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203話:誘う髪型

 僕は姫騎士二人と情報収集のため人間の町へやって来た。

 ユニコーン狩りで母馬が殺された場所も近いここなら、何か手がかりがあるだろう。


 僕たちは馬を預けて町を歩く。


「ここってもしかして、エフェンデルラントより栄えてる?」

「はい。エイアーナは文化の発信地と言われたこともある裕福な国でした。エフェンデルラントは貧しい国の部類です」

「港があることと、山がちで攻めにくいこと。街が一カ所で長く存続することが要因だって、ランシェリスさまがおっしゃってたよ」


 僕がアルフと出会った頃にはほぼ滅んでた国だ。

 今もギリギリのはずなんだけど、それでも町には高い建物や広い市がある。


 エフェンデルラントでは王都でしか見てないのに、国境の町にすぎないここには当たり前にあった。


「そう言えば、エイアーナは街なんかの地域が強いって聞いたよ」

「そのとおりです。今でこそ王国ですが、二百年ほど前までは共和国。街から代表者を出して合議し、国を運営していました」

「ところが街同士の争いが激化してエイアーナ全体が衰退したんだって。それで一番強い王さまが全てを決めるよう国を変えたそうなの」


 姫騎士って物知りだなぁ。

 旅して回るせいかな?


「王都では新たな王が立ちましたが、旗幟を鮮明にしない街があり、内政はまだまだ苦しい状態です」


 ランシェリスが僕たちを追う間、シアナスは王都でこの国の推移を見ていた。


「今は隣国のビーンセイズも傾いたためなんとか国土を保てていますが、まだ問題は南にもあり…………」

「ねぇ、そういう話ここでしていいもの? なんだか視線が痛いんだけど」


 真面目に話してるところ悪いんだけど、すごく視線が刺さるんだよね。

 ただ歩いてるだけなのにすごく見られてる。


「まぁ、顔でしょうね」

「自分で言うの、シアナス?」

「姫騎士団は魔物を誘うために容姿の美しさも審査基準ですから」

「でもその分美人な人は危険な先頭を務めることになるから、美貌と戦闘技能の両立を求められるの」


 なるほど。ブランカの説明でわかったけど、シアナスが誇らしげなのはそれか。

 つまり先頭を任される可能性があることを実力として誇ってるんだ。


「恰好が目立つからかと思ってたよ」


 だって白を基調にした姫騎士は普通に目立つ。

 そんな二人の横を、頭からフードを被った僕が歩いてるんだから怪しさが半端ない。


「私たちは目立つのも役目ですから」

「そうなの? もしかしてその白い服目立つため? 宗教的な拘りかと思ってたよ」

「それもあるけど、目立つ分魔物の注意を引きやすいからだって聞いてるよ」

「もしかして髪型が独特なのも?」

「四足の…………獣には、こうした良く揺れる髪型が効果的ですから」


 気にせず四足の幻象種って言っていいよ。

 狙われてる自覚はあるから。


 けどあのランシェリスのツインドリルって、ちゃんと意味があったんだ。

 ローズもすごく長く髪伸ばしてるし、戦いにくそうだなって思ってたんだよね。

 自分から狙われに行ってるからあれなんだなぁ。


「改めて姫騎士の心の強さに感動しちゃうな」

「…………そ、そうですか」

「あ、シアナス先輩照れてます?」


 からかうブランカはシアナスに頬っぺたを摘ままれる。


 僕たちは視線を無視して、買い物をしながら情報収集をした。

 そして買ったお昼を食べつつ、集めた情報の整理をする。


「町は静穏そのものですね。戦争の被害もユニコーンの被害も受けてはいないようです」

「すでに狩られた後だから被害も何もないんだろうけどね」

「狩られたのはお母さんなんでしょ? フォーレン、お父さんがこの近くにいるかも知れないよ。そっちを捜す気はないの?」

「あ、そうか」


 ブランカに言われて納得しちゃったけど、そう言えばなんか聞いたな?


「けど、ケルピーに聞いた限り、母馬じゃなきゃユニコーンは二頭一緒にいても喧嘩にしかならないんだって。僕が捜しても碌なことにならないと思うよ」


 馬の幻象種はそんなものだとケルピーは言っていた。

 たまに群れを作る馬の幻象種もいるけど、ユニコーンは単体が基本。

 繁殖期でなければ出会って即バトル。

 縄張り意識に男女は関係ないそうだ。


「母馬が狩られた後、仔馬が捜されてたのは驚いたけど」

「見つからなくて良かったね」

「周辺の人々のためにも、良かったです」


 シアナスの言いたいことはわかるけど、僕は無闇に襲ったりはしないって。

 それに母馬に殺されてすぐアルフと出会っているから他の人間に会う余地ないし。

 その時点で僕は加護を受けてたから本能も抑えられていたんだと思う。


 人間に勝る魔法使いのアルフと、小さな体を補って移動できる僕。

 こういうの割れ鍋に綴じ蓋って言うのかな?

