255話:魔学生の野望
「フォーが二人!?」
「僕の姿を真似たプーカのパシリカだよ」
驚くディートマールにそう説明すると、パシリカは不服そうな顔をした。
魔学生の反応から見て会ってないんだろうけど、恩返しはどうしたんだろう?
「ビーンセイズで聖騎士に捕まっていたんだよ。君たちに恩返しをすると言ってたんだけど…………」
「妖精の恩返し? 素敵!」
ミアのテンションが目に見えて上がる。
すると余計にパシリカが渋い顔をした。
「…………望みを叶える好機だったのに」
「何が? それ、何か僕が悪いことした?」
パシリカはじっと僕を見てくる。
いや、よく見れば僕の肩に登って来たクローテリアを見ていた。
「そいつなら子供でも殺れると思ったのに」
「妖精なんて碌な奴いないのよ!」
パシリカの無念そうな呟きにクローテリアが妖精全体を罵る。
「パシリカ、やめてね。クローテリアは僕の連れなんだ」
「妖精の守護者が名付けたドラゴンを殺させるわけにはいかないよ」
うん、パシリカは引き下がってくれるようだ。
クローテリアも僕を尻尾で打たないでね。
「とんでもないのよ! あたしを狙うなんて恩返しどころか仇返しなのよ! この人間たちこいつの一突きで死んでたかもしれないのよ」
クローテリアのもっともな指摘に、パシリカも唇を噛む。
「クローテリア、僕を危険人物みたいに言わないでよ」
「こっちはこっちで危険生物の自覚がないから問題なのよ」
クローテリアってそう言う割に僕を怖がらないんだよね。
「とんでもない庇護者がいた。ドラゴン連れたエルフなんて情報を鵜呑みにしたのが、あたいの間違いだった」
不服顔だったパシリカは、どうやら落ち込んでいるようだ。
するとテオとマルセルが勝手なことを言い出した。
「どうせならもっと素材の取れる大きなドラゴンがいいよ」
「僕はドラゴン倒すよりもドラゴンを倒せる魔法を教えてほしいな」
さらにはディートマールも拳を握ってのってくる。
「ドラゴン倒すって言うなら竜殺し剣だろ! ドラゴンを倒すのは自分の力でやるから、俺はそっちのほうが欲しいぜ」
「私はドラゴンを倒すより人魚のお城で人魚のお姫さまとお友達になりたいわ」
子供らしい自由さと素直さなんだろうけど。
だいぶ無茶ぶりだなぁ。
できないパシリカはさらに落ち込んで泣きそうな顔になってる
「えーと、パシリカ」
「何?」
「君の加護のお蔭で無事に森まで帰ることができたんだ。お礼を言いたいと思っていたんだよ。ありがとう。君の力で僕は助かった」
お礼を伝えると、パシリカは花が咲くように笑う。
って、これ僕の顔だった。
「なぁなぁ、伝説の剣ないのかよ? かっこいいやつがさ!」
「かっこいいならやっぱり魔法のほうがいいって! こう一発でドーンと決めてさ!」
「まずどのドラゴンかだよ! ドラゴンは捨てる所がないんだからね!」
「どうしてもドラゴンだと言うなら、私水竜がいいわ。人魚の鱗に勝る鱗なの」
子供たちが勝手に言ってるー。
「騒がしいのよ。ここにあのグリフォンがいたら全員命はないのよ」
「そうだねぇ。妖精と違って吹き飛ばされたら頭打っちゃいそうだし」
グライフがいなくて良かった良かった。
って思ってたらパシリカが寄ってくる。
「どうすればいい?」
「うーん」
座る僕の膝に手を突いて、恩返しの仕方を聞いて来た。
「念のために聞くけどドラゴン退治は無理だよね?」
「この周辺に子供でも倒せるドラゴンなんて…………」
「あたしを見るななのよ!」
「…………いないし」
パシリカの答えに怖い物知らずの魔学生が騒ぐ。
「俺たちをただの子供だと思うなよ! だいたいお前だって子供じゃないか!」
「魔法学園でも指折りの僕の魔法のすごさを知らないからそんなこと言うんだよ!」
「そこをどうにかするのが恩返しじゃないの? 諦めが早いんじゃないの?」
「学園に申請すれば引率の先生、大人の魔法使いの手助けは得られるはずよ?」
巻き込まれる先生が可哀想な気がするよ、ミア。
飛竜のロベロにしてもドワーフの国のドラゴンにしてもグライフが簡単には倒せないくらいだし。
大人の冒険者でも難しいと思うんだけどなぁ。
うん、自信過剰な子供たちは一旦横に置いておこう。
「恩返しは一人ずつじゃないの? 僕には個別に恩返ししてくれたけど」
「だって、一番大変だったから」
