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303話:賢者の暗室

 森の城で一通り話し終えた後、僕は館へ向かった。

 ドワーフのウィスクは傷物の館にいて、窓も閉め切った書斎にこもっているようだ。


 そしてなんでかブラウウェルと向かい合って四つん這いになってた。


「何してるの、二人とも?」

「あ、あぁ、あぁ…………」


 普段頭良さそうなエルフのブラウウェルが、感情だけで言い分ける。

 誰か来たと気づいた「あ」。

 僕だと見た「あぁ」の後には、嘆くような「あぁ」が続いた。


「本当に赤い…………」

「この目そんなに怖い?」

「もはやお前の存在自体が理解不能すぎて怖い」

「えーと、なんの話をしてたの?」


 僕の存在全否定?


 聞いたらブラウウェルとウィスクはお互いを指差した。


「長老どのにマ・オシェの一画を更地にしたと聞いた」

「ブラウウェルどのにエルフ王との謁見の様子を聞いた」

「あぁ、なるほど。ごめんね」

「「軽い…………」」


 謝ったのに文句を言われてしまった。


「さらには怪物のドラゴンを半殺しにしたとか」

「洞窟のナーガとスライム、トロールを従えたとか」

「次来る時にはドワーフの宝物庫を荒らす宣言を評議員にかましたとか」

「ジッテルライヒで見つけた魔物をエルフの国に送り込んだだとか」

「…………何か駄目だった?」


 二人とも僕にもの言いたげな顔を向けるけれど何も言わない。

 いや、言葉が見つからないように悩ましげに首を横に振る。


「フォーレン、子供がするにしては大変なことをしている自覚がないのよね」

「あ、エウリア。ただいま。お城のほうにいないと思ったらこっちにいたんだね」

「お帰りなさい。可愛い髪型ね。メディサとコボルト? その額飾りはノームね。私も城へ行けば良かった」

「あ、忘れてた。この髪と花ほどける?」

「あら、いいじゃい。力作なのだから今日一日くらいそのままで」


 そう言うと羽根の音が遠ざかる。

 声は聞こえたけど何処にいるかわからなかったな。


 ゴーゴンのエウリアと話してる間にエルフとドワーフの二人は立ち直ったようだ。


「それで、今後動きはどうするんだ? 次はジェルガエか?」


 ブラウウェルが床についてた裾を払って僕の行先を確かめる。


「あ、そうだ。オイセンとエフェンデルラントに動きがって聞いたんだけど、何があるの? ケイスマルクに影響出そう?」

「そのことか。…………安心しろ。影響が出るのは春以降になるだろう」

「また知らない国名が出たな。ケイスマルクとは?」


 どうやら南に住むウィスクは森の北にある国の名前を知らないようだ。


 ちょうど書斎で板と筆がある。

 僕は丸で適当な国を描いて、行ったことのある国の名前を書いた。


「こんな感じ? 大きさ適当だけど」

「位置関係は合ってると思う。それで、オイセンの北にヴァムリとウィースティアという国があるらしい」


 ブラウウェルもまた聞きながら、適当な地図に書き込んでいく。

 ドワーフの国より南の出身だけど、ここでオイセンを相手にしながら学んだんだろう。


「どうやらこのウィースティアという国の中で幻象種や獣人が反乱を起こし、イクサリアという地域に共同体を作ったそうだ」

「ふむ、大きさは適当にしても、ヴァムリという国との国境辺りか。面倒な所じゃな。反乱勢力が一つではないことがこの面積の広さと思えば良いか? 地域一つを丸々占領されたとなれば周辺国にも影響が出よう」

「そういうものなの? けど妖精がいなくなって弱ってるはずなのにどうしてオイセンはまた戦争?」

「どうもこのイクサリアとの間に天然の要害であるらしく、ヴァムリ側には反乱の影響がなかったそうだ。逆にオイセン側とは砦で仕切っている程度の国境。避難民から情報を抜き放題で、イクサリア対策に奔走するウィースティアの動きが丸見えらしい」


