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176話:飛び込むのがデフォ

他視点入り

「ト、トラウエンさま! 大変でございます!」

「声が高い。いつでも冷静にいるように。それが我が族の拝する方のお考えだよ」


 僕は族長の子としてそう窘めたけれど、報告を聞いて飛び込んで来た同朋への評価を改める。

 きちんと大変だと伝えた冷静さを評価するべきだったと。


「…………エフェンデルラントにユニコーンとグリフォン?」


 信じがたいの一言に尽きる。

 とは言え見間違うような存在でもない。ここで問うべきは一つ。


「本当に森から現れたユニコーンとグリフォンかい?」

「それが…………森から現れたと言う者もいれば、森に消えて行ったと言う者もおり、どちらかが錯誤である可能性は捨てきれません」

「エフェンデルラントでも情報は錯綜してるのか。王都に凶獣が二種も現れたならそうもなるか」

「争っていたようだとの報告も同朋から上がっております」

「元より捕食関係だからないことではないだろう。どんな風だったと?」

「グリフォンがユニコーンを襲っていたところ、ユニコーンのほうも反撃をしていたと」


 この周辺で現れるなら妖精王の下にいる二体か?

 けれどそれが争っていたとはどういうことだろう?


「森に消えたかどうかが問題だね。詳しく調べてくれ。城に出入りしている同朋にも情報収集の命令を出し、エフェンデルラント側の動きに注意を払ってくれ」

「それが、第一報はその城にいる者たちでして」


 また訳のわからない状況になった。

 何故城から第一報が?

 まさかユニコーンとグリフォンが城を襲ったわけでもないだろうに。


「エフェンデルラントの王都に現れたと言っていなかったかい? 確か城のほうには例の砲台と森を害する毒を融通したはずだね」

「はい。獣人対策と偽り、毒の売買は成功しましたが、砲台は慣れぬ武器であるとして保留に。後は軍と共に森に入り規定数の毒を撒き、妖精を悪妖精に反転させる手はずです」

「それがどうしてユニコーンとグリフォンの目撃に繋がるのかな?」

「いえ、グリフォンです。グリフォンが猛った様子で城に押し入って来たそうで」

「なんだい、それは…………?」


 ユニコーンを獲物として追うならわかる。

 なんで人間の城に現れたのか。訳がわからないにもほどがある。


「…………命令の変更をしよう。城にグリフォンを呼び寄せる何かがあったのかもしれない。それを探れ」

「は…………」


 どうしてこんな事件が今起きてしまうのだろう。

 エフェンデルラントを任され、父の目がなくなり動きやすくなったと思ったのに。


 こちらの動きを察した妖精王からの指示でグリフォンが現れた?

 ユニコーンも仲間なら何故争う?

 完全に支配下というわけではない?

 想像ならいくらでも浮かぶ。やはり詳しい情報が欲しい。


「そうだ。目撃されたグリフォンに目立つ傷はあったかい?」

「それが、すでに何者かと争ったような酷い傷だらけだったそうで」

「な、んだそれは…………?」


 また新たな状況が浮かんだ。

 森のグリフォンなら顔の傷で判別がつくはずだったのに。

 何と戦った? 森のグリフォン? ユニコーン?


「…………だったらユニコーンの大きさは?」

「情報はありません。突然街中に現れたとしか、そのまま走り回って暴れていたので、確かに見た者が少なく」

「まさか、誰も何処から入ったか見ていないのか?」

「それなのですが、先に発見されたグリフォンに皆上を見ていたそうで」


 グリフォンの飛来だけでも大変な中、まさか地上からユニコーンが来ているなんて思いもしない、か。

 自分がその場に居合わせたらとんだ悪夢だ。


 もしエルフの国にいたユニコーンとグリフォンなら、人化して街に紛れることもある。

 森への出入りで確証を得ようとすること自体無理な話かもしれない。


「エフェンデルラントでの死者の数は? 身寄りのない死者がいた場合は入れ替わりを」

「それが、一人の死者もいないのです」

「ユニコーンとグリフォンが暴れてかい?」

「はい」


 なおさらわからない。わからなさ過ぎて警戒感が勝る。

 妖精王の支配下だと思っていたこと自体が間違いか?

 それとも種族的に相容れないからこその争い?

 そうなると何故妖精王の目がある森から出たのかがわからなくなる。

 もしや妖精王に対して不満があるのか?


