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265話:経過報告

 魔法学園の寮にある屋根裏部屋。

 魔法陣の描かれた二メートル四方くらいの布には、蝋燭が四方に立てられている。

 僕はそんな魔法陣の上に座り込んでいた。


「これで魔力を通して…………。アルフ、聞こえる?」

「お、フォーレンか。今何処だ?」


 魔法陣が光ると、アルフが魔法陣の中に姿を現す。

 木彫りじゃなくて妖精王の姿で。


「かっこつけだなぁ」

「恰好くらいつけさせろ」


 アルフが封じられたままだと今までどおりとはいかない。

 こうして魔法陣を使ってきちんと通信の手順を踏まないといけなくなってしまった。


「なんか精神繋ぎ直すためには邪魔があるんだよな。封印のせいだけじゃない気がする」

「そう言えばカーネリアンを触った時、僕の心象風景闇になってたよ。でもすぐ意識は取り戻せた」

「なんだそれ? うーん、怒りで我を忘れて精神がまだ乱れてるのか? いっそ今は魔王石集めないほうがいいか?」

「でももうカーネリアンは手に入れたし、このまま予定どおりにしないとグライフが怒りそう」

「そう言えばそうか。それにしても早いな。それで怪我とかないか? また事件に関わったとか」


 なんでわかるんだろう?

 僕はガルーダに襲われたことやクローテリアが狙われたことを話す。


「ほらー。やっぱりフォーレン目立つんだって」


 どうやら文句を言うために振ったらしい。

 その目立つ外見を与えたアルフが何を言ってるんだとは思うけど、今は話を逸らそう。


「それでジッテルライヒについたら魔学生に会ってさ」

「ビーンセイズで一緒にいたっていう?」

「そう。それで今魔法学園にいるんだ。そこから地下に行ったら古い墓地があって…………」


 リッチに出会ったことや魔学生と一緒に脱出したこと、入り直してカーネリアンを手に入れたことも伝えた。


「それでね、その昔の魔術師で魂の神秘について熟知してるとか言うから、僕どうか聞いたんだ」

「いや、フォーレン。そいつ本当に自分で魔物になったならすごい魔術師だぞ。物質体から精神体に自力で変化したとんでもない奴で、本来なら生者の攻撃を無効化するんだ」

「けど普通に角刺さって胸に穴空いてたけど?」

「そりゃ、フォーレンは幻象種の中でも精神体に近い種類だし。俺の加護ついてるからそうそう魔法も呪いも効かないし」


 どうやら僕はあのリッチにとって分の悪い相手だったようだ。


「それでなんて言われたんだ?」

「前にダムピールのヴァシリッサに魂が輝いてるって言われたんだけど、なんか魂の格が違うって言われた」

「おー、俺も魂には触れないからそれ、フォーレンの生まれついた才能だぜ。けど言われてみれば魔法教えりゃなんでも使えるし、加護も与えるだけ受け入れるし、器のでかさは感じてたな」


 え、魔法ってなんでも覚えられないの?

 加護もそんなに受けられないものなの?

 ちょっとアルフ、聞いてないよそんなこと。


「ま、いいや。困ることもないし。それでね、魂を覆う精神に種類があるって言われたんだ。だから精神繋いでる相手がいるって言ったら、僕と繋げるならその相手も相当魂の格が高いんだろうって」

