306話:似た者同士
人間の国の最南端、ディルヴェティカを出てすぐ飛竜のロベロと出会った。
ディルヴェティカの人に邪魔だから離れろと言われて一緒に下山中だ。
「はっはー! そんなガキとグリフォンに何下手に出てんだよ!?」
「おいおい、こりゃ見物だぜ! グリフォン如きにビビってんのか?」
「エルフの所でよっぽど牙が折れちまったみたいだなぁ?」
山羊を取り合っていた飛竜が追ってきてうるさい。
「仔馬、やれ」
「踏みつぶせ」
グライフとロベロが勝手なことを言う。
「いや、あんな上空にいるんじゃ無理だよ。蹴り飛ばすくらいならいいけど」
言って僕はユニコーンに戻る。
ディルヴェティカは一応人間の国だから人化してたんだよね。
途端に上が騒がしくなった。
けどそれはすぐに止む。
「下がれトカゲ!」
「誰が聞くかよ!」
僕の人化解除と同時に飛んだグライフとロベロが、飛竜の羽根の被膜を引き裂いてる。
三体いたから最後の一体は左右から両方の被膜を破られてた。
「息ぴったりじゃん」
僕は落ちて来る飛竜たちに照準を合わせる。
そして真後ろに来ると同時に前足だけで立って蹴り上げた。
一、二、三と。
一体目は上手く胸を蹴ってふっ飛ばした。
けど二体目は顎に当たってあまり飛ばない。
三体目に至っては背骨を折っただけですぐ近くに落ちてしまう。
「アルフの手助けがないとロベロみたいに飛ばないね」
「ふははは! あれはもっとよく見ておけば良かったな!」
「黙れ! お前こそその顔の傷を作った時にはさぞ間抜け面してただろうよ!」
うん、喧嘩しながら仲良く降りて来た。
もうこの二人ただの似た者同士だ。
「ロベロ、こんな所で何してたの?」
「エルフの王には言ってあるから妙なこと考えるなよ?」
嫌そうにそんな前置きをする。
そして歩く僕と一緒に三体の飛竜を無視して下山を続行した。
墜落した飛竜は生きてるし、いいか。
「こやつらは冷えると動けなくなるトカゲだ。冬は一日の大半巣穴で動けなくなる」
どうやらグライフが蜥蜴と呼ぶのはその生態のせいもあるようだ。
「おう、毎年巣穴に頭突っ込んで動けなくなった鳥だか猫だかわからない奴が頭から丸かじりにされる時期が来るわけだ」
そしてロベロ、言い返すのはいいけど僕を挟まないでよ。
僕がグライフに威嚇されてるような図になってるから。
「つまり、冬に向けて狩りしてたの?」
「食い溜めてなるべく巣穴から出ないようにな。今回はエルフのとこで火を焚いた部屋用意されたから必要ないんだが、まぁ、毎年のことだしやらないとなんか座り悪くてよ」
本能的に狩りがしたい気持ちが膨れ上がって、雪が降る前に動いたようだ。
狩りはしたいけどそこまで切迫しているわけじゃないから奪い合いを離れて見てたらしい。
「お前はエルフの王の所か? それともあの骨野郎に用か?」
骨野郎ってたぶんジッテルライヒにいたリッチのことだよね?
「来たんだ? 乗っ取られたエルフとかどうなってるか知ってる?」
「そんなの本人に聞けよ」
「僕たち今から大グリフォンの街に偵察に行って雪が積もる前に戻るつもりなんだ」
「はぁ? 何やってんだ」
あれ? ロベロってエルフ王から魔王石借りることとか知らないのかな?
「必要になったから魔王石集めてるんだ。たぶん大グリフォンがオブシディアンっていう魔王石持ってるって言うから」
僕の言葉にロベロは牙の並んだ口を大きく開いて驚く。
グライフ何も言わない。
そのことでロベロは意地悪そうな笑い声を上げた。
「はーっはっはっは!? おいおい、本当かよ!? うわ、ばっかだなー!」
「黙れトカゲ!」
いい加減グライフが僕の背中を踏んでロベロに襲いかかった。
そのまま二人とも羽を広げて空中戦になる。
「おーい、話を…………って、この気配?」
「む? この気配は」
独特の冷たく湿ってはいないけどなんとなく湿度のあるような気配に僕は足を止める。
すると少し先から同じようなことを言ってこっちを見る骨野郎。じゃなかった。
「あ、リッチ」
「う…………!? お、おぉ、身構えてしまった。いやいや、我は何もしておらぬ」
「いや、それ何かしてたんでしょ? その手に持った光る花は何?」
周りの妖精が怒ってるよ。
それ採っちゃいけない花だったんじゃないの?
