表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
230/474

224話:遠回り

 帰りの心配がなくなった僕は、エイアーナを人化して帰ることにした。

 見通しの悪い道をたぶん森があるだろう東に向かって適当に歩いていると、何処かから野太い悲鳴が聞こえる。


「今度は何したの?」


 周りを飛び回る妖精に聞けば、楽しそうに答えた。


「泥で滑ったの!」

「馬糞を投げたぜ!」

「傷んだ木の実が口に入ったよ!」


 うん、僕に悪さしようとした人間の末路が悲惨だ。

 妖精たちに見つかって何をする前に悪戯に遭うんだけど、肉体より精神に響く攻撃をされてる気がする。


「やっぱりこの国、治安悪くなってるんだね」


 王都の近くでも戦場跡を荒らす人間がいた。

 森に近いこの辺りにも盗人が横行しているそうだ。


「森に逃がした幻象種たち大丈夫かな?」


 戦闘のプロである聖騎士が相手だから捕まったはずなんだけど。

 捕まえてる間に弱らせていたし、回復も待たずに送り出したからちょっと心配だ。


(アルフー、そっちに幻象種たち着いてる?)

(あ、何々? って、フォーレン? なんか知らない加護ついてないか?)

(今さら? 三日前にプーカに加護貰ったんだよ)

(あぁ、捕まってる中にプーカもいたのか)


 どうやらあの救出劇は覗き見してなかったらしい。

 母角を手に入れる前後は見てなかったってことかな?


 アルフからはそわそわした感情が伝わってくる。

 これはエルフの国で感じたのと同じ雰囲気だ。


(そっち何かあった? 避難者はどうしてる?)

(捕まってた奴らは無事に着いたぜ。帰る所がある奴らはちゃんと帰した。けど、ビーンセイズに住んでたヴィーヴルとか、エイアーナの海辺にいたハルピュイアは帰るの怖いって残ってる)


 ヴィーヴルはビーンセイズで住処が見つかり魔物として討伐されそうになったそうだ。

 ハルピュイアもエイアーナの騒乱で住処を変えようと移動しているところを捕まったらしい。


(もしかして館に居るの?)

(おう。あとカーバンクルは何処でもいいって言うから森の何処かにいると思うし、キマイラはケルベロス見に行ってから帰ってきてないからどうなっただろうな)


 ちょっと!?

 次にケルベロスの所行ったら骨が落ちてるとか嫌だよ…………。


(館に残ってるヴィーヴルとハルピュイアは大丈夫? グライフに襲われたりしてない?)

(あ、それな。大丈夫だぜ。あいつ今いないから)

(何処行ったの!?)


 そんな気軽にっていうか、グライフの怪我どうしたの?

 獣人の所に喧嘩売りに行ってるとかじゃないよね?


(いろいろ心配してるみたいだけど、ちゃんと理由あるから)

(本当?)

(南に渡るって幻象種たちと一緒にエルフの国行っただけだって)

(駄目じゃん!)


 僕の突っ込みにアルフは不満げだ。

 もしかしてアルフ、グライフと最初に出会った時散々追いかけ回されたの忘れてるのかな?


(フォーレンが持ってるのと同じ木彫りやったぜ。フォーレンみたいに連絡はできないけど、何かあったらわかるようになってる)

(何かって例えば?)

(うーん、あいつか俺が死にかけたら警報鳴るとか?)

(極端な上に鳴った時点で駄目だよ!?)


 心配する僕とは違い、アルフは何処までも楽観的だった。


 一緒の幻象種大丈夫かな?

 グライフ単体で迎えることになるエルフの国も心配だな。

 騒ぎにならなきゃいいけど、たぶんまた面白半分に何かするんだろうなぁ。


(あとウーリとモッペルも新境地開拓とか言ってついて行ったぜ)

(妖精の行商って南にもいるの?)

(幻象種に追い駆け回されるからほぼいないな。今回はあのグリフォンいるからだろう)


 つまり猫と犬の妖精であるウーリとモッペルは、グライフの威を借る形で身の安全を確保するつもりだと?

 こうなるとなんでグライフ南に行ったんだろう?


(スヴァルトやブラウウェルは一緒?)

(ダークエルフは獣人の冬ごもりの手伝いだな。毛皮と加工肉を交換するために来年の分の仕込みに忙しい。ブラウウェルはオイセンの動きが変わったからそっちにつきっきりだぜ)


 エフェンデルラントの撤退はオイセンも知る所。

 獣人相手に勝ちを拾えなかったエフェンデルラントが弱ったオイセンを襲う可能性がある。

 そのためオイセンは妖精がいない現状のまずさに根を上げ、折れ始めたそうだ。


 だから森を出てエルフの国に向かったのはグライフだけらしい。


(…………もしかしてグライフのこと厄介払いした?)

(出て行けって言って素直に話聞く奴じゃないだろ。あいつがうるさがって森離れたんだよ)


 えー?

