表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
269/474

262話:テイク2

 地下とは思えない広大な広間には、金泥の装飾が光り、間を布が飾っている。


 そんな広間の奥には禍々しい存在が悠然と立っていた。

 怪物の爪のような杖を持った骸骨が悠々と両腕を開く。


「よく来たな、客人」


 人間に近い骨格には禍々しい変異が起きており、今まで見て来た骸骨の魔物とは見るからに格が違う。

 言葉には知性が感じられ、声には覇気が宿っていた。


 喋ってるのはジッテルライヒの言葉だから魔学生にもわかる。

 震えあがる魔学生の姿に杖を持った骸骨が満足げに笑った。


「今のさっきでよくそこまで切り替えられたね」

「うるさい!」


 杖を持った骸骨に力いっぱい怒られた。


 けどこれ二回目なんだよね。

 最初に僕が扉を開けた時にはこんな余裕なかったし。


「何しとんじゃー!?」


 って叫んでたし。


 ちょっとクローテリアに魔学生の気を引いてもらってる間に角で鍵壊しただけなのに。


「鍵となる三つのオーブを集めればその鍵は芸術的な技巧を露わにして開くはずだったのにぃ!」


 とかすごく悔しがってたし。


 その上開いたのに気づいた魔学生が来たら。


「やり直しだ! いいか!? 百数えて入って来い!」


 ってやり直しを要求された。


 ここはクローテリア曰く、地下墓地の出口に通じる場所。

 縄張りの主が陣取っているらしいから、僕一人先に入って倒すつもりだったんだけど。


「な、なんだよ、あの骸骨の化け物!?」

「ディートマール、う、後ろ…………」

「ひ!? あいつの後ろにうずくまってるのって」

「そ、そんな。学園の地下に竜がいたの?」


 魔学生が期待どおりに怯えてくれて骸骨は上機嫌だ。


「ふっふっふ。よくぞ気づいた。これこそ我が魔術の集大成。不死竜よ!」

「ねぇ、それって怪物? それとも幻象種?」

「貴様は少しくらい怖がらんか!」

「ほら、クローテリア。竜もやっぱり魔物になるんだよ」

「うぐぐ、誇り高きドラゴンが干物みたいになってるのよ」


 クローテリアもなかなかひどい言いようだ。

 そしてミイラみたいだと思ってたのが僕の中でも干物に改変される。


 干物ドラゴンがクローテリアを見て唸った。


「何? あれもドラゴンだと?」


 注文の多い骸骨が干物の声に驚く。


「クローテリア、今のわかった?」

「口の動きの鈍った年寄りみたいで聞き取れないのよ」


 そんな僕たちのやり取りを見て、いつの間に魔学生たちも落ち着いたみたいだ。


「なんかフォー見てると怖がってるのが馬鹿らしくなるな」

「フォーって何を見たら驚くんだろう? 僕なら大魔法一つで大喜びなのに」

「マルセル、それ違うだろ。けど、確かにそれじゃフォーは驚かないな」

「怖そうに見えて、実はそこまでではないのかもしれないわ」


 あれ、僕のせい?


 喋る骸骨はプルプルしてる。

 子供に甘く見られたせいかな?


「ぐぅぬぬ。この千年、魔王以外でこのような恥辱を覚えたのは初めてだ!」

「え、魔王知ってるの? すごい長生きだね」

「生きてないのよ。骸骨の時点で死んでるのよ。しかもこいつ死ぬ前に自分を魔物化した外法の魔法使いなのよ」

「ふ、小さくともさすがは伝説の生き物か。そのとおり。我こそは永遠の命を手にした崇高なる存在!」

「でも魔王に負けたんでしょ?」

「うるさい!」


 否定しないってことは当たりかぁ。


「でも倒されなかったならすごいね」

「ふ、ふん! この広大な集合墓地という供給源自体を吹き飛ばさねばならなかったからな。魔王と言えど我を封印するのがやっとだったのだ」


 おだてると素直になるのかな?

 安全に脱出したいし、ここは大人しく話を聞いてみよう。


「そうなんだ。その封印ってまだあるの? 自由にしてるみたいに見えるけど。そうそう、魔王は五百年前に倒されたって知ってる? 君は魔王より長生きなんだね」

「ふふん! なにせ不、死! だからな! …………そろそろ経年劣化であの封印の石も意味を失くす頃かとは思うが、まだ地上の何処かにあるのだろうな」


 石ってもしかして魔法学園にあったあの石碑?


