261話:本物の魔物
闇の中から現れた骸骨は五体。
まるで隊列を組むように等間隔に並んでいる。
僕が照らす灯りの中に入ると、骸骨は突然震え始めた。
「何なになになに!?」
マルセルが怖がって悲鳴を上げる。
すると廊下には走るように灯が点った。
壁には確かにトーチがあったけど、この骸骨が点けたの?
「ねぇ、これって魔法?」
「そ、そうだよ。ジッテルライヒの街になら何処にでもあるよ」
テオが震える声で教えてくれる。
どうやら街灯と同じ魔法らしい。
となるとこの骸骨は魔法が使えることになるなぁ。
「おい、こいつら武装してるぞ!?」
周囲が明るくなったことえディートマールが気づく。
骸骨はそれぞれ手に盾と剣を持っていた。
肉どころか服も着てないのに違和感がある格好だ。
「ほ、本当にここは墓地なの? 私たちが騒いだから怒っているの?」
「うーん、敵意は感じるんだけど生き物な気がしないなぁ。この骸骨って種族はなんになるんだろう?」
人間の死体だったら物質体?
それとも魔王以前だからエルフで幻象種?
「物質体が一番近いのよ。けどこれは本物の魔物なのよ」
「クローテリア、どういうこと?」
「魔法で死体を変質させたありえざる者。本来魔物とは世界に存在しないもののことを言うのよ。人間は勝手に自分たちの生存に不必要なものを呼ぶようになってるだけなのよ」
「なんだか頼りになる感じに物知りだね」
「えっへんなのよ!」
「なんでお前ら呑気に話し込んでんだよ!?」
怒るディートマールを見ると他の三人を庇うように前へ出ていた。
「動かないほうがいいよ。向こうは先制する気はないみたいだから。攻撃したら反撃される」
「どうしてわかるだよ、フォー?」
「あ! もしかして妖精だけじゃなくて幽霊とも話せるの!?」
テオに続いてマルセルがとんでもないことを言う。
あれ? でも幽霊ってなんだろう?
精神体だとしたら妖精や悪魔のように喋れるのかな?
「フォーはお化けをどうにかできるの?」
ミアが現実的に対処できるかどうかを聞いて来た。
「倒すだけなら簡単だよ。魔法で動いてるなら術者がいるんだろうし」
問題はいったい誰がこんな魔物を生み出したか。
生み出したからには目的があるはずだけど、ここは二千年以上前に埋まってるんだよね。
僕たち以前にここを見つけた誰か? それとも埋まる以前の墓守が仕掛けた防衛?
「舐めないほうがいいなのよ。ここはすでにあの魔物を生み出した術者の縄張りなのよ」
「そうだね。だったら素早く行こう」
僕は魔法の光を消して走り出すと、すぐに肉薄する。
廊下は真っ直ぐだから簡単に骸骨の目の前まで来れたんだけど、反応はない。
「鈍い…………それに脆い」
一体の背骨を蹴り折って、ようやく他の四体が攻撃態勢を取った。
けど二体が僕の壁になって後ろの二体は攻撃が届かない位置にいる。
なので僕に近い一体の盾を蹴って後ろの骸骨も巻き込んだ。
前に出ようとした後ろの一体を蹴り砕いて、前にいた骸骨を背後から壁に押しつけるように蹴り潰す。
「うわ、動いてる。けど背骨外せば何もできないんだね。頭潰すのがセオリーかな?」
頭蓋骨を潰してみると、骸骨を覆っていた魔力も抜けた。
どうやら頭の中に魔法を維持する核があったらしい。
「きゃー!? 後ろからも来たわ!」
「よ、よーし! 俺だってやってやるぜ!」
「ぼ、僕だって! フォーができるなら!」
「脆いんだよね? だったら魔法で近寄らなくてもいいんだよね!?」
ミアの悲鳴に男子が奮い立つ。
「っておい、フォー!? 硬いじゃねぇか!」
「全然普通に動くし、鈍くもないよ!?」
「燃えないし、水もすり抜けるしどうすればいいの!?」
「きっと骨を砕かなきゃいけないのよ!」
じりじり近づいてくる骸骨五体に魔学生は苦戦を強いられた。
「薪割りするくらいの力で行けると思うけど」
森にパン窯を作ったコーニッシュに手伝わされたことがある。
薪を窯に入れると中に住んでるサラマンダーが嬉々として巣の材料にしてた。
「薪ならあたしでも楽勝なのよ!」
