297話:ドワーフの黄金都市
ワイアームが考える様子を見せると、グライフが僕の前に出て言った。
「俺が先だ」
「む? ふん、なるほどずいぶん派手な飾りを着けていると思えば」
ワイアームはグライフの顔の傷を見ながら嘲笑う。
「これでも出会った当初に比べればユニコーンらしさが現われているが、まだまだ若すぎる。食うには良いのだがな」
「幼くして妖精王の汚染を受けたのなら本性を取り戻せるだけましだろう」
僕を無視してなんで不穏な空気出してるの?
あれ? もしかしてワイアームも僕ともう一戦やる気?
確かに回復してからとは言ったけど、本気にしたの?
「神など碌なもんじゃない。いいか、子供たち。神は黄金都市を滅ぼした」
「ロークさん、それは」
そして離れた所では精霊のことで怒るロークが魔学生に神への批判を教え込もうとするのをエルフ先生に止められている。
「なんだよ、黄金都市って聞こえたぜ!」
「そんなものがあるの!? 何処に!?」
「テオ、落ち着いて。ロークさんは滅ぼしたって言ったわ」
「あれ? そう言えば神が滅ぼしたって」
どうやら魔学生は神に滅ぼされた黄金都市に興味を持ったようだ。
エルフ王が言ってたな。
繁栄して人間と争って、神の白槍というものを落とされて山が吹き飛び海に沈んだって。
「黄金都市のことってドワーフ語り継いでるんだ?」
「なんだ、仔馬。羽虫の知識にあるのか? 詳細は伝わっておらんのだ。知っていることがあるなら聞かせろ」
「ないよ、グライフ。僕はエルフ王から聞いたんだ。神の白槍打ち込まれたって」
するとワイアームが頷くような動きをみせた。
「あぁ、海に沈んだあれか。我も潜ってみたが深すぎて駄目だったな」
潜った? もしかして黄金都市の宝狙いで海に?
それだいぶ昔だろうし今も残ってるもの?
「あ、そうか。ドワーフが泳げないなら水に沈めれば取れないのか」
僕の呟きにワイアームが首を持ち上げた。
するとグライフが不思議な聞き方をする。
「貴様、黄金都市の場所を知っているのか? いや、覚えているのか?」
「忘れるかどうかは怪物次第なのよ。元が妖精だから記憶は持つほうなのよ」
クローテリアがワイアームの届かない空中からそんな答えを落とした。
よくわからないけど、ワイアームは怪物の中でも記憶力がいいってことかな?
「黄金都市って何処にあったの?」
「外ではそんなことも忘却しているのか。この山脈のちょうど海の向こうだ。この東側も余波で地形に影響があったと聞いたことがあるぞ」
そうなんだ。
あ、けど妖精王が現われる前に黄金都市は滅んだんだから、一万年くらい昔の話か。
「…………覚えてるほうがすごいと思うよ」
「ふふん」
あ、調子の乗った。
ワイアームも結局はクローテリアと同じ性格だったりするのかな?
「ねぇ、だったら神の白槍がなんだったのかわかる?」
「「「「ちょ!?」」」」
僕の声にユウェル、ローク、エルフ先生に今度はティーナまでもが声を上げた。
「え、何?」
振り返るとティーナが空咳をして真面目に諭すように言った。
「フォーレン、それは言ってはいけないことです」
「あ、そうなの。じゃ、今のなしで」
「か、軽い」
さっき黄金都市の話をしていたはずのロークがなんだか脱力してる。
「フォーレンさん、その妖精王さまから何も?」
「何も聞かれないし言われてないよ。神についてはずっと知らないふりしてる」
「羽虫めが。だから貴様は適当に知っていそうな相手に雑な話の振り方をしていたのだな、仔馬」
「そう言えば、ブラウウェルに聞いた時にグライフいたっけ」
「ブラウウェルくんに聞いたんですか?」
ユウェルが両手で頬を覆って声を裏返らせる。
「下僕よ、その場には神殿騎士の小娘どももいたのだぞ」
グライフの言葉に何故か溜め息吐かれた。
「うん、なんじゃ? なんの話じゃ?」
白髭のドワーフが戻って来ると不思議そうに周りを眺める。
「神さまについて?」
わ、すっごいしかめっ面。
「あんな理不尽存在崇める人間の気が知れん」
「そこは作ってもらった恩とか、親に対する愛情みたいなものじゃないの?」
「君は、なんとも不思議な感性の持ち主だな」
エルフ先生までそんなことを呟いてる。
「っていうか、神さま嫌い? だったらどうして使徒の魔王にドワーフとエルフは与したの?」
って聞いたら余計にエルフ先生と白髭のドワーフは顔を顰めてしまった。
「これも聞いちゃいけないことだった? あ、与したのとは別の国だからわからない?」
「ふむ、言わねばわからぬまま聞くならば教えるのも一つの道か」
白髭のドワーフが教えてくれる気になったようだ。
「まず、わしらマ・オシェのドワーフは魔王との争いには参加しておらん。ニーオストのエルフもそうじゃ」
「うん、それは聞いた」
「聞いたのに何故今ここで聞いたんじゃ」
「森で魔王の下にいたひとたちに直接聞いたって言ったら微妙な反応されたから」
なんでか白髭のドワーフが遠い目をした。
「ごほん、ならば何が聞きたい?」
「え、うーん。神さまについて直接聞くのは駄目らしいから、魔王に与するドワーフがいた理由かな? 使徒と神さまは別って考え?」
黄金都市のことはここのドワーフも怨んでるっぽいんだから、神を良くは思ってないはずだ。
なのに魔王につく者もいたのは何故なんだろう?
