286話:ドラゴン用大砲
他視点入り
私の隣でシアナスが頭を抱え、動揺を隠せていない。
それを咎めないのは私も同じだからだ。
「どうしていきなり魔法学園に?」
「何人もの冒険者を返り討ちにしたなんて」
冒険者の中には行方不明もいるらしいと聞いた。
ジッテルライヒに例のユニコーンがいるとヴァーンジーンに相談して調べた結果がこれだ。
冒険者フォーは確かにジッテルライヒにいた。
しかも何故か冒険者組合ではなく魔法学園のほうにいたという。
「…………副団長、魔学生が見つけたという地下の墓地は、もしかして」
「確定でしょうね。この街で誰にも気づかれず長年潜伏していた魔物が、魔学生に倒せる程度の低級だとは思えないわ」
魔法学園が聴取したところ、魔学生は地下に招き入れられ地下の主を倒して脱出したそうだ。
教会側にもそういう事件があったためと協力依頼が来ていた。
そこに冒険者フォーの名前は出てこない。
けれどその時学園内にいたのなら関わってないと思うほうがおかしい。
「長年見つかっていなかった相手を倒して白日の下に晒すなんて、あの子しかできないわ」
「調査ではすでにその主は消えていたそうですが」
「ふふ、森に行ったら会えるかもしれないわよ?」
「冗談になりませんね」
自分で言っていなんだけれど、本当にいそうで困る。
今回のことで犠牲者がいなかったことだけが救いだと思うべきか。
「一度地下へ行きましょう。可能な範囲を浄化する必要があるわ」
「すでにヴァーンジーン司祭が人員を派遣しているはずですが?」
「探索に長けた冒険者や聖騎士を帯同していなかったと言うじゃない。だったら、まだ潜んでいる可能性も捨てきれないわ」
何より自分の目で確かめないと落ち着かないのだ。
ここは本拠であり、それなりの期間滞在している。
なのに魔性を相手にしている私たちが気づかなかったというだけでも恥以外の何ものでもない。
何がしかの手を入れないと姫騎士団の風評に関わる。
「冒険者フォーについては如何しましょう?」
「魔法学園が言う限りではドワーフの国へ行ったのよね。魔学生たちと」
これも意味がわからない。
その魔学生たちはユニコーンであることを知っているのか?
何故魔法学園側が許可したのか?
「もっと人を連れてくるんだったわ」
「私では不足でしょうか?」
「違うわ、シアナス。単純に頭数よ。あのユニコーンさんの性格と行動をわかっていて動ける人間が欲しかっただけ」
単にユニコーンが魔法学園にいたなんて言っても的外れな調査しかしない。
だからと言って無名の冒険者の調査をしても見落としがあるだろう。
「では、追いますか?」
「今さら追ってもドワーフの国に着いた時には森に帰っているでしょうね」
今の状況で森を長く空けるとは思えない。
同時にこの時期にジッテルライヒ、ドワーフの国と動かなければならない理由があるはずだ。
「地下に何か悪魔に関する物があるかもしれないわ」
「妖精王の知識なら遺跡となる以前のことを知っていてもおかしくはない、ということでしょうか?」
「そういうこと。もしかしたら魔王時代に森を襲った悪魔っが活動していたのがこの地かもしれない。こちらは私がやるわ」
シアナスは私の続く言葉に表情を引き締める。
「あなたは引き続きヴァーンジーン司祭の動向を探って」
「…………はい」
返事はするけれど、迷いが隠しきれていない。
思い人を疑うのは辛いだろう。
けれどこれを割り切れなければ今後やっていけない。
ヘイリンペリアムでは信頼する相手こそ疑うべきだとその内教えなければいけない。
「ヴァーンジーン司祭のビーンセイズ行きについては何処まで調べがついたかしら?」
「供を連れず王都へと馬車を仕立てたことはわかりました」
「聖騎士の汚職に関わったことについては?」
「まだこの周囲には伝わっていないようです。ビーンセイズの政情もありジッテルライヒには伝わりにくいのかと」
「周囲にヴァーンジーン司祭が話している様子もないのね?」
「はい。物資を運ぶことと、ビーンセイズの旧知の方を慰労しに行っただけと」
「そして私たちにあのユニコーンさんと出会ったことも話さないと」
ビーンセイズの冒険者組合で、私たちは先に何が起こったかを知ることができた。
そこで魔学生とヴァーンジーンが関わったことも聞いている。
