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211話:仔馬の行方

 立ち話もなんだからと、一度は門前払いされた領主の館へ招き入れられた。

 と言ってもシーリオ一家に提供された離れだけど。


「本館には領主の大事な収集部屋があるので、僕でも無闇に近づけないんです」


 居候のシーリオはそう言った。


「なんだ、結局ユニコーンの角は見られないのかよ」

「運が向いて来たと思ったのにな」


 素直すぎるディートマールとテオに、幼いシーリオは苦笑する。


「それより流行り病のほうだよ。酷い話じゃないか」

「そうよ。万病薬さえあれば助かる人たちがいるのに」


 同情的なのはマルセルとミアで、そちらにもシーリオは苦笑を向けるにとどめた。

 流れに乗って僕も気になることを聞いておこう。


「ねぇ、シーリオ。ユニコーン狩りの乙女ってどういうこと?」

「ユニコーンが乙女に膝を屈することは?」

「知ってるよ。よく、知ってる」

「ユニコーン狩りをする時には乙女が必要になるので、そう呼ばれると同時に、ユニコーン狩りの乙女は最初に犠牲となる者のことです」


 やっぱり。

 つまり母馬の足を折らせた少女がユニコーン狩りの乙女だ。

 あの子は自分の棺を用意していた。最初から死ぬ覚悟で来ていたのは間違いなかった。


「僕がその村に行った時にはもう死んだ後でした。その娘さんのおかげでユニコーンの角が手に入ったというのに、誰も、救われず…………」


 シーリオは悔しそうに漏らす。

 それだけ家族に思い入れがあるのと、理不尽に対して収まらない思いがあるんだろう。


「ねぇ、その乙女の名前は?」

「フォーレン」


 カウィーナが心配そうに声をかけてくる。

 ユニコーンの角が誰の者か知ってるからこそだろう。


 別に敵討ちなんて考えてない。

 知りたいだけだから何もしないって。


「確か、カーラと」


 ようやく知った名前を僕は胸の内で繰り返す。

 僕が初めてこの世界で出会った人間、いや認識した人間って言うほうが正しいのかな。

 それがカーラだ。


「あなた方は何故ユニコーンの角を?」

「俺たちはな」


 シーリオと魔学生が話す間に、僕は話しに入らず考える。


「…………エイアーナのことを聞かせてくれる?」

「はい、フォーレン」


 カウィーナから話を聞くことにした。


 カウィーナは森からシェーリエ姫騎士団が戻ってからを教えてくれた。

 ビーンセイズ軍をエイアーナから追い出し、新王が即位。

 王都の復興には僕がお礼として上げたお酒が活用されたそうだ。


「シィグダム?」

「はい、南隣のその国が街を接収し、問題となりました」

「接収って?」

「争いがなかったのです。姫騎士団は事前にシィグダム側と街の者で話がついていたのだろうと」


 新王が立ったけど信用はなし。

 どころか前の王が悪政を敷いてそこからの革命に陥った国だ。

 ビーンセイズの侵攻にも耐えきれなかった中、新しい王が立ったところで不安は拭えない。


「負けた王家に従うよりも、安定したシィグダム王国の庇護下へと考えるのは決して不自然なことではないでしょう」

「エイアーナはまた戦争になるの?」

「いえ、その体力はもはやあの国にはありません。ですからまずはことを問い正す使者を送ったのです」


 その使者こそカウィーナが憑く家の最後の一人だったそうだ。


「え? マーリエたちと行き違いになったの?」

「はい。姫騎士団は外部勢力ですので、シィグダムも手出しはせず。遺体の回収のために南へと向かってくださいました」


 使者の死は街からの公表を前にカウィーナの嘆きの声で知ったそうだ。

 ランシェリスはアルフの軟膏を使ってカウィーナに確認を取ったらしい。

 そして武装して遺体の回収に向かい、街からのエイアーナ王家への問責という形式での離縁状を預かって戻った。


「今も使者と共に向かった従卒の遺体を回収しに。私と対話ができる従者がいたのですが、その時にはおらず。森の魔女を通じて姫騎士団には暇乞いをいたしました」

「あ、ブランカだね。森にいたんだ。そのブランカも今はエイアーナに戻ってるんだけど」

「まぁ、私はどうも間が悪いようです。実はフォーレンと妖精王さまにお会いした時も、訃報を告げるべき家族と行き違いになってしまって」

「そうなの?」

「はい。ビーンセイズの王都に腰を据えるということはわかっていたので、そこで報せられればいいと己に言い聞かせている時に、フォーレンと」


 どうやらカウィーナが訃報を報せに行った相手はその時移動中…………。


 あれ?

