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181話:ダークエルフに相談する

 というわけで、僕たちはこのまま帰るのもなんだからと次の相談相手を尋ねた。

 やって来たのはダークエルフの村。


「つまり罠の心得かな?」


 ダークエルフのスヴァルトは、簡単な説明をそうまとめた。

 人化して家の中にいる僕は、そんなものだと頷く。


「罠としては食いつく餌を用意するのは基本だが」

「駄目だったよ」

「以前同じことをしたからなのよ」


 自分を餌にしたことを伝える間に、ティーナが勢いよく入室して来た。


「守護者どの! お城の案を見てちょうだい! 力作よ!」

「こら、ティーナ。挨拶もせず何を言ってるんだ」

「それはいいんだけど、お城の話はみんなで集まってからって言ったでしょ」


 プレゼン資料を僕に突きつけるティーナは、オッドアイの目で拗ねたように横を向く。

 獣人のほうが大変で、ルイユも手が離せないためお城のプレゼン会議はできてない。


 誤魔化すように、ティーナは僕の用件を聞いてやる気を見せた。


「落としどころさえあればうやむやにしても戦争は終われるわ」

「確かにそうだが、単に自分のやりたいことのためだろう。早く終わらせても、終わり方が悪ければ手が空かないこともあるのは身をもって知っているはずだ」

「否定はしないけど、早期終結はみんなのためにもなるでしょ。相手を誘っての介入なんて回りくどいことをする必要性をあまり感じないわ」


 もしかしてティーナって相当好戦的だったりする?


「だいたい獣相手でも基本的に罠だと悟らわせてはいけないのよ。今から準備しても大した罠はできないでしょ」

「そのとおりだが、相手が人間となると悟られる前提で複数の罠を用意する手もある」

「あ、なるほど。人間は考えすぎることがあるから、裏をかくのもいいわね」

「獣相手にはできない手だからな。やってみる価値はあると拙はあると思うぞ」


 えーと、人間相手に罠張るなんてやったことあるの?

 …………あるのか。そう言えば魔王軍のひとだった、ここの村人全員。


「欲を掻き立てられれば悪手とわかっていても行動に移す。要は粗末な罠でもかかるだけの価値があるかどうかではないだろうか」

「いっそ狙いをわかりやすくしてもいいわ。わかりやすい状況を用意して、損失と利益の計算をさせるの。利益が大きいと思わせれば成功よ」


 教えてもらっておいてなんだけど、すごく言い方が悪役っぽいなぁ。

 元魔王軍っていう経歴が僕に色眼鏡をかけてるだけなんだろうけど。


「ユニコーンは駄目と覚えていても他の物なら同じ手で通じる可能性はある、と思う」

「そうね。普段森を探索しないエフェンデルラントの人間が入り込んでるからこそね」

「僕以外に、欲しがりそうな、素材?」


 僕は思わずクローテリアを見る。

 人化して幼女姿を取ると、ドラゴンのように牙を剥いた。


「素材じゃないのよ! 人間の前じゃ庇護欲そそるこの姿でいてやるのよ!」

「まだ何も言ってないよ。それと媚びを売るか威嚇するかどっちかにしたら?」

「今のは視線が能弁だったな」

「本当に素材になれと言ってるわけじゃないんだし、いいじゃないそれくらい」

「嫌なのよ!」


 クローテリアは不機嫌も露わに、幼女姿になっても残る尻尾で床を打つ。


「そうだ、人魚の鱗を持って行くといい」


 罠の餌として光沢のある鱗をスヴァルトは差し出した。

 明かりを受けてパステルカラーに光る紫っぽい鱗はまるでスパンコールだ。


「どうしたの、これ?」

「私たちも加工して装飾品にするものなの」

「魔法の触媒としても使うため拙らは見慣れているが、人間には珍しいものだろう」

「これってもしかしてアーディたちの?」

「あぁ、鱗は生え変わるからな。譲ってもらっている」

「比較的綺麗なものを取って置いてくれるのよ」


 本当に人魚はダークエルフとなら仲がいいらしい。


「餌にしたのばれたら怒られない?」

「森の安寧のためと言えば大丈夫でしょう。人間が無様に引っかかれば喜ぶかもしれないわ」

「人魚たちも獣人と交流があるんだ。獣人が水草の回収をして水質を保っている。戦争で獣人がほとんど来なくなっているから、戦争の終結は望むところだろう」


 どうやらアーディも獣人の戦争は終わらせたいらしい。

 そんな希望を言って来ないのは獣人がアルフの力を借りたくないからだろうな。

 関わるなって言ったり似た者同士なのかも?


