフォンが目を瞠って動く。
「よいしょー」
広がったままの羽根を狙って前足を降ろした。
当たれば骨が折れる。飛べなければ速さは僕が勝つと思うんだ。
大グリフォンは雷の後遺症か動きが鈍い。
それでも猫のように柔軟に身を翻した上に、大きく動く羽根に風魔法を孕ませて僕に叩きつけた。
「わわ!? 風が!」
吹き上げる風に狙いが外れそうになったけど、堪えて足を踏み下ろす。
けれど立て直しの隙に大グリフォンは僕の足の側から転がって逃げた。
その時、僕の蹄は大グリフォンの振り上げた前足に掠める。
たぶん今、大グリフォンの前足の爪、折れたよね。
「あ、痛い!」
「何故貴様が言う」
「想像したら痛かった」
正直に言ったら馬鹿にした目をされる。
けど鳥の形をした足の爪は三本ばっきり折れていて本当に痛そうだ。
あ、血も出てる。
これは絶対痛い。
「馬鹿にするな」
「本気なんだけどな」
まだ動けない大グリフォンに今度は後ろ蹴りを見舞った。
避けたもののすぐには対応できない体勢になったから、もう一度前足を振り下ろして羽根を狙う。
そんな僕に大グリフォンが威圧混じりに鳴いた。
「何が、本気か!」
ちょっとびくっとしちゃった。
けど立ち上がると僕のほうが高いから、地面の上なら僕が上を取れる。
大グリフォンは今度こそ避けられない。
と思ったら大グリフォンは自分ごと風魔法で吹き飛ばした。
体勢を崩した程度で僕にはほぼ影響なし。
吹き飛んで逃げた大グリフォンのほうがダメージが入っているようだ。
う、爪がはげた足で地面を滑ってるのすごく痛そう。
「うーん、これは…………」
「この仔馬がー!」
「うわ!? グライフ!?」
突然頬にチクッとしたら怒鳴られた。
大きくなってるから痛くはないけど、なんで怒ってるの?
「殺す気もない癖に嬲りおって!」
「え、そんなつもりじゃないのに」
「どんなつもりだ、仔馬!? 死すら与えぬ辱めがあることをいい加減覚えろ!」
「…………え、どれが駄目?」
ちょっと考えて聞いたら、グライフは一度僕の側を離れる。
それからまた僕に突進して連続でつつく攻撃をしてきた。
「地面に叩き落とすわ、羽根をひたすら狙うわ、殺す気が最初からないわ! しかも精霊の加護を受けた者に精霊が司る力で反撃した上でその精霊には敬意一つ払わん!」
「そんな一気に言われてもわからないよ! それに僕のやったこと全部だめってことじゃないか!」
「そう言っているのだ! だいたい何をして嵐の精霊の権能を奪った!?」
「痛い! 体毛抜かないで!? 説明するから!」
つついても効かないからって酷い! 毛を毟らないで!
元の大きさに戻って人化した僕は、両手に雷の魔法を纏った。
「電気ってこう、引き合う性質あるでしょ?」
前世のテレビでやってた静電気の科学実験。
紫に光る電気が放出されつつ、近くの電気に糸のように引き付けられる現象だ。
「だから角で刺しながら大グリフォンに電気を発する魔法をくっつけてたんだ。嵐って言っても風は大グリフォンの近くにいれば体に沿った気流しかないから対処はあるし、雨はグライフ嫌がるから大グリフォンも降らせないと思ったし。だったら対処しなきゃいけないのは雷だなって」
「全て計算の上でだと? なんだこの仔馬は。存在自体がふざけているのか」
大グリフォンも説明を聞いてたみたいで文句を言ってくる。
けど聞く姿勢になってるなら、これでようやく名乗れるや。
と思ったら上空からの気配に僕もグライフも大グリフォンも上を見る。
「あれって…………ドラゴン? あ! 干物、じゃなくてヴィドランドルのドラゴンだ!」
「山脈にいた骨か。ということは」
グライフが嫌そうに嘴を鳴らした。
予想を肯定するように大きなドラゴンから小さなドラゴンが降りて来る。
と言っても僕の身長なんて優に超える飛竜のロベロだ。
「はっはははは! 見ていたぞ!? 巨大なせいで遠くからでもよく見えた!」