そして聖騎士の汚職をあのユニコーンさんが暴いたことも。
たぶんドワーフの国まで同行したのはこの時の魔学生であり、ビーンセイズの組合長代理の評価は芳しくなかった。
そんな魔学生とユニコーンを一緒に聖騎士にぶつけた狙いなど碌なことではない気がする。
今回のことも、ヴァーンジーンは何処まで本当に知らなかったのやら。
「何か秘匿する理由があるはず。あなたはそのまま調べなさい」
シアナスは気があるからこそヴァーンジーン司祭のことを調べ回っても怪しまれない。
私ならすぐに疑われるでしょうけれど。
「あの、ご本人に問い質すのは…………?」
「あなた、ヴァーンジーン司祭に口で勝てる?」
シアナスはすぐに黙ってしまった。
私もやり合うには情報が足りない。
「焦らないで。急がなければいけない状況ではあるけれど、早ければいいと言うものではないわ」
シアナスを諭すと、私は地下墓地へ行くため動きだした。
僕はドワーフの国で巨体のぶつかり合いを演じることになっている。
「煩わしいことばかりしおって! 貴様も幻象種であるなら妖精の手など借りるな!」
僕は慣れない体の大きさを、妖精の手助けでしのいでいた。
精霊たちが穴を作ったり、ロープで瞬く間に地面に縫い止めたりと色々ワイアームの足止めをしてくれている。
もちろんワイアームは力尽くで足止めを突破するんだけど、一歩ごとにやられると嫌になるもんだ。
「そんな不機嫌な唸り声出すくらいなら大人しくしてくれればいいんだけど?」
「ほざけ!」
唸っていた喉から、ワイアームは火炎とも言えない高熱量のブレスを吐き出す。
クローテリアとは比べ物にならない威力だ。
僕が避けるとドワーフの国を形作る山脈の内側が削れた。
岩の崩落でドワーフたちの悲鳴が上がる。
「これ以上奴らに好きにさせるな! あれの用意だ!」
「対ドラゴン作戦兵器の使用許可が下りていません!」
「そんな悠長なことを言っていられるか! 倉庫の扉を壊してでも持ってこい! 責任はわしが取る!」
なんだかドワーフたちも動きだしたようだ。
っていうかこれ、怪獣が暴れてるようなものだよね。
たぶん今の僕、暗踞の森の木並みに大きい。
「うーん、スピードが出ないなぁ。それにここ動きにくいし」
「瓦礫を適当に蹴るな! そなたが今飛ばした瓦礫が当たろうとした城にはエルフの宝が修復中なのだぞ!」
「エルフのこと心配するの?」
「たわけ! 修復した暁には我が財宝に加えるのだ!」
それ泥棒じゃん。
「もしかして今まで姿隠してたのって、エルフの宝を盗み取るため?」
「あれだけの物を壊すようなエルフには無用の長物。ドワーフになどは分不相応な宝よ」
「君にも相応しくはないと思うけどなぁ。大きさ的に」
「うるさい! 宝を壊すような不届き者が!」
わー、怒ってる。
ドワーフと一緒になってブーイングしてたし、たぶん僕への第一印象最悪なんだろうな。
「うーん、体の大きさに慣れてないのもあって当たらないなぁ」
「愚か者! ユニコーンなど所詮は馬! 角さえ当たらなければどうということもないわ!」
角を刺そうと突進する僕は、避けられて尻尾で首を絞められる。
足元は妖精の妨害で動かせないからだろうけど、やっぱりワイアームは戦い慣れてるな。
「顎の、下だっけ」
僕は魔法で地面を隆起させてあえて宣言した上で狙った。
急所だからこそ、ワイアームは狙いの甘い攻撃も避ける。
その隙に僕は緩んだ拘束から抜け出すことができた。
「く! 魔王には倒されたが仔馬如きにまで舐められるとは!」
「倒されたの? だったらどうして魔王石欲しがってるのさ?」
「あんなものいらぬわ!」
その割に手放しておいて取り返そうとしてるのはなんで?
もしかして魔王石を持ち続けて心とか認知に悪影響が出てるのかな?
「僕は魔王石の影響受けないから問題ないんだ。ちょうだい?」
「やらん!」
答えてからワイアームも渋い顔になる。
どうやら反射的に答えているだけで本心は別らしい。
クローテリアが金目のもの見ると飛びつくのに似てる。
ちょっと同情の目でワイアームを見てしまった。
「えぇい! そんな目で我を見るな!」
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