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189話:第三勢力

「というわけで、戦争の邪魔することにしたよ」

「えーと、どういうわけなのかな?」


 僕の報告に熊の獣人であるベルントは困り顔になった。

 相変わらず小妖精の姿でアルフもいて、ベルントは考え込む。


 僕たちが獣人の国の境に居たらルイユが見つけてくれたから、ベルントを呼んでもらって今に至る。


「このところ色々やっていたのは介入のためなんだね」


 結論に至ったベルントは、太い指で頬を掻く。


「回りくどいってグライフにも言われたから、簡単に済ませようと思って」

「だからその宣戦布告かい?」

「宣戦布告のつもりはないよ。だって止めたいのは流浪の民だもの」


 流浪の民が悪魔召喚のために戦争をさせている可能性がある。

 そして悪魔が召喚されればアルフが襲われるだろう。

 だったら戦争止めて悪魔召喚の阻止を狙う。


 獣人も人間も敵じゃないけど、推測で動いてる僕は邪魔者ではあるだろう。


「すでにエフェンデルラントには通告済みと言ったね。それは戦線の将軍にも伝わってると思っていいのかな?」

「うーん、どれだけ伝わるかはわからないなぁ」

「守護者の君が見込んだ相手の名前は?」

「一応言わない。僕が話持って行った時点で疲れてたから」


 ベルントはそこで退くけど、目はアルフに向けられていた。


「妖精王さまも同じお考えで?」

「いや、俺は傍観でいいと思ったんだけどさ」

「では」

「けど俺のために動くと言ってくれるフォーレン止めるのもな」

「はぁ…………あなたは中立を保つべきでは?」

「フォーレンが言うとおりお前たちに対しては中立さ」

「詭弁ですね」


 責めるように言いながら、ベルントは悩ましげに頭を押さえる。


「直接攻撃はしない。けれど戦争を始めたら止める動きをする。そういうことですね?」

「その時、お前たちが攻撃してくるなら敵対行動と見なす、も追加な」

「酷い理屈だ」


 ベルントがいっそ笑うと、横で聞いていたルイユは不安そうな顔で自身の将軍を見上げる。


「獣王さまにお伝えはしましょう。ただ納得なさるかは保証できない」

「いいよ」

「…………ヴォルフィは、たぶん」


 呟くベルントの言葉は良く聞こえなかったけど、まぁ、想像はつく。


 介入を告げてから翌日、さっそく開戦があったので、僕は戦場の真ん中にユニコーン姿で走り込んだ。


「こっちだよー」

「待てこら馬ー!」


 僕の後ろを追い駆けるのは人狼。

 人間からは吠え猛る獣二人にしか見えないみたいで悲鳴が上がる。

 獣人たちからは人狼が遊ばれている状況がわかって、怒りの遠吠えが響いた。


 当の人狼は諦め悪い性格から、追いつけない僕の後ろをひたすら走って戦争の邪魔をする。


「邪魔だ貴様ら! いい加減にしろ!」


 そして予想どおり、怒ったヴォルフィが獣人の戦陣から飛び出してきた。

 途端に人狼が止まる。なんでだろう?


「おう、俺と番おうぜ!」

「黙れこの負け犬!」


 僕が怒られるかと思ったら、ヴォルフィは人狼に怒鳴った。

 番うって結婚の申し込み?

 そういう関係なの?


「貴様、仔馬如きに利用されて恥を知れ! とっとと散れ散れ!」


 僕に手を出さなければ妖精王への宣戦布告にはならないから、ヴォルフィは人狼を追い払う作戦のようだった。


「もう、遅いなぁ。本気で走ってる?」

「俺の本気はまだまだこれからだ! うぉー!」

「戦場で遊ぶな馬鹿ども!」


 それから、開戦しようとする度に走り回ることが定着した。

 僕を人狼が追いかけ、人狼をヴォルフィが追いかける。


「お、今日も会えて嬉しいぜ! 俺と番う気になったか?」

「嬉しくなどないわ! 寝言は寝て言え! なんだったらここで永眠させてやる!」


 そして人狼とヴォルフィの喧嘩になるまでが一連の流れだ。

 僕は見てるだけ。

 その間エフェンデルラントも動かないのは、サンデル=ファザスがちゃんと情報を伝えられたからかな?