「黙れ! トカゲ風情が!」
グライフがすぐ飛んで行って黙らせようと爪を振り上げる。
その間にリッチの友達干物ドラゴンが降りて来た。
その背中にはヴィドランドル以外にも乗っている者がいる。
「あ、ヴァラに…………ワイアーム? なんで一緒にいるの?」
ドワーフの国の怪物ワイアームもいた。
しかも人化してる。
干物ドラゴンの上に飛竜と怪物のドラゴンかぁ。
妙な取り合わせだ。
「やれやれ。あのグリフォンの様子から早めに手を打つと読んだが、まさかすでに大グリフォンを下した後とは」
リッチのヴィドランドルが血を流す大グリフォンを横目に僕に言う。
眼球ないけどなんとなく視線の向きはわかった。
そしてナーガのヴァラは同情的な目を大グリフォンに向ける。
「大グリフォンの元へ行くと聞いたからにはこうなるとは思っていたが、いたわしいことだ」
ワイアームは珍しそうに辺りを見回していた。
「妖精の助けのないここでよく相手にできたものだな、妖精の守護者」
「なんだそのふざけた名は? 貴様らはこれの仲間か?」
「「「違う」」」
大グリフォンが聞いたら、全員が否定した。
うん、ただの見物人だよね。
「わしは住まいに入ってきたこれらに攻撃され、反撃を試みたところ腹の内に妖精の群れを召喚され酷い目に遭った」
「我は人間を招いたつもりがこれが混じっており、地下で雷霆を使うと言う規格外の対処に争うことをやめた」
「我が分身を連れていたから返還を求めたが、妖精王の権能を使って分身を個として独立させられた」
「…………訳が分からんぞ」
それぞれが僕との関わりを話したら、大グリフォンは不機嫌そうに尻尾を振る。
大きさがあるせいで地面に尻尾が当たると軽く地面が揺れた。
大グリフォンは爪の折れた前足を隠すように抱え込むと僕を見下ろす。
「妖精王とは妖精女王と何か関係のある存在か?」
「あれ? 妖精王は知らないのに妖精女王は知ってるの?」
「待つのじゃ。まさか何も知らずに来たのか? 全くあのグリフォンめ」
たぶんロベロたちから聞いて一緒に来ただろうヴァラがグライフを責めるように言った。
そう言えばナーガはもっと東の幻象種なんだっけ?
西の人間だったヴィドランドルやワイアームもこの辺りは初めてらしく、みんなでヴァラを見る。
「妖精王とは妖精女王の王配として生み出された妖精じゃ。その権能は妖精女王に並ぶと思ってもらっていい。そしてこの仔馬のユニコーンは、母馬を人間に殺された後その妖精王に拾われたそうなのだ」
ヴァラが大グリフォンに説明すると、ワイアームとヴィドランドルが捕捉した。
「これほど妖精王の加護が厚い者は今までにいない。だが明らかに精神への介入によりユニコーンとしては狂っている」
「見たところこの辺りに人間はいないようだが、人間という種族を知っているだろうか? 妖精王の影響か人間に扮することには長けており、知性もそこらの幻象種より高い」
そこでグライフが戻って来る。
ロベロとドつき合いながら。
「ここまで来れば羽虫の加護も薄れるかと思えば。結局は攻撃を当てることさえ無理であったな」
「なんだ? 妖精王の加護ってそんなことができるのか?」
「ふん、幸運を与えるなどと言っていたがどうやっているのかは知らん。ただ仔馬を攻撃しようとすれば必ず邪魔が入る。やったとしても運よく逃げられるばかりだ」
「ちょっとグライフ? ここ来るの賛成したの、僕を狙うため?」
「死に瀕して学ぶこともあろう。一度痛い目を見ろ」
「嫌だよ! 僕争うの嫌いだって言ってるじゃないか」
「なるほど、狂っている」
僕らの言い合い見ていた大グリフォンが酷い。
ユニコーンらしくないのは認めるけど、話す前にまず殺し合いなんて考えのグリフォンにだけは言われたくなかった。
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