表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
237/474

231話:森の外の罠

 森をひたすら走る僕は、スヴァルトの声を聞いた気がした。


「フォーレンくん!? な…………!?」

「ちょっと待…………! どうして止めるの、スヴァルト!?」

「近づくな! 赤だ!」


 ティーナの叫びが後ろへ流れるのも気にせず、僕は走り続ける。


 森を切り裂くような大道へ出た瞬間、引っ張られるような感覚があった。

 何かが干渉したような違和感があるけど気にしてられない。

 僕は大道を西へ走った。

 ただ僕の敵がそちらにいる気がしたから。


「まだ、新しい」


 大道には新しい轍がシィグダムへと続いている。


 敵は悪魔だけど受肉しているから、逃げるための馬車を用意していたのだろうか。

 どうでもいい。そうだ、今はともかく敵を追うだけだ。

 思い決めて走り、僕は森も抜けた。


 木々に覆われた森から出て光の眩しささえも腹立たしい。


「あぁ、ふざけるな…………」


 火にかけられた油のようだ。

 刻一刻と怒りが沸き立って、熱する火よりなお高く火柱を上げる時が迫るような。


 そんな僕の中に知識が開く。

 それはシィグダムの地理についてのアルフの知識。


「そんなの、どうでも…………」


 よかったけど、役立つ知識だった。

 シィグダムはエイアーナのような細長い国土じゃない。

 山も多くなくて走りやすく、大道から続く街道の整備も行き届いているらしい。

 これなら追いつける、そう思った途端足に違和感があった。


 気にせず足に引っかかった物を引き千切る。

 どうやら道に張られた縄で、普通の馬なら転倒するところだ。


「邪魔…………何これ?」


 今度は踏んだ地面が陥没して穴が開いたけど、土が落ち切る前に駆け抜ける。

 森より走りやすい分、勢いがついていて問題なかった。

 次も縄を引き千切ったら、近くの茂みに隠されていたらしい矢が連射される。

 でも僕が走り抜けるほうが早くて、矢は僕の残像を貫いて地に落ちた。


 地面に埋められていた網が行く手を阻むのを突き破って気づく。

 これは僕の足を止めようとする罠だ。


 同時に沸く怒りがさらに高まる。

 だったらもっと早く、罠なんかないも同然に駆け抜けてやる。


「…………嘘だろ? 全部突破しやがった!?」


 魔法も使って速度を上げ、罠を踏んでも罠が発動する時にはもう僕はいない。

 僕の後ろで幾つもの罠が何もない場所で発動した。


 叫び声に上を見ると、僕に影のかからない位置に巨大な鳥が飛んでいる。


「げ…………!?」


 僕は魔法で足元を隆起させ、走るのに合わせて階段状に道を造る。

 隆起させられる最高の位置からから、巨大な鳥目がけて跳んだ。


 それでも角は届かず、僕は威圧を放った。


「ぐぁ!?」


 巨大な鳥がバランスを崩す中、僕が地面に着地すると街道が割れる。


 気にせず走り続けると、巨大な鳥の背に人影が揺れるのを見た。

 狩人のような恰好で、どうやら喋ってたのは背中のこの人らしい。


「くぉー! この距離でそういうことするか?」


 騒ぐ狩人は必死に頭を振って苦痛を堪える様子をみせた。

 狩人が手綱を引いて操縦すると、巨大な鳥も何とか体勢を立て直す。


「まずい! もう追いつきやがった!?」


 狩人の焦りの声に前を見ると、微かに砂埃が見えた。


「見つけた!」

「くそ! ちょっと止まってろ!」


 巨大な鳥から何か落とされると、前方に突然沼が発生した。

 構ってられない僕は、スピード落とさず沼へ駆け込み足が沈む前に踏み出して突き進む。


「沼走りやがった!? あーもー! 面倒臭いな!」


 騒ぐ狩人の声に巨大な鳥が加速して僕の前を行く。

 見た時からなんとなく生き物じゃない気がしていたけど、あの速度はおかしい。


 見据える巨大な鳥は砂煙のほうへ下降する。

 向こうの仲間なら、やっぱり巨大な鳥も狩人も僕の敵なんだ。


「…………あ、れ?」


 視界が一瞬暗転して、何かを投げつけられたような音がした。

 意識が引っ張られる違和感に足が鈍る。

 そんなことに苛立つと視界は戻るけど、今度は耳がおかしくなった。


(これはいったいどうしたことだ?)

(ご、ご主人さま、外の荒れようは何か悪いことが起こったんじゃないですか?)


 グライフの苛立った声にユウェルの声も聞こえる。


 無視しようとする意識と聞こうとする意識がせめぎ合いを起こす。


(羽虫はどうした? このような状況で姿を見せんとは見下げ果てた王だな)

(いくらあなたでもそれ以上の無礼は見過ごせません!)

(妖精王さまが戦われたからこそ私たちは無事なのですよ!)