「そこは個々人の求めるものによるのう。ただ言えるのは、一時共闘したところで魔王は神の使徒。心から信頼できる者にはなりえん」
「逆であろう」
ワイアームが口を挟んで来た。
「魔王は神に迫ろうとした。であるから神に思うところのある者たちが加担したのだ」
「何? そのような話は伝わっておらん。どういうことじゃ?」
白髭のドワーフはワイアームからも話を聞く姿勢を持ってるらしい。
するとティーナも話に入って来る。
「魔王は確かにそのような考えを持っていた。けれどそれだけではない。長く体制を維持する側の変わらなさに倦んだ者たちが魔王という新体制に己の未来をかけたのよ」
「神さまの所に行こうとしたことは知ってて従ってたってことだよね。本当に月に行こうとしてたんだ」
「月だとは聞いていない。スヴァルトなら何か知っているかも知れない」
「あ、そうか。そういうことはそっちに聞いたほうが早いね」
アルフに月について聞いてみてもいいかもしれない。
「あ、その話を持ち掛けられたってことはワイアームも神さまに言いたいことでもあるの?」
「ふん。許しのない罰など拷問でしかないからな」
ワイアームは神罰で怪物にされたという。
それはいったいどれだけ昔のことか。
なるほど物申したい者たちは一定数いたんだろう。
「あ、そう言えば」
「今度はなんじゃ? 神の居場所なぞは幻象種に聞いても答えられる者などおらぬぞ。何せ姿を見た者がおらん。だが、その存在を誇示するように天の高みから攻撃をしてきた実績だけはある」
白髭のドワーフは僕が聞きそうなことを先回りして教えてくれた。
うん、まぁ、そっちも気になるけどね。
「ねぇ、もしかしてドワーフの中の賢者?」
聞くと白髭のドワーフは一瞬びっくりしたような顔をする。
その後は複雑そうな雰囲気で笑った。
「おぬし、わしの名前を知っておるか?」
「お城でちょっと呼ばれてるのは聞いたけど、覚えてないや」
ワなんとかって名前だったっけ?
あの時はグライフがうずうずしててあんまり周り気にしてなかったんだよね。
パッと見じゃ、ドワーフの違いわからないし。
「ウィスケンロー・デロ・ローロオウ・ユワリーという。ウィスクで構わん。まぁ、大抵の者はユワリー老などと呼びかけるがな」
「長いね。ウィスクって呼ばせてもらう」
「うむ。さて、確かにわしらドワーフには賢者と呼ばれる秀でた才を持つ者が生まれることがある。そうした者は革新的な造形物を作り歴史に名を残すのじゃ。…………ここで賢者と呼ばれるには技術がなければなんの足しにもならぬ才として捨て置かれる」
「そう? こうして無駄な争いを止めるのは十分な貢献だと思うけどね」
「そうか…………」
ウィスクは一言答えると切り替えるようにティーナのほうを見た。
「少々抵抗されたが捕縛はかなった。ここへ連行すればよいか?」
どうやら無事、流浪の民を捕まえることができたようだ。
毎日更新
次回:危険な好奇心