 ただヴォルフィを狙って動こうという気配があるんだよね。


「ふん、熱心に走り回っていると思えば、つまらんな」

「グライフ」


 開戦せず両軍が退く姿を見送っていたら、上からグライフがやってきた。


「貴様を狙う気骨のある者はおらんのか」

「ヴォルフィがグライフも邪魔って言ってたよ。見つかったら今度は君が追い駆けられるかもね」

「なんだ、邪魔をするなら俺も退かせてみるくらいは言わんのか仔馬?」

「怪我人相手にそんなことしないよ。獣人のほうには勝手について来てるだけだからそっちで好きにしてって言っておいた」

「やはりつまらん。鳥の獣人どもがうろつくだけだったぞ」


 喧嘩相手は獣人でもいいの?

 うーん、迷惑。


 連れだって館へ歩くと、ユニコーンとグリフォンなせいか獣人は誰も寄ってこない。


「このまま戦争やめないかな?」

「無理だな」


 僕の呟きをグライフははっきり否定する。


「獣人は森に住む限り妖精の守護者などと号する貴様を無視はできん。だが人間には退くほどの理由にはならん」

「冬になったら諦めるかと思ったんだけど駄目かぁ。どうしたらいいと思う?」

「ふん、獣人に向けられている戦意を自らに引きつけるのだな」

「嫌だー。そんな危ないことしたくないよ」


 僕の弱気にグライフは怒ることなく笑う。


「人間は短い命に相応しく、堪え性がない。近く貴様を狙う者が出るだろう」

「グライフに堪え性がないって言われるなんて」

「なんだと仔馬?」


 あいた、痛めてるくせに羽根で打たないでよ。

 っていうか、僕が人間に襲われるとわかってて笑うってひどいなぁ。


「貴様と人間など勝敗を予想する必要もない。俺はわざわざここまで出向く価値もなかろう。獣人にはそう言っておけ」


 どうやら目で見て先の予想がついたから、興味を失くしたらしかった。


 それから数日、また人狼と追いかけっこで邪魔をしていると、その日はエフェンデルラント側の動きが違った。


「また貴様らか! いい加減に飽きろ!」

「こいつ追い駆けるとお前に会えるからな! 飽きない!」

「その沸いた頭かち割ってやる!」

「熱烈だな! 美人は怒っていても魅力的だぜ!」


 どうやらヴォルフィ、人狼的には美人らしい。

 人狼の片思いの熱烈アピールからのこの流れ、飽きはしないけどやり方変えたほうがいいんじゃないかと人狼を見ていて思う。


 なんて楽観していたら、エフェンデルラントから金属音が立った。

 見ると僕たちの頭上に巨大な金網が投擲されている。


「今だ、槍構え!」


 金網を受けると、槍を構えた一団が殺到してきた。

 うわ、怖。


(アルフ、これって攻撃と思っていい?)

(ヴォルフィ狙った巻き添えって言い訳されるかもしれないな。シュティフィーの加護あるし一応受けてくれ、フォーレン)

(あーあ、本当にグライフの言うとおりになっちゃった)


 僕はあえて動かず槍に当たる。

 ヴォルフィと人狼は金網の中で槍を掴んで、逆に兵士を押し返した。

 そして僕に槍が刺さらないことで、前列の兵士は全て足を止める。


「代わりにシュティフィーが傷つくと思うとなんだかな」


 僕は風の魔法を補助にして、角で金網を押し上げる。

 適当に角に絡めてコンパクトにすると、蹴って兵士の上へ返した。


「金網から解放されたぞ! ひ、退け!」

「お、おい! あれはなんだ!?」


 槍隊の後ろが騒いで指す方向は森の奥。

 現われたのは幻想的な光の群れだった。

 その異変に獣人たちも気づいて出撃準備をやめる。


 光の群れは列になって道を作る。その中央を歩いて出てくる偉丈夫がいた。

 妖精王アルベリヒ。

 アルフは元の姿で妖精を引き連れ、堂々とやって来る。


「人間たち、俺の友人に武器を向けた今、お前たちは森の敵となった」


 決して大声ではない宣戦布告に、エフェンデルラントは大騒ぎに陥った。

 その中で前に出ようと動く者がいる。

 どうやら金羊毛のようだ。

 けれど退くか進むかで指示が上手くいかなくなったエフェンデルラント軍の中、思うように進めないらしい。


 何か言ってると思ったけど、僕の耳には無視できない咆哮が聞こえる。

 人狼を踏みつけたヴォルフィが、僕の近くで怒りの声を上げていた。


隔日更新

次回:呪いの一矢

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