「いや、これの花粉が…………あ、そうだ! エルフ! エルフの魂に影響を及ぼすかもしれんと思って!」
「なんか嘘くさいなぁ」
けど本当だったら必要な物だ。
しょうがないから僕が謝ってお願いするとことで、妖精たちに引いてもらった。
「はぁ、本当に妖精王の加護が厚いようだな。我をリッチと呼ぶのも妖精王から何かしら聞いたか?」
「え、なんで?」
「魔王も我をそう呼んだ。しかし他は呼ばぬ。であれば使徒が神から与えられた知識の中に我のような死を超越した者に対する呼称があるのかと」
「あぁ、うん。動く偉そうな骸骨がリッチだよ」
「無礼な!」
怒った。
けど名前知らないしな。
あれ、でも名前がないのが当たり前なのは四足の幻象種だけっぽいし、もしかして?
「君って名前ある?」
「今さらか!? あるわい! よく聞け! 我が名は!」
「お、ヴィド。何やってんだ?」
「先に言うな! 略すな! ヴィドランドルだ!」
ロベロが気づいて降りて来た。
どうもこのヴィドランドルと言うリッチ、決めようとすると邪魔が入る運命らしい。
「グライフ、ジッテルライヒで会った昔の魔術師。アルフも本物なら相当だって言ってたよ」
「ほぉ? だが勝っても食いではなさそうだな」
「だよなぁ」
相槌を打つのはロベロだけ。
ヴィドランドルも骨の見た目でドン引きしてるらしい気配がする。
「食べないでよ。ブラウウェルの友達を助ける手伝いしてくれるかもしれないんだから」
「う、うむ。あれは大変興味深い症例。この手で解き明かすやり甲斐はある。我も手を尽そう。だからその猛獣どもが我と我が友を齧らぬようよく言い聞かせよ」
あー、干物ドラゴン相手だったらやりかねないね。
「時間があったらエルフ王の所にも行くからそう伝えてくれる? 僕たち今から大グリフォンの街に行くんだ」
「大グリフォンの街?」
あ、海の向こうの西の出身で地下に引き篭もってたヴィドランドルは南に疎いのか。
「グライフの父親が治めてる街らしいよ。一番強いグリフォンで、黄金貢がせる代わりに街を守ってるんだって」
「あぁ、エルフの国にいるグリフォンの元締めか」
言い方…………けどそんなものか。
ヴィドランドルは眼球のない目でグライフを見たようだ。
そしてロベロのお腹を見る。
さらに納得したように頷いた。
「被害者の会の者か」
「そうだな」
「違う」
ロベロが肯定するとグライフが否定する。
「やられたんだから今さら見栄張るな」
「貴様らのように傷の舐め合いなどせんわ。仔馬が育ったならばその時は」
「やめてよ。僕争い嫌いなんだって。グライフがそんなこと言うからワイアームもその気のままだしさぁ」
「まさか、ドラゴンまで倒したのか?」
ヴィドランドル、怪物のドラゴンの名前は知っていたようだ。
そしてロベロが嫌そうに確認してくる。
「その言い方だとまた留め刺してないんだな? てか、そうか。魔王石狙いか。これは面白そうだ」
何か思いついたらしいロベロが被膜の羽根を広げた。
グライフが不機嫌に嘴を鳴らすとロベロは言い放つ。
「よし、後で見に行ってやろう。まだ山に雪が降らない内は動ける」
「来るな!」
「お前に指図される謂れはねぇよ!」
上機嫌で飛び立つロベロは、たぶんエルフ王の許可取りにもどるんだろう。
そう言えば僕がそういう縛りにしてた。
「ふーむ、この年でまだまだ未知が多いものだ」
「そりゃ、世界は広いからね」
ヴィドランドルに何げなく答えたけど、この世界どれくらい広いんだろう?
異世界もやっぱり丸いのかな?
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