様子見をしてたクローテリアが勝てるとみて動いた。
魔学生の頭上に飛ぶと、口を開けてブレスを吐きつける。
着弾した一体に巻き込まれてさらに二体が燃え上がった。
白くボロボロになると、骸骨は自重で崩れていく。
「すげー!? やっぱり小さくてもドラゴンだな!」
「今の火力何!? どうやったらその威力になるの!?」
「うわ、こいつは怒らせないようにしよう…………」
「ありがとう、ドラゴンさん!」
魔学生の喝采に気を良くしたクローテリアは、無駄に力を入れたブレスで残り三体も倒してしまう。
テオ一人保身を呟いてたけど、クローテリアが上機嫌になったならいいか。
「うん…………経年で強くなる魔物?」
アルフの知識でようやく骸骨に該当するもの見つけると、不思議な単語が浮かんだ。
魔物だけだと人間がそう呼んでるってくらいしか出てこなかったから探すのに時間がかかった。
出て来たのは死者に関する魔法の項目。
「これお化けじゃないのか?」
「違うよ、ディートマール。魔法で誰かが死体を操っているんだ」
「なーんだ! 幽霊じゃないのか!」
テオはほっとしたみたいだけど、マルセルは逆に顔を顰める。
「いったい誰がこんなひどいことを!」
「本当ね。お墓を荒らすなんてひどいわ」
僕たちも荒らしてるようなものだけどね。
「この魔物は魔物にして時間が経つごとに強くなるらしいけど、これっていつ頃の死体なんだろう?」
「骨になってるならなら一年くらい前じゃないか?」
「ディートマール、服もなくなってるんだからもっと前だよ」
「剣を使っていて、十体以上もいるなら迷い込んだ魔学生ではないでしょうし」
「この剣と盾って、骨董屋で似た物を見たことあるよ。魔王時代の物だ」
あれ、ってことは二千年前じゃない?
それでも五百年は経ってそうってことかな?
「一応、もっと強い魔物がいることを考えて行こうか、あれ?」
今度は勝手にアルフの知識が開いた。
どうやらこの死体を使う魔法で変化するのは物質体に限らないらしい。
「ちょっとクローテリア」
「どうしたのよ?」
明るくなって周りを見たりする魔学生から離れて、僕はクローテリアを呼ぶ。
「アルフの知識に怪物が死に損なってこんな魔物になったってあるんだけど?」
「し、知らないのよ。怪物は死体が残らないはずなのよ」
「でも、ドラゴンの怪物がなった例があるって」
「ドラゴンも複数いるのよ。死に損なったなら心臓が機能不全になったなのよ?」
「わからないけど、クローテリアも本体生きてる状態で死んだらこんな風になったり?」
「い、嫌なのよ!」
ゲームではドラゴンゾンビとかいたけど、実際身近にいるドラゴンがそうなるのは勘弁してほしい。
「あたしを守るのよ!」
「それはいいけど、強そうな骸骨の魔物がいたら一応倒すよ」
「なんでなのよ。逃げるのよ。そしてあたしを守るのよ」
「いや、だって硬い骨がいるなら欲しいじゃないか」
「…………なんでなのよ」
「え、砥石代わりに持って帰ろうかなって」
経年で強くなる魔物だし、二千年前の死体あるかも知れない場所だ。
それくらい経っていれば角を削るのにいい硬さになってるかもしれない。
「たまに本当に気が違ってるんじゃないかと思うことがあるのよ」
「何それ。ひどくない? 魔物から素材を集めるって他の人もやってることでしょ?」
クローテリアに呆れられた。
自分が砥石代わりにされるからって、正気を疑うなんてひどいなぁ。
「骨を砥石? 何を研ぐんだろう? あの剣って骨じゃないと削れないの?」
「いや、硬い骨が欲しいって言ってたじゃないか。何か魔法的な儀式だよ」
「そうよね。砥石にしたいなら硬い石を探すはずよね」
僕の言葉だけ聞こえていた魔学生も変な顔してた。
確かに石でもいいんだけど、二千年前の骨にちょっと期待してもいいじゃないか。
「わかっちゃいたけど、フォーって変なエルフだな」
ディートマールにそんなことを言われる。
もういいよ、それで。
どうせ僕はユニコーンだしね。
隔日更新
次回:テイク2