どうやら僕が一番働いたから、僕には個人的に望みを聞いたようだ。
そして魔学生たちへの恩返しは叶える望み一つだけ。
「なんだよそれ! 俺たちが誘わなきゃ、フォーはいなかったんだぜ!?」
「そうだよ! 僕たちがヴァーンジーン司祭と知り合いだったからだよ!」
「結果的にフォーに任せることになったけど自分も危険に足を踏み入れたのに!」
「みんな、落ち着いて。妖精は怒ると大変だってエルフ先生が言っていたでしょ」
ミアは一人止める。
害があるから言っているんだろうけど、たぶん不服は不服だと思う。
顔に出てるし。
確かに僕は魔学生に引っ張られた形だけど、領主館には行くつもりだった。
そして僕が近づけばカウィーナが気づいて村のことは聞けたし、あの様子だと僕を知ってたヴァーンジーンは自分から声をかけて来たんじゃないかと思う。
「…………やっぱり守護者がいれば良かっただけだよ」
「パシリカ、しぃ…………」
僕の考えを読み取って同意するパシリカに、僕は指を立てて止めた。
パシリカは恩返しの単位を変える気はないみたいだ。
となると説得すべきは魔学生かな。
「みんな、勘違いしちゃいけないよ。恩返しは強制じゃないんだ」
「けど助けたんだからお礼があってもいいじゃないか」
テオが僕に言い返すと、ディートマールとマルセルも続く。
「俺たちは恩返ししろなんて強制してねぇぜ」
「そうだよ。妖精から言い出したことじゃないか」
ミアを見ると困ったようにしながら仲間に賛同した。
「要望くらい聞いてくれてもとは思うわ」
うーん、通じてないなぁ。
「我儘を自覚してないどころか自分の主張が正しいと思い込んでるのよ」
クローテリアはそれなりの歳なのかわかったように言う。
ちょっと矛先を変えて揺さぶってみようかな。
「じゃ、パシリカはもう魔学生でも倒せるドラゴンの居場所まで導くって恩返しを済ませたから、悩まなくていいと思うよ」
「「「「えー!?」」」」
魔学生が揃って不満の声を上げた。
あまりに自覚のない様子に僕は魔学生に強く言ってしまう。
「あのね、できないことをやれっていうのはもう恩返しじゃないんだ。その上あれがいい、これがいいなんて、恩っていう負い目のある相手に押しつけるのが強制じゃないならなんなの?」
あ、パシリカがそれもそうだって顔しちゃった。
「恩返しが失敗したって判断はパシリカの優しさで、その上仕切り直そうとしてくれてるんだから。欲を掻いてもいいことなんてないよ」
「ユニコーンが言うととんでもない重みがあるのよ」
クローテリアは茶々入れないで。
欲を掻いて痛い目見た側なんだっていう自覚はないの?
「…………確かに恩返しを期待して助けたわけじゃないよ」
反省する様子を見せるマルセルにミアが続いて頷く。
「困っているから助けたのだし、悩むくらいなら恩返ししなくてもいいわ」
「えー、それは勿体ないよ!」
反射的に言ってしまったテオを、ディートマールが頭を押さえて黙らせた。
「やりたくないことやらせるならあの聖騎士たちと同じになるんだぞ」
どうやら通じたみたいで、魔学生は揃って頭を下げた。
「「「「我儘言って、ごめん」」」」
「善人であることはわかってた。だから子供の我儘くらいあたいは聞き流すよ。それに助けられたのは本当だし、恩を返したいのはあたいの願いでもある。プーカとしてそこはちゃんとしておきたいんだ」
「パシリカは焦らなくてもいいんじゃない? 四人とも基本的に自分で成し遂げたいって意欲はあるんだよ。それぞれが望むことを成し遂げる手伝いとして何を与えられるか。そこを見極めたほうがいいと思う」
「わかったよ。様子を見て、四人ともが満足する恩返しを考えてみる」
納得した様子のパシリカは、風を起こして目の前から掻き消える。
「すごい、今のは魔法かしら?」
「今の魔法教えてくれてもいいなぁ」
「そんなのなんの得にもならないよ」
結局なんでも楽しむ魔学生に呆れてると、ディートマールに手を掴まれる。
「後でってことならいつまでもここにいてもしょうがないし、行こうぜ!」
「「「おー」」」
「え? 行くって何処に? ちょっと?」
魔学生に引っ張って行かれる先は、どうやらジッテルライヒの副都だった。
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