「ところで、僕たち来たくて来たわけじゃないんだ。騒がせて悪かったと思うよ。もう大人しく帰るから通してくれない?」


 言った途端、骸骨が笑った気がした。


「喜べ。貴様らを招いたのは我だ」

「わー、碌でもないこと言いそう」

「少し貴様は黙れ!」


 あ、図星だな。


 偉そうに言ったけど要約すると、このリッチみたいな骸骨は暇なんだって。

 そしてこの墓地の力を強化するために人間の恐怖が欲しい。

 だから適当な子供を時々招いておしっこちびるくらい怖がらせるそうだ。


「みみっちいのよ」

「性格悪いのはわかった」

「うるさい! お前たちがおかしいのだ! 今までの子供はスケルトンたちに暗闇を追い回されれば穴という穴から汁を垂れ流して命乞いをしたというのに!」


 それはそれで汚くない?


 魔学生たちもドン引きだ。


「なんか、こいつが操ってた魔物だと思うと怖がって損した気分だぜ」

「もっといっぱい魔法叩き込んでおくんだった」

「馬鹿、こいつに勝てるかどうかはわからないんだから今は言うなよ」

「でもこんな魔物が学園の地下に潜んでるなんて危険よ」


 ミアがもっともなことを言う。


「君、いつからここにいるの?」

「魔王と同じ頃のはずだが時の流れなど、悠久を生きる我にとっては些末なこと」

「覚えてないんだね。ここが火山噴火に巻き込まれる前からいたの?」

「何? ここは火山の噴火で地下に埋まったのか?」


 知らないなら二千年も経ってない死人かぁ。


「おい、何故あからさまにがっかりしたような溜め息を吐くのだ貴様?」

「なんでもいいよ。ともかく僕たち地上に戻りたいんだ。どうしたら通してくれるの?」

「ふん、もはやその豪胆さは覆せまい。ならば、貴様らには通行料を払ってもらおう」


 自分で呼び込んでおいて通行料って、言ってることチンピラと同じじゃないか。


 リッチは骨の指を突きつけた。


「その小さきドラゴンを置いていけ。さすれば他の者どもは無傷で地上へ帰すことを約束しよう」

「嫌なのよ! 逆ならいいのよ!」

「クローテリア、ちょっと黙ろう」


 子供もいるのに何叫んでるの。


「ふっふっふ。では貴様らの命で贖…………いや、よく見るとその剣は、あ、ローブもなかなかでは、ほう? 下に見える頭の飾り、業物と見た。…………迷う」

「こんな悪魔の失敗作とあたしを同列にするななのよ!」


 クローテリアは怒るところそこなの?


 そしてどうやらクローテリアの叫びの意味がわかるらしいリッチが反応する。


「悪魔、だと? その装飾品は悪魔が作ったとでも言うのか?」

「うん、って…………。みんな、つけてる一人にしか影響のない物だから、危険はないから離れないで」


 悪魔を怖がって魔学生が離れてしまった。

 あまり離れられると守れないんだけどなぁ。


「なんでフォー、そんなの持ってんだよ?」

「実は悪魔崇拝者なの?」

「で、でも、教会には普通に出入りしてじゃないか」

「幻象種は悪魔を恐れないと聞いたことがあるわ」


 そっか、悪魔は人間特攻だ。

 人間からすれば恐れるべき相手なんだなぁ。

 僕が知ってる悪魔は気がいいほうだとは思うけど、たぶん人間が出会ったら怖がるよね。


「大丈夫。暇を持て余した悪魔の誘惑はねのけたらくれただけで。僕からこれ奪おうと欲を掻いた人間が痛い目見るために与えられただけだから」

「それを聞くとそうとうたちの悪い物品でしかないのよ」


 クローテリアは今さらだなぁ。

 これよりもたちの悪いだろう魔王石をはめるアルフの冠盗んだくせに。


 そしてなんでリッチはほっとするの?

 肺もないのに。


「なんだ、悪魔を倒した褒賞ではないのか。ふふん、その程度で」

「そう言えば倒したら付きまとわれるようにはなったけど、褒賞とかもらってないなぁ」


 これってアシュトルとペオルの違い?

 それとも悪魔全般に言えることだったら、嫌だなぁ。

 今後悪魔に出会っても倒すのが嫌になりそうだ。


隔日更新

次回:骨は適さない

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