 出会えて良かったよね、お互いに。


「私、仔馬はグリフォンに食べられたと思っている人の多さに驚いたなぁ」

「グライフ実際近くにいたしね」


 ブランカが不安そうに空を見上げる。

 さすがに今はいないよ。


「問題は、食べ残した角を探す冒険者が複数いたことですね」

「それだけ依頼出してる人がいるってことなんだよね?」

「そうとも限らないよ、フォーレン。冒険者は一攫千金に目がないから」


 そう言われると金羊毛は確かにそんな感じだ。

 駄目元で捜す人もいるんだろう。


「そういう人たちが母馬の角を追わないのは、やっぱり宗教関係に手出しできないから?」

「それもあるでしょうが、まず他国の者ですから」

「運ばれて行くのを見るために見物人が出てたって言ってたね」


 ユニコーン狩りの成功は、周辺で大ニュースになったそうだ。

 何者がやったのかは聞けばすぐわかった。


「ビーンセイズのレミード教区信徒一同」


 ビーンセイズでヴァシリッサを見た時、僕は母馬を狩った人間と似た恰好だと思った。

 情報を集めてみれば、実際に母馬を狩ったのは宗教者。


「そのレミード教区で病が流行ったそうですね」

「教区で志願者を募って、身内に流行り病の者を抱えた信徒が集まったとか」


 ユニコーンの角は彼らにとって身内を救える頼みの綱だ。

 尋常な覚悟ではなかっただろう。

 実際見た人からも、恰好はただの農民なのに死兵の顔をしていたと聞いた。


 この周辺の領主はすでにユニコーン狩りをして、失敗していたらしい。

 だから成功するとは思わず他国からのユニコーン狩りを止めなかったんだとか。


「私たちなら仔馬を連れた母馬のユニコーンは狙わないのに」

「そうなの?」

「子育て中のユニコーンは発情期に次ぐ凶暴さを発揮します」

「へー」


 感心したら微妙な顔された。

 うん、知ってる。

 自分のことなのに僕何も知らないんだよね。

 発情期が凶暴って言うのも今知った。


「狙うなら仔馬を産んですぐの体力のない時って、あ…………」

「ブランカ、馬鹿」

「いや、いいよ。人間のやり方知れるし」


 シアナスは僕の言葉に絶句する。

 なんで?


「本当に恐ろしい方ですね」

「フォーレン、、その、復讐とか考えてる?」

「別に? あの後どうなったか知りたいだけだよ。気持ちに整理をつけたいっていうか」


 咳払いしたシアナスは、真面目な顔で頷いた。


「結局情報を聞いて回る間も赤くはならず、冷静さを保っているのは確かに拝見しました」

「あ、妙に目が合うなと思ってたら、僕が怒るかどうかみてたんだね」

「赤くはなるんだよね、フォーレン?」

「僕も聞いた話だけど、瞳の下半分が赤くなってたって」


 近くでその瞬間を見ていたアルフとゴーゴンがそう言っていた。


「やはり同行しましょうか?」

「シアナス?」

「あなたは賢く理性的です。ですが同時に純粋で子供らしい。実際に母親の死を前にした時、どのような行動に出るか想像がつきません」

「先輩、フォーレンなら大丈夫ですよ」


 楽観的で僕を信頼してくれるブランカとは対照的に、シアナスは何処までも冷静だった。

 だからこそ僕も思う。


「ごめんね、これは僕が向き合わなきゃいけないことなんだ」

「…………そうですか」

「先輩、フォーレンのことまだ怖いですか?」

「そうじゃないわ、ブランカ。頭から信じて不手際があってはいけないでしょう」


 かつて無実の獣人を手にかけてしまったシアナスは、そのこと気にして念を入れたのかな?


「フォーレン、あなたの気持ちは汲みます。ですがこのことは団長に報告をしますので、了承してください」

「うん、それくらい全然いいよ」

「もし団長が必要と判断すれば、あなたの元へ戻ります」

「あ、なるほど。二人じゃ僕を止められないから応援連れてくるんだね」

「そう思っていただいて結構。できれば場所を特定できるよう手を講じていただきたいのですが」


 目立つ顔だから、フードを脱いで歩けばよそ者の美少女ですぐ見つかるとは思う。

 けどそれは避けたい。僕だって男だ。その捜され方は恥ずかしい。


「あ、冒険者組合に何処にいるって報せておくのはどう?」


 僕は金羊毛と作ったエルフの冒険者、フォーとして追ってもらうことにした。


隔日更新

次回:悪人で学ぶ

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