 それってシーリオの家族なんだよね?

 僕とカウィーナが出会ったのはエイアーナだ。

 その時シーリオもエイアーナにいてビーンセイズへ向かっていた?


「フォーレン、どうかこの子を死より遠ざけてください。この血筋の者は己の運命と定めたことには不退転なのです。まだ幼いのにこの子にはその血が濃く表れている」

「わかったよ。君から受けた加護にはずいぶんと助けられているんだ。お礼がしたいと思っていたし、他人ごとじゃないからね」

「ありがとうございます」


 カウィーナとの話が決まる。

 そして静かなことに気づいた。

 見れば魔学生もシーリオも僕を見てる。


「どうしたの?」

「どうしたじゃねぇよ。怖ぇよ」

「ひたすら独り言喋り続けてるみたいだ」

「本当に妖精なんだよね? お化けじゃないよね?」

「戦争って聞こえたわ」


 魔学生がそれぞれ言う間、シーリオも不安そうだ。


「魔学生の方たちは勉学のためにいらしたと聞きました。この国に来たばかりの冒険者であるあなたは、何故ユニコーンの角を求めるのですか?」


 そう言えば魔学生には何も言ってなかった。

 本人たちが興味本位だから聞かれなかったし。


「それにバンシーと以前からお知り合いなんですか?」

「数カ月前にエイアーナにいた時に知り合ったんだ。ユニコーンの角はあると聞いたから見に来ただけだよ」


 シーリオはちょっとほっとする。

 万病薬を求めるなら苦しむ誰かがいるからだろう。


「君はユニコーンの角を見たことがある?」

「はい。居候をさせてもらうことになった日に、一度だけ収集部屋を自慢されました」

「ほんとか!? どんなだった!? やっぱ強そう!?」


 ディートマールが食いつくのをミアが窘める。


「ディートマール、大きな声を上げたら驚いてしまうわ」

「それにユニコーンの角って言ったら美しさでしょ」


 テオが知った風に顎を上げた。

 そんな様子にマルセルはちょっと嫌そうに呟く。


「憤怒の化身と呼ばれる魔物の角なんだから怖いんじゃない?」

「いいえ、そんなことはないですよ。真っ直ぐでくすみのない白い角は確かに美しいです。それに石をも削る硬度を持つそうなので強いでしょう」


 シーリオはたぶん魔学生より年下なのに、しっかり気遣いもできている。


 なんか僕の角がむずむずする。

 そんな興味津々な顔してないでよ。

 隠してることに罪悪感覚えるなぁ。


「ただ、美しさで言えば、きっと生きたユニコーンが携えてこそだと思います」

「生きたユニコーンなんて危なくて見てる場合じゃないよ」


 マルセルが大袈裟に言うと、他の三人は不思議そうにシーリオを見る。

 ミアが代表して質問した。


「シーリオくん、その言い方だとまるで生きたユニコーンを見たことがあるように聞こえるわ」

「ないって。そんなの見て生きてられるわけがない」


 テオが否定するとシーリオは苦笑して肯定した。


「実はあるんです。それも間近に」

「ほんとかよ!? すっげーな!」


 ディートマールが大声を上げる中、僕には閃くものがあった。


「あ!?」

「フォーどうした?」

「な、なんでもないよ」


 慌ててディートマールに誤魔化し、僕はカウィーナを見る。


 頷かれて、やっぱりと確信した。

 この子の見たユニコーンって僕だ!


「エイアーナが攻め落とされ、ビーンセイズの親類を頼って移動中のことでした。馬車を降りて休憩していた時、妹と迷子になったんです。そこで、仔馬のユニコーンに出会いました」

「仔馬、なんだ、仔馬かぁ」

「怖がりのマルセルなら叫んで逃げるな」

「テオ、そういうこと言っちゃ駄目よ」

「俺だったら捕まえて角取るぜ!」


 やめてディートマール。

 僕だと知る由もないんだけど、そういうこと言わないでほしい。


毎日更新

次回:墓参り

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