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165話:彷徨うコカトリス

「クソファザスの野郎! 人使いが荒いにもほどがあんだろ!」

「なんで生きて帰ったのにいきなり仕事に駆り出されなきゃいけないんだい!」

「遺憾…………」

「しかも化け物探しってなんっすか!?」


 金羊毛は元気に愚痴を言っている。

 あ、一人だけ節度を持ってる金羊毛もいた。


「皆さん、サンデル=ファザスさんの機転で軍からの拘束抜け出せたんですから」


 若手のニコルは後援者であるサンデル=ファザスを評価しているようだ。

 どうやら金羊毛、あのサンデル=ファザスという貴族が先約で依頼を入れたから助かったらしい。

 帰ったら軍から疑われるって金羊毛自身が言ってたし、サンデル=ファザスも予見して手を打ったということなんだろう。


 今僕たちは、エノメナをサンデル=ファザスの屋敷に残して、馬車を使い東に向かってる。

 サンデル=ファザスからの依頼は、東から現れた魔物の探索。


「確かに依頼があるってんで拘束は解けたけどよぉ」

「軍からのお咎めもなしだったけどさぁ」

「それでも四時間…………」

「そして向かう先は化け物っすよぉ」


 結局不平不満を口にする仲間に、ニコルも諦めたようだ。

 代わりに僕へと視線を向ける。


「フォーさんは一緒で大丈夫ですか? 登録したと言ってもこんな危険な依頼、無理してつき合わなくてもいいんですよ」

「これでも金羊毛より強いらしいよ、僕」


 冗談めかして答えると、何か言いたげにエックハルトたちが見てくる。

 僕の横に座っていたアルフも苦笑いをしていた。


「フォーレン、人間は絶対その角を避けられないからな? で、当たれば悪魔さえ穴が開くんだぜ?」

「それもそうか。最初から武器の格が違うって感じなんだね」


 細身の僕と冒険者じゃ差があると思ったけど、結局僕は人化しただけで力の差はユニコーンと人間で考えるべきだ。

 そうなると力量は比較にもならないって話らしい。


「なんですか、フォーさん?」

「あ、ニコルには言ってなかったね。僕、妖精連れてるんだ」


 教えると、ニコルはアルフのいない場所をきょろきょろと探す。


「ニコル、見える奴じゃなきゃ無理だって。それより移動中に詳細を話す予定だったろ」


 詳細も聞かずに騒いでいたエックハルトがあからさまに話を逸らした。

 正体を知ってるからこそ、アルフには関わらせない方針かな?


「それでは。まず事の発端は東のほうで水源が汚染される騒ぎでした」


 ニコルが言うには、水源にしてる村々では大騒ぎになったものの、西の森で交戦中の国の中枢にはあまり大きく取り上げられなかったのだとか。

 それで冒険者に依頼が回され、サンデル=ファザスが金羊毛の代わりに依頼を受けた。


「村のほうでも色々調べたそうですけど、理由はわからず。鉱山から金属が混じったのではないかという話になっていました」

「毒の混じった水か。金属となりゃ一生水源が使えなくなるかもな。アーディ辺りだったら大激怒だ」


 地元住民からすれば大問題で、原因究明は幾つもの村や町が協力して人手を出していたとニコルは続ける。


「それで鉱山のほうに原因究明の人員が回されたところ、水辺から離れた鉱山近くで行方不明者が出ました」

「…………食われたか」

「そうです、お頭。最初から痕跡が残ってたらもっと対応も早くなったんでしょうけど」


 化け物探索に依頼が変わったのは、最大の痕跡が発見された三日前から。

 鉱山近くで石化した人間が見つかったそうだ。


「後ろ姿を見た生き残り曰く、巨大な鶏のようだったと」

「正面から見ろってのは無理よね」

「石化する…………」

「コカトリスっすからね」


 行く先にいるのは石化の能力を持った幻象種コカトリス。

 前世の知識で出てくるのはゲームのイラスト? その姿はドラゴンっぽい。

 けれどこの世界のコカトリスは巨大鶏らしい。


「コカトリスってどんな相手なの? 石化は注意しなきゃいけないだろうけど、強いの?」

「そりゃ、でかいし早いし、人間なんて踏まれただけで終わりだからな」

「フォーさん、ドラゴンのような凶暴性を持つ魔物としても有名なのよ」

「猛毒の息…………」

「普通見たら即死っすけど、後ろから行っても毒吐かれて死ぬっす」

「なので討伐ではなく捜索です」


 どっちにしても近づく限り死亡フラグ立つんじゃないの?

 うーん、サンデル=ファザスに怒ってた理由がわかった気がする。


「危険なのはわかったけど、見つけてどうするの? 結局倒すんでしょう?」

「まず大きさ計って、専用武器作って、んで軍で囲むんだよ」


 エックハルトは早くも疲れたように言った。

 そこまで大々的なことをしなければ倒せないコカトリスを、捜しに行けと言われている現状は、つまり本当に露払い?