 ブラウウェルの説明に、僕は勘違いに気づいた。


「え? オイセンはエフェンデルラントとじゃなくて、ウィースティアって国と戦おうとしてるの?」

「そうだ。元よりオイセンは森周辺は領主たちが割を食って国側と上手く行っていない。森に近いエフェンデルラントに攻めると言っても兵站を出し渋られるだろう」

「ドライアドを襲い、人魚の住む湖を荒らそうとしたとは聞いたが、どうもそれ以上に何か被害を出す結果になったようじゃな」


 ウィスクが何か察したみたいに僕を見る。

 話そうとしたらブラウウェルが首を横に振った。言うなってことみたい。


「お前は説明が下手すぎる。これ以上無駄に心労を増やすな。後で僕が話しておく」

「あ、なるほど」


 納得ー。

 じゃ、別の気になること聞こう。


「オイセンが北に侵攻したらエフェンデルラントどうするの?」

「そこは獣人軍の文官と話した。どうもエフェンデルラントは冬の稼ぎとしてジェルガエで行われる祭に参加する者が出るそうだ。賭け試合などがあるらしい」

「あぁ、それなら知っておるぞ。闘技大会じゃろ。それ向けの武具を毎年マ・オシェからも輸出しておる」


 ジェルガエの祭って闘技大会っていうらしい。

 物騒なお祭そうだ。


 ようはエフェンデルラントがすぐさま軍事行動を起こさない時期を狙って、オイセンは北のウィースティアを攻める。

 そういう動きがあるらしい。


「エフェンデルラントのほうでその隙にオイセンをってことはないの?」

「その辺りはエフェンデルラントのほうが堅実らしい。戦うことで国を保つ国らしいからな。今の状態では勝っても収支が合わない。そこはオイセンのように敗戦の汚名を上書きするなんて名誉欲では動かないようだ」

「ふむ、オイセンという国に侵攻して得られるものより、闘技大会で得られる外貨のほうが安全で得と踏んだんじゃな」

「そっか。だったら金羊毛が故郷と戦わなきゃいけなくなるなんてことにはならないんだね」


 オイセンの侵攻で割を食った当事者である冒険者たち。

 エフェンデルラントでの暮らしは一時的なことだと言っていたけど。

 獣人との戦いに放り込まれたし、オイセンと戦うとなればそこにも放り込まれていたことだろう。


「お前…………そういう気遣いはできるのに、どうして行動する時にもっと、こう…………」


 ブラウウェルがなんだか複雑に感情の籠った声を出す。

 僕が首を傾げるとウィスクも白い髭を撫でてて首を捻った。


「よくわからんが、たぶんこの妖精の守護者の感覚は平民に近いのではないかの? マ・オシェでも子供や怪我人を気遣う様子はあった。その上で、地位というものを理解しておらんのじゃ。だから権力者に対しては他の幻象種と同じく礼を弁えぬような態度を取る」


 そう言われるとそうかも?

 考えてみれば僕の人間性は日本の庶民で、つまり命にかかわるような上下関係がない。


「…………確かに。ちなみに、私の父の職は知ってるか?」

「ブラウウェルの? 会ったこともないし知らない…………って言ってその顔なら、何処かで会ってるんだね。あ、そうか。いなかったのにエルフ王とのこと知ってるんだったら、あそこにいた偉いひとの内の誰かか」


 たぶん正解なのに、二人して顔を押さえて天を仰いでしまう。


「何? 眩しいの? あ、ドワーフは明るいの苦手だったっけ。ウィスクが使うのは一階の窓のない客室のほうが良さそうだね」


 アルフの知識に、ドワーフによってはサングラスかけてるってあるな。

 ロークの奥さんは目薬を使うって言ってたけど、眼鏡あるしサングラスがあっても不思議じゃないか。


「守護者、言っておくがエルフ王の大臣の子息じゃからな?」

「へー」

「もういい。身分や生まれより自衛が一番の力になるここで言ってもむなしいだけだ」


 ブラウウェルがなんか達観してる。


「はーい! 書斎をドワーフが使えるように遮光の布持ってきたよ!」

「他に必要な道具があれば言ってください」


 ラスバブが元気に二メートル以上ある布を巻いた物を運んで来た。

 ガウナも一緒に運ぶ横には、さらに工具を持ったノームのおじいちゃんアングロスもいる。


 書斎の入り口には扉も壁もない。

 だから左右から厚手の布を垂らしてしきりにするようだ

 その上ドワーフ用に出入りの隙間は低く作るようで小さな妖精たちは素早く動き始めた。


「仕事が早いのう」


 満更じゃなさそうなウィスクと一緒に、僕とブラウウェルも手伝う。


「あ、そうだ。二人は大グリフォンの街って知ってる? 山脈に雪が降る前に一度行ったほうがいいって言われたんだけど」


 高い位置に布を固定していたブラウウェルが僕を見下ろして答える。


「ニーオストよりもずっと東で、そちらは凶悪な四足の幻象種が多い。それに文化圏が全く違うと聞く。行くなら準備を整えてからのほうがいいんじゃないか?」


 ブラウウェル的に西側の文化圏の南端、もしくは東端がニーオストという認識のようだ。

 大グリフォンの街は東の文化圏の西端らしい。

 ひと、というかグリフォンの行き来はあるけどエルフは危険だから行かないんだって


「凶悪って言ったらもうグリフォンが群れで住んでる時点で危ないのはわかってるよ。さすがにグリフォンに束になって襲われたら怖いし」

「怖…………いや、ユニコーンがそういうなら相当のことか?」


 突発的な南行きを止めるブラウウェルは首を捻る。

 必要な物品を書き出していたウィスクが、一度手を止めて僕を見た。


「いっそエルフのほうで情報がないと言うのなら実際に様子を見る必要があるじゃろう。そして今までの守護者の起こした騒動を考えれば、逃走の際には雪に閉ざされる山を越えるほうが後々の憂いは少なくて済むのではないか?」

「なるほど」

「なるほどって、え?」


 僕何しに行くと思ってるの?


毎日更新

次回:一番の情報源

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