「…………本気で本物じゃねぇか。そんな大魔法使い、魔王との戦いで死に絶えたと思ってたぜ。いや、生きてはないのか?」

「そこはどうでもいいよ。それでさ、人間に見つかったからジッテルライヒから引っ越すって言うんだ。だからエルフの国に行ってくれないかって言ってみた」

「あ、そうか! 魂取り換えられたエルフ!」

「うん。話してみたらそんな術が本当にあるなら見たいって、エルフの国に行くこと了承してくれたんだけど、いきなり行ってもエルフの国には通してもらえないと思って」


 リッチには何か身分を保障する物が欲しいと言われた。

 けどそんなの僕持ってない。


 せめて口利きの証に何かと思ってアルフに相談してみたんだ。


「わかったわかった。シルフィードのツェツィーリアに連絡入れておく」

「うん、お願い。後から知ったら慌てるかも知れないから、ブラウウェルにも言っておいて。あ、けど僕が一度そっちに戻ったほうが早いかな?」


 カーネリアンは予定より早く回収できた。

 プーカの加護があるから迷わないし、ユニコーンの足なら帰りもそうかからない。


「ちょっと戻るまで数日かかるけど、まだグライフたちエルフの国に着いてないよね?」

「戻って陸路でドワーフの国行く気ならやめとけ。やっぱり大道辺りは人間が警戒してるから、今フォーレンが姿見せるのはまずい」


 人間たちはシィグダムの惨劇に怯えて、大道を通るのに武装した一団で通るようになってる。

 下手にすれ違って騒ぎになるのも望まない。


 だから僕はジッテルライヒから海路を使う予定だった。


「それにその数日ってなんだよ?」

「実は、夜中に抜け出して地下に行ってたの魔学生にばれちゃって」


 部屋に戻ったら窓から縄が垂れていた。

 窓から戻るといつもの四人が揃って待っていたのだ。


「それで抜け出したこと秘密にしておくから、協力してほしいって言われだんだ。元から僕を魔法学園に連れて来たのはその目的だったらしいよ」

「滞在求めるって、結局そいつらフォーレンの正体気づいてないのか」


 アルフは面白がる様子で笑う。

 一度威圧して気絶させたし、怖がられるのは嫌だから言うつもりもないけどね。


「二日後に、魔法学園の競技大会って言うのがあるんだって」

「へー、なんだそれ? 魔法の技術でも競うのか?」


 五百年ヒキコモリのアルフは知らないようだ。

 ジッテルライヒは建国三百年、魔法学園は百五十年ほどらしいから知らないのは当たり前か。


「なんか舞台で演目をするみたいな? それで魔法を使って演出するとかなんとか?」

「ふーん、魔王時代の演劇みたいだな」


 僕としては学芸会って言葉が出てくるけどね。


「っていうか魔王時代って戦争の時代かと思ってたけど娯楽多い?」

「おう。勝ち続けたりもしたからな。それに魔王が治めた千年ずっと戦争し続けてなんかいられないだろ」


 魔王が治めた時代の中には繁栄と平和の時代もあったそうだ。

 戦争中でも気晴らしに娯楽は多かったらしい。


「で、魔法学園の生徒じゃないのにフォーレンも参加するのか?」

「うん、学外から助っ人を呼ぶのは人数制限はあるけど可能らしいよ」


 そこら辺は文化交流的な観点とかテオが訳知り顔で言ってた。


 要は幻象種の魔学生が親族を呼んだり、貴族が有名どころを呼んだりするそうだ。

 助っ人は助っ人で競技大会の見どころらしい。


「フォーレン何するんだ?」


 ちょっと楽しそうにアルフが聞く。


 動けないし、こうして顔合わせて喋るのも僕相手だけだからかもしれない。


「妖精を好きに呼べるのは見られてたからそれ」

「お、誰呼ぶつもりだ? 妖精も格が高い奴呼んだほうが派手なことできるぜ」


 得意分野だからか乗り気のようだ。


 けど妖精王の加護をこんなことに使っていいの?

 いいんだろうなぁ。

 アルフのそういう偉ぶらないところ嫌いじゃない。


「実は助っ人に呼んでた冒険者の人が急な仕事で街の外に出たまま戻らないんだって」

「討伐依頼でもしくじったか?」

「それが、妖精にその人のこと聞いてみたら…………クローテリア狙いで僕が倒した冒険者の一人だった」

「あー」


 アレフは苦笑いで額を抑える。


 寮を抜け出して怒られてもあんまり気にしないけど、魔学生が助っ人に困る自体に僕は噛んでいた。

 そうと知ってしまったら罪悪感は生まれる。


「だから少しくらいつき合ってやろうと思ったわけか」

「うん、地下のことで延期案も出たんだけど、助っ人が忙しいひとや遠方から来るひともいてさ。地下に入れもしないから地下への突入準備しつつ学校行事敢行しちゃおうって」

「ははーん、競技大会理由に来た腕利きをそのまま地下突入に突っ込もうって腹だな?」


 なるほど、可能性はなくもない。


 報せた時教師は信じなかったほどだ。

 何せ周辺一の魔法使いの教育施設。

 人間たちの中では魔法が一番発展している都市なんだ。

 なのにその地下には誰にも気づかれないままリッチが縄張りを広げていたんだから信じてもらえないのも当たり前だろう。


「無闇に人間襲ってないし生存者も噂になるくらいにはいたから、下手に突くより準備を整えようって。この魔法学園の隣が教会らしいんだけど、そっちにも応援頼んで人を揃えてる途中なんだって」

「はは、そうこうしてる間に大魔術師は逃げ出してるわけか。俺だったら入って来た人間たちが驚いて走り回るような悪戯残していくのにな」

「アルフ、殺意はないんだろうけど悪意強すぎない?」

「べ、別に悪意があるわけじゃ…………ちょっとした、悪戯心で」


 アルフのちょっとした悪戯が小さな被害で収まった話聞いたことないよ?

 そんなことを考える僕から、アルフは顔を逸らす。


 ま、リッチは地下の大部分を埋めて人間が危険な技術を手に入れられないようにしていくとは言っていた。

 だからたぶん大丈夫だろう。


「来たのよ! ガキどもが!」


 部屋の外からクローテリアの声がした。

 見張りを頼んでいたので、ディートマールたちが僕を呼びに来たことを報せてくれる。


「なんだ、もう時間か」


 アルフは名残り惜しそう呟いた。


「すぐに帰るよ。無事でいてね」

「おう、待ってるぜ。今はそれしかできないからな」


 アルフは逞しい肩を竦めて魔法陣の中へと消えていった。


隔日更新

次回:無意味な監禁

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