 グライフを責めるのはスティナとエウリアだ。


(光ってる? これは、妖精王さまが持たせた物よね? 投げつけるなんてひどいわ)


 メディサが何かを拾いつつ、グライフを非難するように言う。


(ふん、うるさく鳴りやまなかったからな)

(でも森に差し掛かったら突然音が止んだんです。それで、あの、私教え子に会うためご主人さまに同行させてもらったんですが、ブラウウェルくんは何処に?)


 ユウェルが不安そうに聞くと、ゴーゴンたちが声を和らげた。


(ここにはいませんが無事です)

(森が荒れていて来られないだけよ)

(館を守るために少し怪我はしたけれどね)

(いいから説明をしろ。何があった? 何故悪魔の大公が見るからに弱り切っている?)

(あらぁ、ばれちゃった?)


 女姿のアシュトルの声は胸に穴が開いていたとは思えない普段どおりの響きだ。


(情けない話だけど、私負けてしまったのよ)

(ほう? 相手は何者だ?)

(争いを広めることを喜びとする悪魔ライレフ)


 受肉した悪魔の侵入とアルフの対応、そして鈍色の卵のことを説明され、グライフは黙って聞く。


(この金属塊、狙ったように妖精王を包んだの。封印の類かと思ったけど、ここは妖精王の力に溢れているから本人を選んで狙うのは難しいはずなのよね)

(そう言えば、光の柱が立っているかのようでしたが何かの結界ですか? すごく簡単には入れたんですが?)

(エルフのお嬢さん、それはそのグリフォンが妖精王の子機を持っていたからでしょうね)

(あぁ、あのうるさい木彫りか)

(あれがなかったら力尽くじゃ入れなかったはずよ。侵入できたとしても弱体化させられて魔法が使えなくさせられていたでしょうね)

(ふん。それだけのものを用意した上で負けたのであれば、貴様らの備えが足りなかったと言う他あるまい)


 厳しいグライフにアシュトルは否定せず笑って流す。


(獣人との戦争を糧に呼び出すにしては上等すぎるわ。ライレフは選び抜いた生贄を求めるもの。あとは相性かしら?)

(呼び出した者はよほどその悪魔と気が合ったと?)

(でしょうね。機嫌が良かったわ。あ、言っておくけれど私より武闘派なんだから正面から戦い挑んじゃ駄目よ。あいつは軍団引きはがさないと個人戦になんて乗ってくれないんだから)


 アシュトルの注意にグライフが失笑した。


(あの、妖精王さまが封印されているのに、結界が消えないのは何故でしょう?)


 ユウェルの質問にアシュトルは推測を立てる。


(自分がいなくなっても結界を維持する用意を妖精王がしていたとも考えられるけど)

(あれがそんな気回しをするか。封印されていてもこの中にいる限りは結界との繋がりまでは遮断されていないのだろう。…………なんだ、勿体ぶるな)

(さっきから探っているけど、この金属塊の中に妖精王の存在を確認できないのよ)

(え…………え、それって…………)


 アシュトルの言葉にユウェルが口ごもる。

 けれどグライフは端的に最も高い可能性を口にした。


(死んだか)

(まだ断言はできないわ。実際こうして結界は生きているんだもの)

(ふん、まぁいい。…………それでこれはどうした?)


 グライフがきり上げるように言うと、歩く爪の音が聞こえる。

 みんなが押し黙る中、ユウェルだけがグライフの示すものを口にした。


(…………蹄? フォーレンさん?)

(仔馬はどうした?)

(妖精王さまの異変を察して飛び込んで来たわ。でも遅かった。悪魔もすでに退いた後で…………目を真っ赤にして飛び出して行ったわ)


 そう説明するメディサは、ダークエルフが撤退する悪魔を追ったとも捕捉する。


(すぐにダークエルフを呼び戻せ。赤目のユニコーンが追う中、視界に入れば命はないぞ。相手が東の人間たちであるなら、これで襲撃が終わりではない。すぐに戦える者をここに集めろ。この結界が生きている内は守りに使えるのだろう?)


 グライフの采配に動く音がすると、そこに騒がしい声がやって来た。


(大変だー! 大変だったら大変だー! って、グリフォンこら! 吹き飛ばそうとするな! おいらは報せを持ってきたんだ! まずは聞いてからにしろよ!)

(うるさい)

(だから大変なんだって! 大道の東から大量の人間たちがやって来てるんだよ!)


 ボリスは仔馬の館にあるジオラマが侵入者を告げたことを報せた。

 悪魔が主力を城に移動させたため、館は一部損壊があるもののほぼ無事だという。


(獣人でもいい。人間に気づかれず状況を視察できる者を向かわせろ)

(ならばわしが行こう。戦いは不向きだが、調べるのは得意だ)


 辛そうな声だけどペオルがグライフの指示に従って動きだす。


(全く、いくら俺でもこの状況、さすがに面白いとは言えんぞ)


 グライフの呟きが遠いと思った途端、音が途切れた。


毎日更新

次回:悪魔の使い魔

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