「後は魔女の里で欲を掻き立てる香でも調達すればいいだろう」

「あら、ノームの鍛冶屋もいいんじゃないかしら?」

「うん、わかった。行ってみるね」


 僕はアドバイスに従って、ダークエルフの村を出た。


「物好きなのよ。あっちこっち走り回るなんて」

「走るのは好きだし、馬って動いてないと死ぬんだって」

「死ぬ姿が想像できないのよ」

「あれ、クローテリア何処行くの?」

「生きたままはぎ取られかねない所にはいかないなのよ」


 どうやら妖精王の住処へ戻る途中まで僕の背中を使っただけらしい。

 幼女からドラゴンに戻って宙に浮く。


「戻るの? グライフいるけど大丈夫?」

「グリフォンのいないほうの館にいるのよ」


 クローテリアと別れた僕は、近いノームのほうから行くことにした。


「ふぉごひょひょ」

「そういうことでしたら、こちらの剣をどうぞと言ってます」


 快く話を受け入れてくれたノームのアングロスとフレーゲルは一振りの剣を差し出した。


「なんか今、アングロス笑わなかった?」

「その、罠と知っても手を伸ばさずにはいられない逸品だと、上機嫌なもので」

「え、いいの? そんなのもらって。盗られるかもしれないんだよ?」

「ぶもっふ、望むところじゃい!」

「僕たち造りはしますが使いませんから。それにだいぶ古い意匠で売り物には出せないんです」

「そう? じゃ、ありがたく」


 僕はノームの剣をもらって、魔女の里までもう一走りした。


「うちも獣人さんたちと行き来ができなくて困ってたので、協力させてもらいましょう」


 マーリエを尋ねたらまた長の所に連れて来られて、里全体で協力してくれることになる。


「エフェンデルラントの人はどんな薬を欲しがってるかわかりますか?」

「わからないなぁ。えっと、欲を掻き立てる香ってある?」


 マーリエに応えていると、祖母の長老が物を持ってきた。


「罠が複数となれば、あり物で良かろう」

「わ、こんなに?」


 傷薬から惚れ薬、護符や壷にナイフやアクセサリーまでが雑多に置かれる。


「どうぞ、必要なだけお持ちください。香の匂いつけもこちらでいたしましょう」


 里長も了承して、兵士が欲しがりそうな物を厳選してくれた。


「よし、仕掛けてくるね!」


 僕は魔女の里から獣人の国と森の境を中心に餌となる物品を配置していく。

 一つにつき一人の妖精に頼んで、人間が釣られてやって来たら報せてもらうことにする。

 そんな罠を六ケ所。来ない日には二つずつ罠を増やしていった。


「来た来た! 来たよ!」

「フォーレン、罠にかかったわ」


 シルフのニーナとネーナが僕に獲物がかかったことを教えてくれた。

 行く先はノームの剣を設置したところ。やっぱり兵士は武器かぁ。


 勇んで行った僕は、また踵を返すことになる。


「あ…………」


 また金羊毛がいた。


「おい、お前ら。絶対に手を出すな」

「後退だ…………」

「これ駄目っすよ」


 兵士はお宝を前にざわつくけれど、鈍い反応にウラが怒鳴った。


「命が惜しけりゃ逃げるんだよー!」


 どすの効いた号令に、兵士たちは反射的に逃走する。

 結局ノームの剣には手を出さず、他の罠も数日設置してみたけど成果なし。

 結局罠に使った物は野ざらしで痛むため回収した。


「上手くいかないなぁ」

「だろー?」


 回収した物を並べた僕に、アルフが胸を張って同意する。


「なんでも思い通りにいかないし、思わぬ結果になるもんなんだよ」


 ちなみにまだアルフの姿で、僕の顔の周りをひらひらしてる。

 怪我したままのグライフは、伏せながら飛び回るアルフを目で追ってた。

 その内アルフを叩き落としそうだ。


「貴様は回りくどいのだ、仔馬」

「そうかなぁ?」

「そのノームの剣も結局は獣人がかかったのだろう?」

「うん。なかなか返してくれなくて困った」

「その時点で獣人を蹴り飛ばして宣戦布告すれば良かったのだ」

「いやいや…………それもありだね」


 グライフに指摘されるまで気づかなかった。

 あ、でも同じ森に棲む獣人と諍い起こすよりも人間を相手にするほうが後腐れはないのかな?


 僕が考え込むと羽根の音がした。

 グライフはいるからゴーゴンの誰かだ。


「失礼いたします。フォーレンにお客がきていますよ」

「メディサ。え、僕に?」

「すでにこちらへ来ております」


 足音がした方向を見れば、気まずそうにやって来たのは金羊毛だった。


毎日更新

次回:金羊毛の駄目だし

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