「…………ヴァシリッサはまだエフェンデルラントに入国していないかい?」


 一度東の台地まで来て、また戻って行った油断ならない女。

 今度この国で会う予定なので、いるなら使いたいところだ。


「報告はございません」


 同朋の返答に安堵とも落胆ともつかない息が漏れる。


 ヴァシリッサはコカトリスを融通した。

 何かしらの秘術で幻象種を惑わせ腕を持っているようだ。

 その力なら性質的にユニコーンは駄目でもグリフォンくらい操れないかと思ったのに。

 エルフの国ではドラゴンを配下に置いていた。どうにかあのヴァシリッサの術を修得したいところだ。


「いや、もしもの話など意味はないな」


 呟いて考えをまとめ、同朋に目を向けた。


「ともかく行方を追ってくれ。ただし気取られてはいけない。エフェンデルラントでの作戦に支障をきたすわけにはいかないんだ」

「御意」


 去る同朋を見送って、僕は手を握り締める。

 ここで躓けばダイヤの入手は無理になるかもしれない今、失敗できない。


「死を招かねば…………」


 東の台地に残ったヴェラットも頑張ってる。

 しくじるわけにはいかない。


「…………会いたいな」


 同朋からの報告だけで疲れた。言葉も何もいらない安らぎが欲しい。

 生まれてからこれからも、僕にとって双子の妹だけが心安く信用できる存在だった。






 ベルントに呼ばれて獣人の国に入国した僕たちは、ヴォルフィに見つかり魔王石との関わりを話すことになった。


「なんだそれは…………」


 話を聞き終わり、病み上がりのヴォルフィは疲れたように言って項垂れた。


「なんだって言われても、エイアーナからビーンセイズに行ってやったことと、魔王石奪還?」


 説明しただけなんだけど、何故かヴォルフィはルイユを睨む。

 そしてベルントが大きな体でルイユを庇う。


「君に全て話すと妖精王さまに喧嘩を売りに行くだろう?」

「うわー、なんで俺?」

「貴様が馬鹿なことをして奪われるからに決まっているでしょう!」


 軽いアルフの反応に、怒ったヴォルフィは丁寧な口調を保ちきれていない。


「けどさ、人間の手に渡ってあれだけのこと起きたのに、アルフが持ってる限りはそんなことなかったんでしょ? だったらアルフはちゃんと役目は果たしてたはずだよ」

「フォーレン…………」

「やらかすのは元々の性格だけど」

「フォーレン!?」


 僕の掌返しにアルフはいじけるけど、誰も慰めてあげない。


「だいたい人間との関わりを面倒がるからだ。拒否するなら徹底しろ、羽虫」

「そんなんじゃ妖精としての役割がー」

「いつから妖精の役割が混乱を起こすことになったというのだ? 人間だけならまだいいが、貴様は俺たち幻象種にまで迷惑をかけるであろう。引き篭もるなら大人しくしていろ」


 容赦のないグライフに、ヴォルフィがうんうん頷いている。

 この場に人魚の長のアーディがいてもきっと反応は同じなんだろうなぁ。


「別に引き篭もってるわけじゃねぇよ。五百年前は人間側について中立を守れなかったから一線引こうって妖精女王と決めただけで」

「できてなくない?」

「助けを求めてくるなら手は差し伸べるんだよ、妖精は」


 なるほど。気紛れみたいなものだと思っていたけど、ちゃんとアルフなりに森に入った人間に関わる流儀はあったんだ。


「ともかく魔王石はそっちのダイヤを使ってでもどうにかしていただこう! 我々に関わることなく!」

「使わねーよ。使わないことが一番の封印になるの。だいたい使うだけ精神汚染されるのは妖精も変わらないんだぞ」


 妖精王の介入を嫌がるヴォルフィに、アルフはさらにいじけてしまった。


 あれ? なんか外が騒がしい?

 思わずヴォルフィを見ると、ヴォルフィはベルントと一緒に何かに気づく。

 そして近づく足音に二人は突然扉を押さえ込んだ。


 今度は開くより早かった。

 けど蹴り開けられたのは扉の隣の窓。


「「わー!?」」


 ヴォルフィとベルントが予想外の事態に叫ぶ中、室内に飛び込む影があった。


「何処から入って来てるんですか、あなたは!?」

「そこ下のほうにしか通路のない窓のはずですよね?」


 木戸だった窓を割って入って来たのは、一体のライオン。


「がははは! 我に隠れて密談とは偉くなったな、小僧ども!」


 豪快なライオンは二足で立ってるから獣人。しかも言葉からしてベルントやヴォルフィよりも偉そうだ。


 なんでアルフは僕の後ろに隠れるの?


 伝わってる感情は居心地の悪さ。

 そして獣王という単語だった。


毎日更新

次回:獣人の力試し

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