 グライフが嫌がるような騒ぎが別に起こってるってことじゃん。


(大丈夫なの、アルフ?)

(平気平気。また城のことでもめてるだけだから)

(今度は誰? ルイユは冬ごもりの支度でそんなに来られないはずでしょ)

(いやー、それがさ。冬ごもりとかの役に立たない猫科どもがルイユ小脇に抱えてくるんだよ)

(え?)


 アルフから送られてくるイメージがある。

 こめかみに指を当てて集中してみると、獣王が三将軍の豹を従えてルイユを小脇に抱えてた。


 何してるの?


(で、館作った時みたいにティーナとルイユとアングロスが意見合わなくて)


 ダークエルフに獣人、さらには妖精まで。

 冬ごもりの手伝いしてるんじゃなかったの、ダークエルフ?


(面白がって悪魔が自分たちを奉る場所作れとか、魔女は道の整備をしてほしいとかでまた意見が割れるしよ)

(館の時にもそんな風だったの? もう基礎工事も終わってるんだから追加はなしじゃなきゃ)


 って言ったらそれをすぐにその場で言うらしいアルフ。

 もしかして今目の前で絶賛討論中なの?


 僕と呑気に話してるってことは、アルフただ見てるだけ?

 取りまとめしようよ、妖精王なんだから。


(フォーレン、ロミーがアーディを説得してくれって)

(そっちも何か問題あるの?)


 どうやら城の周囲に濠を造ることに関係しているそうだ。

 自由な行き来のため湖に繋げたいロミーと、汚れを嫌がって無闇に繋げることを反対するアーディ、

 さらには沼に住むような妖精が濠に流れがないなら住みつきたいと要望を出しているんだとか。


(で、防御を考えて濠を独立させるべきって主張なルイユと、美観のためにきれいな水を流したほうがいいって言うティーナ、濠の水を操作する大仕掛け作りたいアングロスと)

(一旦保留で! そんなのすぐには決められないよ。お城のほうはどうなってるの?)

(そっちは塔の数とか盛り土の高さとかで喧嘩してる)


 僕は思わず道端で額を押さえて立ち止まった。


 話が広がりすぎて収拾がつかなくなってる。

 逆にこんな状況でよく館は僕たちが帰ってくるまでに形だけはできたね。


(話し合って決めた形からの変更はなしで! どうしても変更が必要ならできた後! あれだよ、一度作ってそれから少しずつ良くしていく方法を考えよう!)

(お、いいなその言葉。よし)


 アルフはまたその場で伝えてるみたいで、すごく不安だ。

 良く言えば反応が早いんだけど、悪く言うと考えなしなんだよね。


(僕急いで戻ったろうかな)


 ユニコーンで駆ければパシリカの加護もあってすぐ帰れるだろう。


(えー? どうせならそれなりにできてから戻れよ。あ、あのグリフォンと同じくらいにさ。で、驚いてくれ)

(待って。もう帰るのに何処で時間潰せって?)

(え、うーん? あ、そうだ! エイアーナの姫騎士に会いに行ったらどうだ? 実はマーリエたち帰って来たんだが、どうも会えなかったらしいんだよ)

(そうなの?)


 どうやらマーリエが報告書を配達に行った時、ランシェリスたちは留守だったそうだ。

 エイアーナはその時、今度は南の国から侵攻を受けていたとか。


(でさ、ちょっと様子窺ったら、どうも南のシィグダムは大道で繋がったアイベルクスと頻繁に使者往来させてんだよ)


 森を貫く大道だから、そこの情報はアルフの手の内なんだろう。


(エフェンデルラントも昨日から森になんか人間入れてるし)

(また戦争?)

(違う違う。どうも俺とはことを構えないってことを言いながら歩いてる)


 ようやくなんだけど、妖精王の居場所を知らないから森に入っても身の危険を感じながらも声を上げるしかないようだ。

 結界を無理に破って入ったせいで森の浅いところには魔法使いたちがごろごろ倒れてるんだって。


(うーん、ランシェリスにはそういうことも伝えたほうがいいかな?)

(だろ? せめて城の居館と城門ができるまでは遠回りしてくれよ)


 主要な建物ができるまで待ってほしいらしい。

 けどそんなに時間かけてたら、また問題が起きそうな予感しかしないんだけど。


(ほら、母角のことあのシアナスって見習いも気にしてたしさ)

(…………それもそうだね。でも、ちゃんと警戒もしててよ?)

(あったりまえだって!)


 アルフに乗せられたような気がしないでもないけど、確かに行く必要はありそうだ。

 ビーンセイズで聖騎士捕まったし、領主の館燃やしたし。

 これ、ちゃんと話さないと魔物として追われるんじゃない?


 僕は怒られる覚悟で、エイアーナ王都まで遠回りすることにした。


毎日更新

次回:夢か記憶か

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