「直接戦わないならなんで僕は連れて来られたの?」

「解毒じゃね?」

「いや、最悪保険にと思って、はは」


 誤魔化すように乾いた笑いを漏らすエックハルトはアルフの声が聞こえてない。

 けれど言ってることたぶん同じだろうね。

 別にいいけどさ。


「さすがに僕も石化すると思うよ?」


 メディサと初めて言葉を交わした時には死の予兆があったんだし。

 きっと僕は石化したらどうにもならないんだと思う。


「いや、平気だぜフォーレン」

「アルフがどうにかできるの?」

「あぁ、石化って実体ないと無意味なんだよ。精神体には効かない。そして俺はメディサたちの血を持ってる」


 ゴーゴンの血は、石化解除の薬にもなる。

 アルフの四次元ポケットみたいなところに入っているそうだ。

 妖精の小道みたいな能力らしくて、たまに何にもない空間から物を取り出すことがある。


 そう言えば水路で門にされた人たち、未だに助けられたって聞かないなぁ。

 もしかして、血が薬になること知らないとか?


「あの、フォーさん。妖精さまとお話をしているの?」


 ウラに声をかけられ、僕はついでに聞いてみることにした。


「うん、石化を治す薬持ってるって」

「さすがだ…………」

「それでさ、オイセンで石化させられた人たちって、この薬で元に戻せるんだけど、誰も森に取りに来ないんだ。戻せるって知らなかったりする?」

「うへぇ、そんなお宝が眠ってるんすね、森には」


 あ、知らなかった。しかも宝扱いなのか。


「ゴーゴンと人魚が取りに来るの楽しみに待ってるんだ。オイセンの知り合いにでも教えてあげて」

「フォーさん、それ死刑宣告か?」

「あの、着きましたけど、死刑宣告?」


 ニコルが戸惑いながら教えてくれたので、僕はエックハルトに首を横に振るだけで馬車を降りた。

 エフェンデルラントの東。鉱山のある山をこれから上ることになる。


「このまま石化させられた人間が見つかった場所まで進みます」


 地図を持ってるニコルを案内に、ジモンが先頭で警戒をする。

 僕は殿しんがりをするエックハルトに寄って行った。


「死刑宣告じゃないけど罠は用意してるらしいから気をつけてね。それと、後ろの人たちって知り合い?」

「あーえー、さすがに気づくか。知らない奴らだが、まぁ、軍関係かファザスと因縁ある相手からの刺客あたりかなぁと」

「邪魔よね。まぁ、邪魔しに来てるんでしょうけど」


 ウラは敵意を目に光らせてそう笑った。


「じゃ、早めに排除しようか。ついて来てる人、出てこないなら敵とみなすよ。コカトリスを捜してるんだ。足手纏いがいても困る」


 僕が声をかけて止まると、全員の位置に視線を向けた。

 微かな音で居場所はわかってる。

 全部で五人いたんだけど、一人だけが両手を上げて出て来た。


「それじゃ、他は敵だね。無力化させてもらうよ」

「え、ちょ!?」


 出てきた一人が何か言う前に、アルフが僕に答えた。


「ほいほーい! どんな悪人も心を入れ替えるお薬だー!」


 見えないアルフが隠れてる人間たちの頭上からふざけて薬を振りまく。

 うん、碌なことにならない予感がすごい。


 薬がかかると、突然隠れていた四人が飛び出してきた。


「地面に立つのもおこがましいこの身でお呼びにお答えもせず申し訳ありません!」

「同じ空気を吸ってすみません! 今すぐ息の根を止めます!」

「どうぞ踏んでください! 詰ってください! 蔑んでくださいぃ!」

「いっそご褒美です!」


 それぞれに叫んで僕の前に身を投げ出した。

 …………何この惨状?

 あれ、改心ってどういう意味だっけ?


「おい、一人性癖暴露してるぞ」

「ちゃんと聞きなさい、二人よ」


 エックハルトとウラはドン引きしてる。

 そして犠牲になる覚悟で出てきた一人が茫然と仲間の痴態を見ていた。


「な、何があったんですか? え、これフォーさんが?」


 騒ぎに気づいたニコルも驚いて足を止めていた。


「えーと、妖精の悪戯? 妖精って子供並みに純粋で容赦ないところある、から」

「だがこれは…………」

「格の違いってやつっすね。悪戯でこれだけの破壊力って」


 アルフがやったとわかってるジモンとエルマーは目を逸らす。

 ただの妖精ならここまでにはならないようで、出て来た一人が責めるように僕を見た。


「なんだこれ!? あんまりだ!」

「あ、うん。ごめん」


 よく見ると涙目になってる。なんかごめんね。

 僕はアルフを止められなかったことを素直に謝った。


毎日更新

次回:マンティコアは逃げ出した

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